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「あ、ありがとうございます」
秘書のような女性が俺の目の前にカップを置いてくれる。
応接室であっているのだろうか。オーウェンに案内してもらった部屋はそれなりに豪勢な机と椅子が設置されているだけのものだった。
そして今はその机を挟んでお互いに椅子に腰掛けている状態である。
あ、秘書は一礼をして退出したので今は二人きりだ。
「カイロンで作った紅茶だ。口に合うといいんだが」
カイロンというのが葉の名前なのか地域の名前なのか判断がつかないが、話を始める前に一息入れようということか。
すぐさま本題に入らないあたり、もう完全にいつも通りの冷静さを取り戻しているのだろう。
やはり先ほどまでの取り乱し様は相当レアだったようだな。
薦められるまま紅茶を口へと運ぶ。
あまり紅茶は飲まない俺だが、日本で飲むタイプとあまり違わない印象だ。
口当たりと風味で高級感があることだけはわかる。
オーウェンはその様子に満足したのか、話を切り出した。
「アキラ君、でいいかな?」
「はい」
「ではアキラ君、単刀直入に訊こう。ジャイアントワームを討伐したのは君なのかい?」
「はい」
「見たところ君はブロンズランクのようだが…」
そう言ってオーウェンの視線は俺が首から下げている銅板タグへと注がれる。
「そうですね。登録したのは…一か月ぐらい前ですけど」
「…ジャイアントワームがゴールドランクの、それもパーティで討伐される対象であるというのはご存じかな?」
「はい。でもブロンズランクが倒してはいけないという制約はないですよね。実際俺はクエストを受注してジャイアントワームを狩ったわけではなく、たまたま目の前に現れたので対処しただけです」
「…うむ、もちろん問題はない。それが真実であれば君のランクの昇格と再評価をしたいと思っているのだが、過去にシルバーを飛ばしてゴールドへと上がった者は前例がない。よろしければ、昇格試験は公開での実施としたい。その方が君も後々助かると思うがどうだろう?」
なるほど、敢えて公開試験とすることで批判の声を抑えることができる上、俺に対して突っかかってくる者たちもいなくなるだろうという配慮ということでいいのかな。それならば―
「はい。大丈夫です」
「うむ、ではこちらも準備がある。君に合う試験官も用意せねばならない。一週間後でどうだろうか?」
「わかりました。こちらもその方が都合がいいです」
その後は基本的には質問に答える形だったが―
パーティは組んでないのか?
得意な属性と魔法はなにか?
師はいるのか?
などなど根掘り葉掘りと聞かれる羽目になった。
管理者権限によるものです、などと言うわけにはいけなかったので適当に返答したが、オーウェンを納得することができたかは不明だ。
だが、オーウェン自体は俺の実力?に対して最初から疑って掛かるタイプではなかったようなので、
談笑を挟みながら和やかな雰囲気で解散と相成った。
一週間後の試験内容にもよるが、ここで如何に目立つかが重要になってくる。
怪我どころかダメージを食らう身体ですらないため、そこをどう誤魔化しながら説得力を持たせるか…。
考えるだけで気が滅入る。
体術や身のこなしなんかで素人だということがバレないよう祈りながら、本日のバイトを終了した。