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神にはああ啖呵を切ったものの俺の足取りはひどく重かった。
だが、授業中にも関わらずそのことで頭をフル回転させて、他の浄化方法を考えるも出てこなかったのだから覚悟を決めるしかない。
本日の訪問先はラグニス王国の首都・ヴァハム。
首都というだけあってトレイタの街とは活気が違う。
入場門から城へと続く大通りには様々な馬車が行き交い、脇には露店が所狭しと立ち並んでいる。
だが、ここで俺の中で一つ疑念が生まれた。
亜人がいない?
イルアースでは人間・魔族の他に亜人が存在している。
魔族はヴァンパイアやサキュバスといった所謂人の形はしていても一般的にモンスターにカテゴライズされる対象とは違い、尻尾が生えていたり、爪や牙が鋭かったり以外は言葉も喋れるし、人間と同じような文化も形成しているとのことだったはずだ。
人口比率も人族よりは少なかったとはいえ、ヴァハムほどの人口密度で一人も見当たらないということがあり得るだろうか…。
なんか、嫌な予感が…。
まあ、とりあえずは今日の目標を果たすことのみを考えよう。
なんだかんだと思考していたことでいつの間にかギルド前だ。そして、やはり大きい。
まずギルドの周りが区画整備されており、修練所のようなものがある。
様々な恰好をしたハンターたちも散見でき、パーティ募集をしている声があちこちから飛び交う。
大学のサークル勧誘みたいだな…。
もちろん俺はパーティに入るつもりはない。
いや、別にぼっちというわけでなくそのほうが都合がいいのだ。
事実、一週間ごとしか姿を現さないメンバーなんて不都合過ぎるだろうし…。
ギルドへと入場するとまずは酒場が広がっていた。
ホールスタッフが忙しそうに駆け回り、丸い木卓を囲む屈強な男たちは手に手にエールを持ち、留まることを知らない乾杯を繰り返している。
まだ日も高いというのにこれほど盛況とは、さすがは王都といったところなのだろうか。
更に奥へと進むとやっとギルドの主要施設が見えてきた。
壁一面にもなるクエストボードにも驚くが、受付カウンターが5カ所もあるところも王都クオリティーか。
ほかには素材の買い取り、ちょっとした武器・防具屋なんかもあるようだ。
俺が用があるのは解体カウンター。
空いているようだったので足を進め、声を掛ける。
「あの、すみません…」
「はいよ、モンスターの解体ならキロ単位だ。種類を言ってそこの秤はかりに乗せな」
対応してくれたのは髭を蓄え、ボディビルダーと見紛う程の筋肉量をした偉丈夫。
ベテランの解体士であることを象徴するかのような血糊が完全に落とし切れていない前掛けを身に着けている。
今までの人生で接点がなかったタイプの男だが、俺は意を決して口を開いた。
「ジャイアントワームです」
「は?なんだって」
「ジャイアントワームです!」
このジャイアントワームというのは、二日前に俺が狩猟して異空間収納アイテムボックスにいれていたものだ。
全長30メートルもあり、ゴールドランク以上でないと討伐許可が出ないほどの危険度の高いモンスターである。
確か、砂漠で行商人が行方不明になっている原因の調査依頼をこなした時の戦利品?だ。
その場に放置しても良かったのだが、何となくこのサイズがアイテムボックスに収納可能なのか試したところできちゃったのでそのまま持ち帰ったのだ。
まさかここで使うことになるとは思いもよらなかったが。
一拍を置き、ドッ―とギルド中が爆笑に包まれる。
「おいおいおい、お前さんジャイアントワームを倒したって?首から下げているタグを金色に染め直してから出直してくるんだな」
「ミミズの解体はここではやってくれませんよー」
「坊主、冗談を言うものではないな」
わかっていたことではあったが、辺りにいるハンターたちから嘲笑や怒号を向けられる。が、ここで折れてはいけない。俺TUEEEの難所はここだと判断して必死に体裁を繕う。
「あんた、本気で言ってるんだったらここよりも医者を―」
「なんでしたら今すぐそこの秤に乗せましょうか?キッチンで使用するのよりは大きいみたいですがギルド内で圧死者が出ても知りませんよ」
セリフを遮りながら俺は言葉を繋いだ。
秤は実際、象ぐらいなら軽々と計量できるほどの大きさはあるようだが30メートルを超す獲物は到底不可能であろう。
解体士の男は見定めるように俺の目をじっと凝視すると、諦めたように溜息を漏らした。
「奥に解体場がある。そこで見してみな」
どうやらとりあえずは鑑定してくれるようだ。
俺は黙って男についていく。
後ろに大量の見物人を引き連れて―。