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レッドドラゴンを見つけたのは偶然だった。


ここ最近森の様子がおかしかったのはこいつが原因で間違いない。


北方の山脈にしか生息していないとされる生態系の頂点がこんなところにいることに驚きを隠せないが、今はちょうど睡眠をとっているようだ。


反射的に弓を構えてはしまったが、事態は狩人はおろか、そこら辺のハンター達がどうにかしてくれる案件を遥かに上回っている…。


できることは村に情報を持ち帰ること、それだけだ。



冷静に、冷静にだ―。



ゆっくりと後退りした足の下で枯れ枝が乾いた音を立てて弾けた。


一気に心臓が早鐘を打つ。


ゆっくりと顔を上げると、そこにはドラゴンの見開かれた巨大な眼。



その瞳に家で帰りを待ち侘びる娘の姿が見えた―。



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



眠りを邪魔されたと感じたドラゴンの口からは火炎が漏れ出しており、今にもこの不届き者を焼き尽くさんと攻撃態勢に入っている。


一方の男も、冷や汗を流しながらではあるが弓を下すことなく真正面からドラゴンに対峙していた。



これはまずい…。



一触即発なのは一目瞭然。


猶予は引き絞られた矢が、男の腕の限界かはたまた緊張に耐えられずに放つ瞬間までであろう。


考えている余裕はない。


すべきはドラゴンの始末、一択だ。


俺は右腕を勢いよく振り下ろす。と、同時に一陣の風が辺りの木々を薙いだ。


刹那―



「グォ…?」



ドラゴンからしてみたら何が起こったのかわからないであろう。


一瞬にして頭と胴体が切断されたのだから。


それを表すかのように頭が先に地面へと堕ち、一拍を置いてその巨大な躯体が音をたてて倒れ伏した。


俺は改めてドラゴンに黙祷を捧げる。



魂は人のみに与えられたものではない。動物はもちろん、モンスター、虫、植物に至るまで全てに宿っている。


ただどうしても穢れというのは、感情による部分が大きい。


負の感情―憎しみ、嫉妬、怒り、無念。そういったものは人間が多く所持しているものだ。


魂の穢れを無くさなければならないバイトの内容上、どちらを取らなければならないのかは言わずもがな。


だが、命を選択しているようで一般人である俺には既に荷が重く感じていた。



と、そこで放心状態であった男の弓が静かに下ろされる。


なにが起こったのかはわからないが、現場を確認しようとしているみたいだ。


透明な上に、匂いや音までもほぼ遮断している俺を認知することは不可能であろうが、何度かこちらを伺おうとしているのは風の吹いてきた方角だからだろう。


人に討伐の瞬間を見られてしまったことは計算外ではあったが、特に問題はない。


一応は森の異変の元凶は排除できたことだし。


そう考えた俺はテレポートを使いその場を後にした。




―翌日―




といっても俺にとっては次の日の放課後で間違いないのだが、イルアースでは時間の流れが違うらしい。


昨日と同じく、クエストボードを確認しようとギルドに入るとハンターたちが噂話に花を咲かせていた。



なんでも―



一週間前にガリタ村の森でレッドドラゴンの死体が見つかった。


村の狩人が凄腕のハンターが風魔法を使って討伐した瞬間を目撃した。



などといったものだ。



結構な騒ぎになっており、レッドドラゴンがいかにこの世界において脅威となる存在なのかということを示している。


それにしても、ドラゴンを討伐したのが凄腕のハンターとなっていたことにはビックリした。


自分の存在は間違いなく悟られてはいないはずだ。


噂話が尾ひれをつけていった結果、真実とほぼ相違ない内容になってしまったということだろうか。



狩人さんも自分が倒しましたぐらい言ってくれればいいのに…。



今後はより注意しなければなるまい。


私には関係ありませんよー、といった顔をしながらクエストボードに貼られた内容を見分していく。


そして、都合の良いクエストを選別。



ギルドを出て、今日もバイトに勤しむのであった。

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