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「おかえりなさい」


「…ただいま」



木の軋む音を立てながら扉を開けると、妻がタオルを携えながら出迎えてくれた。



「やっぱり今日も…?」


「ああ…、どこを探しても足跡ひとつ見つからん、まだ秋口だってのにこんなことは今までなかった」


「…そう」



これでほぼ一か月以上も獲物なしの生活を強いている妻には申し訳ないが、こればっかりはどうしようもない。


村長はギルドへの依頼は提出済みだということだったが、あれっぽっちの報酬で来てくれるハンターがいるかどうか…。


そもそもハンターが原因を突き止められない可能性だってある。


森の生態系が変わってしまうほどのモンスターが住み着いていた場合は、討伐報酬だって上乗せだ。


この村にそれほどの体力はない…。



「どうするか…」


「あなた、お腹空いたでしょ。準備するから居間で待ってて」


つい漏れてしまった弱音を聞き逃してくれた妻に感謝しつつ狩猟道具を片付け、部屋着へと着替える。


と―、



「ぱぁぱ、おかえぃ」


「おお!ただいまー、元気にしてたか―」



今度は我が家の一番の癒し担当である娘が出迎えてくれた。


日課である高い高ーいと頬ずりも忘れない。


キャッキャッと喜んでくれる娘を前に疲れも吹っ飛ぶ。



「あなた、早く席についてくださいな」



家族三人で囲む食卓、こんな幸せなことはない。


俺がなんとかしねーと…。



―娘を膝に乗せ、優し気な表情を浮かべていた一方、男の瞳は決意に満ちていた―



☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★



「うーん…、全く生体反応がないな」



ガリタ村北東に木材確保の為に植樹された針葉樹林帯。その更に奥。


もはや現代でいうところのジャングルに近しいほど鬱蒼とした場所に俺は佇んでいた。


権限によって周囲の生体反応を感知するようにしているのだが、モンスターはおろかウサギ一匹引っ掛からない。


こうなったらもっと範囲を広げるしかない。ということで、俺は索敵距離を徐々に拡大していく。



―ピコーン―



頭の中に響くアラート。


およそ5キロ先に赤いシルエットで協調表示された何かを捉えることができた。


続けて視力を弄り、ズームモードへと移行。


本来であれば木々が遮るはずだった視界もクリアに見え、その正体を明らかにする。



「なんだあれ…、トカゲ?いや―」



体長10メートルほどで赤い鱗に覆われた体躯。その背中から伸びる二対の翼。


ゲームやアニメでしか見たことがないがあれは―



「ドラゴンだ…」



100人が見たら100人がドラゴンだと言わんばかりのビジュアルと貫録を醸し出している。


ファンタジーの王様といっても過言ではない存在の出現に興奮を覚えるが、こういう時こそ冷静にだ。


あいつがここ一帯の生態系を変えるに至ったイレギュラーであることは想像に難くない。


憶測ではあるのだが、周囲を住処にしていた動物やモンスターはこの世界のヒエラルキーの頂点であるドラゴンの来訪に恐れをなし、去って行ってしまったのであろう。


だが、問題の張本人はそんなことは露ほども気にかけた様子もなく、巨大な身体を丸めてお休み中のようだ。



これを討伐するのか?



権限という名のチート能力があればドラゴンだろうと対処することは容易なはずだ。


動物愛護などという現代の精神で追い払ったところで、また違う地域の生態系を脅かしてしまうことは明白。



ここはやるしかない。



そうと決めると俺はドラゴンの寝床へとテレポートによって接近する。


別に近距離でないといけないというわけではない。


せっかくドラゴンに出会えたのだから少しぐらいは間近で観測しても良いだろうという好奇心が勝ってしまったのだ。


自身の体の透明化と嗅覚も優れているだろうとの判断で体臭の無効化を施す。


あとは、草木を踏んで音を出さないように宙に浮きつつ準備完了。



眼前で堂々と眠りこけるドラゴンを舐めるように観察する。



我の前に敵はなし、と言わんばかりの大きな寝息を立て、そのリラックス振りも斯くやといったところ。


見れば見るほど現代の動物とはかけ離れており、その神秘的にも感じる姿に惚れ惚れする。が、異世界平和のためだ。


これ以上は情が移ってしまうと判断し、観察を中断して距離をとる。



あまり近くでやっちゃうとね…ほら、血とかさ…。



ドラゴンに無言で手を合わせ、いざ―。



「グルゥ…」



あれ?起きた?



寝ているところを楽にしてあげたいという思惑は崩れ去ってしまったが、そもそもなぜ目覚めてしまったのだろうか。


その正体はドラゴンの視線の先にあった。



男?



狩人と思わしき男が木影からドラゴンに向かって弓を引いていたのだ。


その時自分のミスに気付く。



索敵範囲切っちゃってた―と。


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