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「なんでなんじゃ!なんでなんじゃよー」



神との邂逅を果たしてから1か月、俺は夜な夜な夢に現れ、涙ながらに説得してくるジジイに辟易としていた。



「なんでもなにも、拒否権あるってあなたが言ったんじゃないですか。記憶消してくれるって約束だったはずですけど」


「お主ほどの逸材はおらんのじゃ。頭も運動も人並みかそれ以上、良識もあり、環境適応能力の高さとちょっとしたことでは動じないメンタルの強さ。パワ〇ロでいったらオールBみたいなステータスしとるんじゃからー!」


「別に俺は自分が他人より優れているとは思っていませんよ。むしろなぜそんなに俺に固執するんです?」


「確かにお主より優れておる者もおるにはおる。じゃが性格に難があったり、充実した私生活を送っておったりでどれも勧誘に失敗したんじゃ」



俺の人生は充実していないかのような物言いだな、おい。



「だってお主、特別親しい友人もいないわ、交際相手もいない。両親との仲も悪くもなければ良くもないっていうこの世にさほど未練がなさそうな生活を送っておるじゃろ?」



うるさいわ。別にいいだろうよ、波風の立たない人生だって。



「異世界で望むものを言ってくれれば最大限譲歩する。あれだけ説明させたんじゃ、少しは興味があるんじゃろ?」


「まあ、ないわけではないですよ。ただ、リスクより安定をとるタイプなんで」


「くっ…、わかった」


「わかってくれましたか」


「アキラよ、バイトをしてみんか?」


「…は?」



神にバイトを勧められたんだけど。



「これから空いた時間だけでよい。儂が最初に言った異世界で世直しの活動に努めてもらえんか?」


「なんですかそれ?」


「…この際、すべてを語るとしよう」



観念したかのような顔で神はつらつらと語り始めた。



そもそも、自分がこうした活動をしているのは異世界の統治者を探しているためらしい。


それぞれの世界に合った人間を選別、転移させその世界の状況について知った後は、その世界だけを治める神として管理、統治する。


なにそのフランチャイズみたいな経営手段は、と思ったが神自身も世界の数が増えるにつれ、自分一人では手が回らなくなってきたための暫定的措置らしい。


だったら人生経験の多いまともな大人の人に代行神をお願いしてみたら?の意見に対しては、



「精神が大人になりきっていない状態の者が異世界を体験し、成熟した後でないと、神としてその世界事態に受け入れてもらえないんじゃ」



簡単に言うと、親が商店をやっているとする。しかし、稼業を継げるのはその商店によって得たお金で成長することができた息子だけだという認識でいてくれればいいんだと思う。



「ちなみに管理者がいなければどうなるのかを聞いてませんね」


「そこはお主に最初に話した輪廻転生に関わってくる話でもある」


「確か…、同一世界のみでしか転生できないとかいう」


「そうじゃ、世界は輪廻転生をして廻っておる。人が死に、魂となった者は浄化され、また新たな命に宿る。といったものじゃな」



仏教ってあながち間違いでもなかったんだな。



「基本的に魂は真っ白なTシャツのようなものだと思ってくれ。汚れたTシャツはちっとやそっとじゃまた同じ白さには戻らんじゃろ。不幸な最期を遂げた者、世の中を憎みながら死んだ者はまさしくそのTシャツじゃ。魂だって疲弊したら元に戻すのには時間と労力がかかるんじゃ。お主の世界はなんとか均衡を保てておるので、自然な浄化で間に合っているようじゃがの」



ちょっと待てよ…。



「まさかバイトってその魂の洗濯作業を手伝えとかそういう―」


「いいや違う。魂がまず汚れないようにすることが重要じゃ。そもそもわかりやすいようにTシャツで喩たが、専門のクリーニング屋はないと思ってよい。あるのは洗濯機のみで一定以上の穢れはどうしようもないのじゃ」



神なのに?



「魂はデリケートなんじゃ。必要以上に干渉すると今度はほつれたり、破けたりしてしまう。まあ、あまりにも状態が悪いと一部処分したりといったことはあるがのう」



今さり気なく怖いこと言ったような…。



「お主に行ってもらいたかった異世界―めんどくさいからイルアースと呼ぶが―そこは、絶え間なく続く戦争とモンスターによる被害によって浄化作用が追い付いていない状態じゃ」



確かに戦死って未練しか残らないだろうし、その分穢れが多くなるのもわからなくはない。



「それって放置した場合…」


「魂のバランスが壊れ、滅びゆくだけじゃ」



えぇ…、責任重大じゃん。



「お主にはイルアースに蔓延るモンスターの間引きと戦争の終結をやってほしいのじゃ」



いや、前半はもしかしたらスキルでどうにかなるかもしれんけど、後半は無理でしょ。



「スキルではなく一部管理者権限の貸与を考えておる、危険はないと言ってもよい。学校が終わった後や、休みの日にちょこちょこって感じでよいんじゃ。頼む!」



バイト感覚で救われる世界ってなんだろ…。



「…俺のメリットってあります?」


「世界を救った英雄としてイルアースで永遠に語り継がれ―待ってくれ!冗談じゃ、そのような顔で見るな。…お主の人生を大きく変えるわけにはいかんからのう…」



そう言って頭を抱える神。


いや俺だって今を時めく男子高校生だ。貴重な青春を誰にも言えないようなことで潰すわけには―



「時給2000円でどうじゃ?」


「よろしくお願いします」



即答だった。

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