惨劇の幕開け 〜 アサルトパイソン 舌先
中洲地帯の上流域にエスカラン軍とウェリアン軍はジリジリと両岸から侵入を始めた。中央付近には、春になってライヤン山脈の雪が解け始めたことで小川ができていた。その位置で銃撃戦が起こったのは一週間のことである。その様子から兵士たちはこの区域をアサルトパイソンと呼ぶようになった。銃撃戦は両軍の想定よりも激しいものとなった。ほぼ同時に両軍は一旦の撤退を決め、現在アサルトパイソン地区は束の間の静寂を保っている。この地域はかなりの田舎であるが、両軍が力を入れているのには理由がある。最上流域にあたるアサルトパイソンを占有することに成功すれば、占有が不安定な中腹を制圧するよりも遥かに大きな利益となるのだ。加えてこの地域はレブリ、バンネルの両首都から遠い田舎であるため、一旦戦力がどちらかに傾いてしまえば、即座に反発するのが困難な地域である。確実な戦果を得る為にもこの戦いを落とすことはできない。両軍とも考えることはほとんど同じであり、近距離ミサイルによって敵駐屯地を叩く作戦に出た。いよいよどちらかのミサイルが発射されるか、といったタイミングでアサルトパイソンは急な豪雨に襲われた。ゲリラ豪雨は通常夏場に発生するもであり、この時期に急な豪雨が発生することは極めて珍しい。それどころか、雨自体がここ数週間降っておらず、まさに巨を突いた天からの攻撃だった。両軍は仕方なくミサイルの発射を一旦諦めた。しかし、その間何もしない訳にはいかない。両軍ともに、敵ミサイルを妨害するジャミングを発生させる簡易的な塔を作り上げた。
数時間後、雨は一気に上がって嘘のような青空になった。しかしすぐ向こうの空にはまたしても真っ黒な雲が流れており、この青空も長く続かないようである。両軍はいざ戦わんとミサイルを発射しようとしたが、ジャミングを受信。自滅という最悪の事態を回避するためにも発射ができなくなってしまった。そこで両軍は互いのジャミングの破壊をすることに決めた。ジャミング発生塔は構造上、根本地上部分にジャミング発生に必要な電波を作るための発電装置がある。その部分を爆破さえして仕舞えば、即座にミサイルの発射が可能になる。また、先にミサイルの発射さえすれば、対ミサイル弾の準備も行うことができ、その後にミサイルを発射されても被害を受けずに済む。つまり、敵軍よりも一刻も早くジャミング塔を爆破する必要があるのだ。ジャミング塔は意図しない自軍のミサイルへの妨害を防ぐために、駐屯地から一定度離れた場所に存在している。その場所は奇しくも両軍同じく駐屯地より南に数キロと決めており、新たな戦地が出来上がったのである。その場所は小川の終着地、アサルトパイソンの舌先である。
軍本部によると、数十分後には再び雨が降る。そうなるといよいよ本国から大々的な攻撃が起こる可能性があるため、占有という選択肢は無くなるかもしれない。兵士は残りの僅かな時間で敵のジャミング塔を破壊せねばならないのだ。