結局はそういう事なのね
「あのっ……!す、すみません!助けてください!わ、私っ……スミス先輩を怒らせちゃったみたいで、先輩にキツい事言われてしまったんですっ……!」
控え目なようで割と不躾なもの言いをしてきた一年女子がそう言って、今にも泣き出しそうな顔をしながらレイターに駆け寄った。
───怒った覚えがまったくないわ……
(面倒くさいとは思ったけど)
メグルカはワケがわからずきょとんとしてしまう。
そんなメグルカにはお構いなしで一年女子は尚もレイターに訴える。
「わ、私はっ……スミス先輩を心配して言っただけなのにっ、せ、先輩が怖いくらいに怒り出してっ……エルンスト先輩、助けてくださいっ……」
その一年女子の言葉を聞き、レイターは目を丸くしてメグルカと一年女子を交互に見た。
そして一年女子に訊ねる。
「……キミは、一年の図書委員なのかな?」
レイターに話し掛けられ、一年女子はパッと表情を明るくさせて答えた。
「は、はい!……あの、わ、私の事、覚えてませんか?以前、エルンスト先輩にハンカチを拾っていただいた事があって……!」
「ハンカチを?俺が?」
レイターの反応はイマイチだが、メグルカにはそれに覚えがあった。
以前、廊下の窓から友人のフィリアと目の当たりにした、人が恋に落ちた瞬間の光景がありありと呼び覚まされる。
一年女子が落としたハンカチをレイターが拾って渡したのだ。
そして過ぎ去るレイターの背中をぽうっと頬を染めて見送っていたのを見たのだった。
───……あぁ、あの時の下級生女子ね。
なるほど。
結局はそういう事かとメグルカは理解した。
メグルカの事を気遣う体を装い、あわよくばレイターとの婚約が無くなればいいと思っての発言だったのだ。
やれやれ、とメグルカは小さくため息を吐いた。
レイターは端的に一年女子に告げる。
「いや、全く覚えてないな」
「そ、そうですか……」
一年女子は明らさまに落胆した表情を浮かべるも、すぐに気を取り直してレイターに言う。
「で、でも丁度いいときに来てくださってありがとうございますっ……私っ……スミス先輩の為を思って言ったのにっ……先輩ったらすごく怒り出して……」
その言葉を受け、レイターは一年女子ではなくメグルカに訊ねた。
「……何を言われたの?」
「人気者でモテるあなたの婚約者なんてやめた方がいいですよ、的な?いつ浮気されるわからない私の立場が気の毒なのだそうよ」
メグルカが肩を竦めながらそう言うと、
「大きなお世話だな」
レイターが呆れた様子を隠さずに言った。
「え?」
一年女子は何を言われたのか理解出来ていないようだ。
そしてレイターが自分の側を離れてメグルカの元へと行くのを唖然として見つめている。
「エルンスト先輩……?」
レイターはメグルカの隣に立ち、一年女子に訊ねた。
「じゃあキミは、メグに俺との婚約を解消しろと勧めたワケなんだな?」
「え、まぁ……はい。だって……」
「俺がいつ浮気するかわからないって?随分低俗な男に見られたもんだな」
口調は変わらず穏やかだけど、明らかに気分を害しているレイターの様子に一年女子は狼狽えた。
「て、低俗だなんて私は思ってません!ただ、スミス先輩はそう思ってて辛い思いをしてるんじゃないかなって。だからいっその事婚約解消したらどうですかって言ったんですっ」
一年女子の言い分を聞き、今度はメグルカに訊く。
「メグ、俺が浮気しそうとか思ってる?メグ以外興味が無いから絶対にしないけど。それで婚約解消して楽になりたいとか思ってる?もし思ってても絶対に離してあげないけど」
メグルカに訊ねてはいるが既に自己完結しているようなレイターのもの言いに吹き出しながらメグルカは答えた。
「ぷ、ふふふ。いいえ。どちらも思ってないわ。レイが浮気するなんて思っていないし、婚約を解消したいとも思っていないから」
「良かった……!」
レイターは心の底から嬉しそうな顔をしてメグルカに微笑んだ。
そしてそれとはまるで別人のように今度は無表情な顔を一年女子に向ける。
「というわけで、全てはキミの勝手な邪推から発展した余計で迷惑なお節介だというワケだ」
「ちがっ……邪推なんかじゃっ……私はエルンスト先輩の事を思って!」
「あら?あなたさっきは私のためと思ってと言っていたわよね?それで私が怒り出したって、そう言っていたわよね?」
「でもっ……だって……それはっ……」
でも、だってを繰り返す一年女子を切り捨てるようにレイターが告げる。
「俺からメグを奪うような発言をするなら、キミは俺の敵だ」
「敵だなんてそんな!私は誰よりもエルンスト先輩の事が好きなんです!」
悲鳴に近い声を上げた一年女子を見て、メグルカは嘆息した。
「やっと本音が出たわね。レイの事が好きだから、私との婚約を解消して欲しい。つまりはそういう事なのよね?」
メグルカがそう訊ねると一年女子は半ば自棄になっているように答えた。
「そうよ!だってはじめて好きになった人なんだもん!振り向いて欲しいんだもん!」
随分遅い初恋だと思うけど、それは人それぞれなのでそこはスルーしてメグルカは言う。
「悪いわね、私もレイが初恋の人なの。初めての恋だからと思うなら、わかってくれるわよね?」
「っ……」
メグルカにそう言われ、返す言葉が見つからないのだろう。
一年女子は縋るような目でレイターを見る。
「エルンスト先輩っ……!」
しかしレイターはそれを視界に入れる事もなくメグルカの方へと向き直る。
「メグ、すっかり遅くなったな。さぁ帰ろう」
「そうね……これ以上彼女と話しても堂々巡りのような気がするし……」
「だな。今日は寄りたい所はない?」
いつも通りの様子でそう言いながらメグルカの背に手を添えて図書室を出ようとするレイターに、一年女子はもう一度呼びかける。
「エルンスト先輩!」
レイターは少しだけ振り向いて相手に言った。
「……もうメグには近づかないでくれ。もちろん俺にもだ。……次は無いよ」
「ヒッ……!?」
一年女子の息を呑む声が聞こえた。
そしてまるで言葉を失くしたかのように少し震えながら立ち尽くしている。
そしてレイターとメグルカはそんな彼女を放置して、図書室を後にしたのであった。
明日の朝も更新あります~。
しばらく短めの複数回投稿になるかも?です。
よろしくお願い仕る。
( ᴗ ᴗ)"ペコリーヌ




