メグとレイ
今でこそレイターは長身で程よい筋肉を纏った均整の取れた体格をしているが、昔はヒョロっとして弱々しくまるで女の子のようであった。
背もメグルカの方が高く、運動神経も度胸もメグルカが上で、よくレイターを庇って近所の虐めっ子と喧嘩をしたものだ。
父の生家は代々騎士の家系で、父はもちろん伯父や叔父それに従兄弟たちの騎士道精神溢れる優しくて穏やかで、誰彼と分け隔てなく人に親切に出来る人間たちに囲まれて育ったメグルカ。
女の子であり、まだ九歳と幼い年齢でありながらも既にメグルカも騎士道精神を持つ少女であった。
そんなメグルカが、か弱いレイターを守って虐めっ子と戦うのは当然の事といえた。
いつだったかそんな喧嘩相手の爪がメグルカの頬に当たり、怪我をした事があった。
怪我といってもほんの小さな引っ掻き傷で、じんわりと血が滲んだだけだったのだが。
それでもレイターはこちらが心配になるくらいに青ざめて、そして慌ててメグルカの頬に自分の手を当てたのだった。
血が付くからダメだと言ってもレイターは首を振るだけで動かない。
傷を負ったことよりもこのレイターの反応の方が困ると思っていると、じんわりと頬が温かくなってきた。
頬の内側と外側から。
なにやら温かく、そして擽ったいような感覚がして身動ぐと、ようやくレイターが手を離してくれた。
「……できた……よかった……!」
メグルカの頬を見て、レイターが嬉しそうに安堵のため息を吐く。
「え?」
メグルカが傷を負った頬に触れてみると、先程まで確かにあったはずの傷が消えている。
「今の……まほう?」
「治ゆま法だよ。本で読んだことがあったんだ。それが使えてよかったよ」
「レイが……まほうを……!」
レイターの魔法の才覚が花咲いた瞬間であった。
元々魔力を持って生まれてきたレイター。
だけどその魔力量は低いと認定されていた。
それがメグルカを救いたい一心で潜在的な魔力を引き出し、高い魔力を要し且つ緻密な魔力コントロールが必要な治癒魔法をわずか齢九歳にして扱ってしまったのだ。
まさに神童。
十七丁目住宅街の期待の星。
と、レイターはあれよあれよと将来の大魔術師として脚光を浴びることになったのであった。
だけど子供同士、生まれて間もなくから婚約者同士であったメグルカとレイターの関係性が変わる事はない。
変わったといえば、レイターが魔法の勉強と共に苦手だった運動もするようになった事であった。
もう二度とメグルカを危ない目には遭わせない。
メグルカを守れる人間になるのだと、街の魔法塾に通う傍らで騎士であるメグルカの父に剣術と体術を習い始めたのであった。
そして育ち盛りの少年としてメキメキと成長を遂げ、あっという間にメグルカの身長を超えて体格も逞しいものになったのであった。
もうヒョロっとして女の子のようなレイターは存在しない。
それを寂しく思う反面、どんどん優秀な人間として頭角を現していくレイターに置いていかれないようにメグルカも必死で己を研鑽した。
幸い、メグルカにも多少なりとも魔力があったのでレイターと共にハイラント魔法学校に進学する事が出来た。
まぁそれでも成績はレイターと肩を並べる……には到底及ばず、レイターはAクラス。メグルカは奮闘虚しくBクラスへと振り分けられてしまったが。
それでもメグルカはレイター・エルンストの婚約者として後ろ指を指されることがないように努力してきたのだ。
だけど結局は、レイターとの仲を妬む人間に“棚からぼた餅婚約”や“格差婚約”などと言われてしまうのだが、メグルカはそんな心無い言葉たちに傷付けられたりはしない。
他の者にはわからない絆がメグルカとレイターにはある。
幼い頃から互いに大切に育んできた、愛情という名の絆が。
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