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シンボルツリーの側にて

バタバタしていてこちらの更新が遅くなりました。

ごめんなさい!

「“ジルトニアの木”の天辺に子猫が登って降りられなくなっているんだって……!」


メグルカが在籍するBクラスのクラスメイトが血相を変えて教室に飛び込んで来た。


“ジルトニアの木”というのは、十数代前の王妃の祖国であったジルトニア大公国の大公の城にあったプラタナスの苗木を、その王妃自らが魔法学校創立の記念として植えた学校のシンボルツリーだ。


樹齢三百年を優に超え、おまけに樹高三十メートルも超える巨木である。

そんな木の天辺に子猫がいるなんて……。


メグルカはそのクラスメイトである女子生徒に訊ねた。


「どうして子猫がそんな所に登る羽目になったの?」


クラスメイトは眉尻を下げて答える。


「それはわからないんだけど、その場に居た人に聞いた話だとなんでも虫か小鳥を追いかけているうちに先端部分まで上り詰めてしまったんじゃないかって」


「なるほど……それならそこまで月齢の低い子猫でもないのね?」


「私が下から見上げて見た感じだと多分、生後四ヶ月ほどのオス猫だと思うわ。ウチは家族みんな猫好きで三匹の猫を子猫の時から飼ってるから間違いないと思うんだけど……」


「わかったわ。とにかく子猫を助けないと、先生たちに相談は?」


「それがね、Aクラスの男子たちが子猫を助けるために集まっているの」


「Aクラスの?」


Aクラスといえばレイターのクラスだ。

とにかく見に行ってみようという事になり、メグルカは友人のフィリアやクラスメイトたちと校庭へ出た。


“ジルトニアの木”の側には既に沢山の生徒たちが集まっていた。

Aクラスの男子生徒の声が聞こえてくる。


「子猫は先端に近い枝が細くなっている部分にしがみついているぞ。人の体重を支える事ができる枝まで何とか登ったとしても、そこからは手を伸ばしてもまだ届かなさそうだ」


下から子猫と木の様子を見上げ、眉を顰めながらAクラスの男子生徒の一人がそう言った。

その時、メグルカの耳にレイターの声が届く。


「登る必要はないだろう。術を使って降ろせばいい」


───……レイだわ


やはりレイターも子猫救出作戦に加わっていたのか。

動物好きな彼のこと。きっと我先にと子猫を助けに駆け付けると思っていたがまさしく、であった。


Aクラスの他の男子生徒がレイターに言う。


「だけど遠隔で子猫に害を与える事なく木から引き剥がした上で、落ちないように浮遊させ、細かい枝からも保護しながら降ろすんだぞ?地味なようで緻密な魔力コントロールが必要になる。……レイター、いけるか?」


そう言った級友にレイターは力強く頷いて見せる。


「大丈夫だ。任せてくれ」


そうしてレイターはそこに集まった生徒たちが見守る中、魔術を使って難なく子猫を救い出したのであった。

さすがはその場に集まった生徒たちの中で唯一、魔術師資格を持つだけのことはある。


腕に抱き寄せた子猫に、レイターが優しく言う。


「こら。わんぱくなチビめ。危ないことをしちゃダメだろう?」


そんなレイターと子猫の元に、Aクラスの男子生徒たちが喜び勇んで駆け寄った。


「やったなエルンスト!」

僕は(ぼかぁ)レイターくんならやってくれると信じていたよ!」

「おいチビにゃんこ、助かって良かったなぁ!」

「エルンスト様♡男が惚れる漢!」


そしてレイターは頭をガシガシと撫でられたり抱きつかれたりと、クラスメイトたちに揉みくちゃにされる。

Aクラスの男子たちの仲の良さが伺える微笑ましい光景であった。


一方でその様子を眺める女子生徒たち。

Bクラスのクラスメイトたちはメグルカと同じように笑いながら、だけど他のクラスや下級生の中には頬を染めて見る者や興味を失くして去ってい者など様々であった。

そして中には妬み嫉みの眼差しをメグルカに向けて来る者もいた。


だがメグルカはそんな視線を意に介する事もなく平然としてレイターたちの元へと歩み寄る。


「レイ。その子猫のことだけど」


近寄りながらそう言ったメグルカを見て、レイターの友人たちが

「あ、エルンスト。嫁さんが来たぞ」

「スミスちゃんだ」

と言ってレイターを解放した。


レイターは子猫を抱いたままメグルカの方へと数歩駆け寄る。


「メグ、子猫がどうかしたか?」


「その子猫を引き取りたいって、私のクラスメイトが言っているの」


メグルカに子猫の危機を伝えた猫好きのクラスメイトが猫が助かったらウチで飼いたいと申し出てくれたのだ。


「そうよね?」

とメグルカが確認すると、そのクラスメイトはメグルカとレイターの側にきて「もちろん。我が家の四匹目に迎え入れるわ」と頷いた。


それを聞いたレイターが嬉しそうに破顔する。


「良かった……!コイツの引き取り手を探さなくてはと思っていたんだ。ウチは母が猫アレルギーだから飼えないからな。ホントに良かったよ。ありがとう」


そうしてレイターは子猫に「可愛がってもらえよ」と言ってからメグルカのクラスメイトに渡した。

子猫を受け取るクラスメイトの頬が見るまに赤くなってゆく。

それからポツリと「ワタシモ、カワイガッテモライタイ…」とつぶやいた。


そして子猫を引き取るそのクラスメイトに、

「はじめて心の底からメグルカが羨ましいと思ってしまったわ」と言われたのであった。


その言葉に対しすかさずフィリアが、

「人のものに横恋慕なんてみっともない真似はよしなさいよ?」とそのクラスメイトに釘を刺していたのだが、なんとも微妙な空気が流れる。


メグルカはもうすっかり慣れっこになってしまっているのもあり、とくに何も言わずにスルーしたけど。


そういえばあの場に先日レイターに告白したというヴァレリー・ジョンストンも居た。

だけどレイターに近寄ることもなく遠巻きに眺めていたのがメグルカには不思議に思えた。


以前の彼女なら、男子生徒に混ざってレイターの近くで騒いでいたはずである。


どういった心境の変化か。

まぁ多分レイターが告白の返事をきちんとしたのだろう。

返事を聞かなければフラレていないと言っていた彼女だから、断りの返事をされたのならもうそうも言っていられないだろうから。


それにしてもヴァレリー・ジョンストンが少しだけ怯えた目をレイターに向けていたような気がしたけど……

多分気のせいだろう。





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