告白の告白
「私、レイター・エルンストのことが好きなの」
放課後、談話室の椅子に座り本を読んでいたメグルカに、一人の女子生徒が声をかけてきた。
またか。とそんな言葉が一瞬メグルカの脳裏に浮かぶも、それをおくびにも出さずに相手に言う。
「そうですか」
「そうですかって、あなた……」
「だって他に言いようがないもの」
女子生徒が身を包む魔法学校の女子制服。
セーラータイプの濃紺生地のワンピースだ。ワンピースといってもウェスト部分にセーラー襟と共布のベルトをしているのであまりワンピース感はないけれど。
学年によってタイの色が違うのでそれを見れば相手が何年生なのかがすぐにわかる。
女子生徒のタイの色は白。
メグルカと同じである。
だけどべつに色で識別をしなくても、メグルカはその女子生徒が同学年であることを知っていた。
そして彼女がヴァレリー・ジョンストンという名で、婚約者レイター・エルンストと同じAクラスであることも。
(魔法学校は成績によりクラス分けをされる。全四クラス。メグルカはBクラス)
そのヴァレリー・ジョンストンが非難めいた声をメグルカに向ける。
「だからってそんな言い方。自分の婚約者のことを好きだという女が現れたのよ?何か思うところがあるんじゃない?」
「でも、その人が誰を想おうとその人の自由だから」
「まぁ……随分と余裕なのね。じゃあ私が彼に告白をして愛を告げたとしても文句はないのよね」
「それはもちろん。告げたの?」
「告げたわ。でも告白の返事はあえて聞かなかったの。だって婚約者のいる誠実な彼なら私が想いを伝えても断るしかないじゃない」
「それでも愛の告白をしたの?」
「したわ。だって、答えを敢えて聞かなかった事で私は彼にフラレてはいないし、ずっと彼に気にして貰えるでしょう?私の事を考える時間が少なからずともあるじゃない。その間は彼の頭の中に居るのは私だけなのよ。素敵だわ」
「なるほど」
そんな考え方もあるのか、とメグルカは感心した。
「なるほどって……あなたねぇ」
「だって婚約者だからといって彼の考える事までは縛れないわ。それにただ考える、それだけの事だもの」
「……あなたって本当に可愛げのない人よね。彼に相応しいとは思えないわ」
「そうね」
「そうねって、ふん、認めるんだ」
「だからこそ、彼の隣に立つ者として相応しくなれるように努力しているのよ」
「とにかく、私はエルンストの心に楔を打ったわ。今日から彼は一日に何度、私の事を考えてくれるのでしょうね?」
メグルカに対してあからさまな嘲笑を浮かべ、ヴァレリー・ジョンストンは去って行った。
「ふぅ……」
メグルカは読みかけの本を閉じ、小さくため息を吐いた。
ああやってレイターに想いを寄せる女子生徒からの嫌味や牽制を受けるのは初めてではない。
魔法学校在学も三年目となり、メグルカとレイターの関係が良好であることの周知も行き届いてくるとかなり数は減ったが、それでも時々ヴァレリーのような我こそがレイターに相応しいと思う女子生徒から敵意を向けられる事が時々ある。
だからといってメグルカが気鬱になるだとか腹を立てるだとか、そういった心を揺さぶられる事は一切無い。
だって、彼の婚約者は私だから。
他の女性がどれだけ彼の事を想おうと、
どれだけメグルカよりも彼に相応しい者だとしても、レイターの婚約者は私なのだと。
不安や不満を抱える前にいつもその考えにメグルカは到達する。
そして何より、メグルカの心の安寧を保ってくれるのは……
「メグ」
待ち合わせの談話室に婚約者のレイター・エルンストが入室してきた。