二人の休日 ③ レイターの眼差し
上映前に少し変な女の子に遭遇するというハプニングには見舞われたが、映画は期待以上に素晴らしい作品で存分に楽しめた。
映画を見終わり、パンフレットなど映画グッズを見ていてもザカリーやあの従妹の姿は見当たらなかったところを見ると、もしかしたら本当に映画館を追い出されたのかもしれない。
それからメグルカはレイターと映画の感想を話しながらお気に入りのランチメニューが豊富なカフェへ行き、ランチを食べた。
メグルカは香味野菜のオイルパスタをサラダとスープ付きで注文し、レイターはチキンオーバーライスと海老のトマトクリームパスタ、クラブハウスサンドにイワシの香草パン粉焼きをサラダとスープとパンが付いたセットで注文した。
「ぷ、ふふふ。本当によく食べるわね。注文した食事がテーブルにのりきるかしら?」
通された席は二名用のテーブルだ。
カフェの店員もまさか二名の客で四人前ほどのメニューを注文されるとは思っていなかったのだろう。
ころころと笑うメグルカを、レイターが「これでも控えめにしてるんだよ」と言うものだからメグルカはそれがおかしくてさらに笑った。
そんなメグルカの笑顔をレイターは目を細めて眩しそうに見つめている。
近頃そうやってじっと見つめてくる事が増えたレイターに、メグルカは訊ねてみた。
「なぁに?私の顔に何か気になるところがある?」
レイターはさらに優しげな笑みを深め、そして甘い声で言った。
「いや。メグはいつだって可愛いよ。……早く結婚したいなぁと思って」
その途端、パリンッとグラスが割れる音が聞こえた。
カウンターの方でウェイトレスの女性が「失礼しましたっ……!」と言って慌てて割れたグラスを片付けている。
だけどメグルカはそれどころではない。
「もうっ……レイってば恥ずかしいわ……!」
そう言って赤く染まる頬を押さえる。
そんなメグルカをレイターはより一層優しげな眼差しで見入るのであった。
カフェでの食事の後は最近新しく出来た文具店や行きつけの古書店を覗いて街歩きを楽しんだ。
そしてレイターは大体いつも夕食前、薄暗くなり始める頃にメグルカを家へと送り届けるのだった。
今日も二人でスミス家の玄関に入ると、夕食の良い香りが鼻腔をくすぐった。
途端に空腹スイッチが入り、お腹が鳴りそうになる。
いつもはメグルカの母親がキッチンから「おかえりなさい」と顔を覗かせるのだが、今日は従兄のロワニーが出迎えてくれた。
「お帰りお二人さん。デートは楽しかったか?」
ロワニーがそう言うと、メグルカが満足そうに笑みを浮かべて頷く。
「ええとっても。映画も良かったし、本当に楽しい一日だったわ」
「それはなにより。トラブルなく無事な姿を見れて安心したよ」
ロワニーのその口ぶりにメグルカがきょとんとする。
「なぁに?大袈裟ね。治安のいい王都で荒事なんて早々起きないわよ?それにレイターが一緒なんだから心配は要らないもの」
「でも魔術の使用を禁止されているエリアで事が起きたらどうするんだ?」
執拗に万が一の事を口にするロワニーに、レイターが言葉を返した。
「問題ないですよ。魔術が使えない場合を想定して、小父さん(メグルカの父)に剣や体術も習ってきたんですから」
「ほほぅ。以前手合わせをした時と変わりないようじゃ、過信とも言える発言だな」
「……本職の騎士に比べれば劣るかも知れませんが、変わらず鍛錬は続けています」
「それならどうだ?食事前にこれから軽く手合わせするか?」
「いいですね。夕食前の軽い運動だ」
「えっ、今からっ?」
レイターとロワニー、二人の言葉にメグルカは目を見張る。
そんなメグルカを他所にレイターもロワニーもシャツの袖をまくりながら模擬刀も持って庭に出た。
(騎士の家なので当たり前のように模擬刀がある)