第8話 〝夜が終わる〟
俺は左足の痛みに耐えながら、何とか立ち上がる。
なんとか、このまま歩いて逃げられない事もない。止血はしたものの、傷口からはまだ鮮血が漏れ出していた。
ギルとシルファーは互いに一瞬睨み合うと、勢いよく駆けだした。
ギルは大剣。シルファーは両腕の鎌を以て。
第8話 〝夜が終わる〟
「うおおおおああああッッ!!」
二人は至近距離で、激しい斬り合いを繰り広げる。
鎌と剣が交差する中、服の端や頬にはどんどん切り傷がついていく。
時代劇ですら見たことがないような凄いスピードの斬り合いで、お互い一度も致命傷を負わないのが不思議ですらあった。
「この……ッ!」
ギルは地面を蹴って一端後ろに跳ぶと、大剣となっている右腕はそのままに、もう一方の左腕を空高く掲げた。
「〝乱銃連弾〟!!」
左腕は腕の根本から変形し、細い口径を幾つも持つバルカン銃へと変わった。
ダラララララララッッ!!
すかさず激しい発砲音を連続で響かせながら、怒濤の勢いで連射される銃弾。
しかしシルファーは自分に向かって跳んでくる銃弾の一つ一つを連続で切り刻み、ことごとく軌道を逸らす。
「……のやろォ!」
「フフフ、こんな物でワタシが倒せるとでも?」
するとギルは左手で銃弾を撃ち続けながら、横目で俺を見て言った。
「おい、お前! まだ走って逃げられるか!?」
「え……多分、何とか……」
「ならさっさと行け! これ以上俺の手を煩わせんじゃねェよ!」
「あ、ああ……分かった!」
俺はその言葉通りに震える足を無理矢理動かし、覚束ない動きで動き出す。
「逃がさないわよ……〝飛燕鎌〟!!」
「!!」
シルファーが腕を一振りすると、腕から鎌の刃だけが外れ、まるでブーメランのように鎌が回転しながら凄いスピードで飛んできた。
……あれか! 俺はあの飛ぶ鎌で足を切られたんだ!!
「くそ……ッ!!」
「!?」
ブシュッ!
鮮血が飛び散った。
ギルは、俺をかばって代わりに攻撃を喰らった。
斬られた左肩からは血が噴き出し、バルカン銃と化していた左腕は元に戻ってしまった。
「ちっ……!」
「ギ、ギルッ!!」
「あ〜ら、またハズレか〜。残念」
シルファーの硬骨な声が響く。
ギルは、顔を歪めながら——。
「くっそ……お前がさっさと逃げねェからだ……!」
がっくりと力を無くし、膝をついて倒れ込む。
だが、そんなギルにもシルファーは容赦なく、追撃の手を休めない。
「これで……切り刻んであげるわ!」
シルファーは胸の前で両腕を交差させた。
途端、奴の体中のあらゆる所から、鎌の刃が勢いよく生えてきた。両腕・胴体・両足・首・顔・背中……見渡す限り身体が刃に包まれている。
「〝切裂螺旋……大回転玉〟!!!」
叫ぶと同時に地面を蹴り出し、奴の身体は目にもとまらぬ速さで横に回転し始めた。周囲の風を切り裂きながら凄いスピードで突進し——その軌道上には膝をついて倒れるギルが肩で息をしている。
「おい、嘘だろ……避けろっ!!」
ドスンッ!!
肉を切り裂く音が聞こえた。
体当たりを喰らったギルは、鮮血を上げながら倒れ込んだ。
身体に食い込んだ無数の刃は回転によってさらにギルの身体を切り刻み、声にならない叫び声と共に大量の血を四散させた。
「…………!!」
ギルは白目をむいたまま、指一つ動かさず、血の海にばったりと倒れ込んだ。
俺はその光景にただ愕然とし、立ち直ったシルファーは両腕の鎌に付いた血を舌で舐め取っている。
「ふう、これでまず一人……と」
不敵な笑みを浮かべ、当然のようにこちらに近づいてくる。
がくがくと震える足は全く動かず、俺は後ろに後ずさる事すらできない。
「……ッ……!!」
「そんなに怖がらなくても大丈夫よ? 苦しくないように、一瞬で喉元を切り裂いてあげるから……」
「くそっ……こっ、殺される……!!」
「ハイハイ、じゃ、死んでね」
右手の鎌が、俺の首をめがけて襲いかかる。
あたかもスローモーションのように感じられるそれは、死の直前の走馬燈のようであった。
くそっ……!
くそ……ッ!!
俺は……あいつにまた会うまで……!!
ガキィン!!
「あら?」
「……え?」
閃光が走った。
黒光りする〝それ〟は妖しく輝き、空に浮かぶ月光を跳ね返す。
鎌の刃を〝刃〟で押さえて。
……〝それ〟は俺の手に握られていた。
「刀……?」
〝それ〟は、刀だった。黒と白が交わらない流麗な直刃の「日本刀」。
いつの間にか俺はその日本刀の柄を握り、襲いかかった鎌の刃を止めていたのだ。
「アナタ……どこからそんな刀……」
シルファーは一歩後ずさり、目を丸くして俺の握っている刀を眺める。
俺はただ唖然としたまま、同じように肩穴を凝視する。
当然俺はこんな物を持っていた覚えはない。どこから出てきたんだ、こんな物……。
「まさか……それがアナタのバッジってわけ……?」
「バッジ……?」
シルファーは鎌を構え直す。俺はなんとか立ち上がり、右手に握った刀の先を無意識にシルファーへと向ける。とはいえ、腰は思いっきり引けていたが。
「何なんだ、これ……?」
妙に手に馴染むするその柄は赤く塗られ、その上には銀色に煌めく十字型の鍔。時代劇で見るようなやつと大して変わらなかったが、その刀が放つ雰囲気はどこか妖しいものがあった。
「こんな時にバッジを手に入れるなんて……早いところ片付けないと……!!
〝切裂鎌〟!!」
「え!? ちょ、ちょっと待って……!」
次の瞬間、右手に握る刀が自分から振られた。
横に大きく半月を描き、肩の高さで勝手に止まった。俺の意志とは関係無しに、刀が自分から動いたかのように。
途端、刀を振った軌道の空間が青白く浮き出た。
「ギッ……ギャアアアアッ!!」
「……え!?」
走り出していたシルファーは、突如腹を押さえて苦しがった。そのまま地面を転がり回る。
「きっ……斬られたァァァ!!」
「斬られた……?」
意味が分からない。俺は別に何もしていないのに……。
「……あっ、そうだ……ギル!」
急いで倒れたギルの元に駆け寄った。身体の全面は酷く切り刻まれていたが、背中に手を当てると、弱々しいがまだ呼吸をしているのが分かった。
「ハッ……ハッ……ゲホッ」
「……まだ生きてる……でも、このまま血を流し続けたら……」
「……な〜んなのよ、アンタ……」
シルファーが立ち上がった。肩から腰に掛けて大きな傷跡が通っており、鮮血が漏れ出している。
何なんだって言われても……俺は本当になにも……
「それが……お前の……バッジか……っ」
「おっ、お前!!」
ギルも、応じるように立ち上がった。ふらふらと危なっかしい虚ろな目をしているが、何とか意識は保てているようだ。すると、ギルはこう力強く叫んだ。
「振れ! 刀を!! それだけでいい!!」
「え!? 振るだけって言ったって……」
「……させないわよ…………アアアアアアア!!」
直後、シルファーが叫びながら走ってきた。
くそ……っ、さっぱり訳が分からないけど……もうヤケだ! 何でもやってやる!!
「これで最後だ……〝巨人の大砲〟!!」
ギルは血まみれの身体で右手を突き出しながら、最後の力を振り絞るようにして大砲に変化させた。
俺は横に並ぶようにして、刀を構える。
「〝切裂螺旋! 大回転玉〟!!」
さっきの技だ! 体中から鎌の刃を生やし、回転しながら突っ込んでくる。
「死になさいィィィ!!!」
「ハッ……死ぬかよっ……」
「くそっ、刀を……あいつを倒せるように! 何でもいいからその力を……!!」
「ダアアアア!!」
「……オラアアア!!」
「うりゃああっ!!」
ギルは大砲を発射した。
俺は力の限り刀を振った。
すると、目の前に信じられない物が浮かび上がった。
刀を振った軌道の空間が膨らむようになり、大きな〝怪鳥〟の形状を作っていく。
「……な、なんだこれ……」
その怪鳥は二メートルほどの大きさで、全身が青白く光っている。するとその怪鳥は翼を広げ飛び立つように、シルファーへと向かっていく。
「う、嘘ッ……こんな力のエネルギーって……!!」
「……これで、終わりだな……ァ」
「ギッ……ギャアアアアアア!!!」
激しい爆発と青白い閃光が入り乱れ、シルファーは沈んだ。
辺りには硝煙しかせず……まるで時が止まったかのように静かになった。
「……ハア、あー……マジで死にそう……」
ギルはどさっと倒れ込んだ。傷口からは血が止めどなく流れ出す。
俺は本来その光景に焦るべきだったが、何が何だか分からず、ただその場にペタンと座り込んでしまった。
右手に握っていた日本刀は、いつの間にか消えていた。
空に浮かぶ満月はやがて地平線に沈みかけ、空の端からは明るい太陽の日差しが漏れ込んでいた。
To Be Continued……
どうも、郷音です。
シルファー戦何とか終わらせました。文章力無いので、相当読みづらくなってるのが自分でも分かります。これから精進していきたいです……ハイ。
因みに、シルファーのモデルとなったのは「D.Gray-man」の2巻、マテールに出てきた最初のレベル2です。アニメ版見てたときに閃きました。