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第7話 〝アルカディア社「帝」鎌鼬のシルファー〟


「報告されてる以外に〝資格者〟が居たものだからラッキーだと思ってたけど、このワタシに一撃喰らわせるなんて、アナタ只者じゃないわねェ。こりゃ少し骨が折れるかも」

 男は立ち上がると、そのピエロの衣装のような服装を正した。


「ワタシは《アルカディア社》の「(みかど)」、シルファー。とりあえずアンタ達を殺すのがワタシの任務……だから、大人しく死んで?」

「……へッ、ところがお生憎。死ねと言われて「ハイそうですか」と死ぬほど、素直な性格してねェもんでな。……やるからにゃあ、本気で行くぜ」

 ギルはその鋭い双眼で、シルファーと名乗る男を睨み付けた。その目付きは、以前見た飄々とした感じは微塵も無かった。




          第7話 〝アルカディア社「帝」鎌鼬のシルファー〟




「……時にお前……怪我、大丈夫か?」

「え? あっ、背中……痛っ!」

 ギルは横目で背中の切り傷を見た。途端思い出したようにじわじわと痛みが浸食してくる。

 だんだん血の気が失せ、頭がくらくらしてきた。

 今までに体験したことも、見たこともない様な出血量だったが、それでもショックで気を失わずに済んだのは偏にこの危機感からだ。

 人間、死の恐怖に直面すると、傷や痛み、出血などどうでもよくなるらしい。それを証明するかのように、遠くに立つシルファーの姿を見ただけで再び背中の感覚が薄れていった。


「……殺してやるわ!!」

「……下がってろ。〝巨人大砲(ゴーレムズ・キャノン)〟……!!」

 シルファーはこっちに向かって走り出し、ギルはそれを迎撃するように、最早見慣れたものではあるが、右腕を大砲へと変化させた。

「喰らいやがれ!!」

 そう叫ぶと同時に、右腕から爆音と共に大砲が撃ち出された。砲弾は直線的な軌道を描きながら、走ってくるシルファーを迎え撃つ。その距離はどんどん縮まり、一瞬で目と鼻の先になった。


「こんなもの……〝切裂鎌(きりさきがま)〟!!」

 鋭い閃光が走った。

 途端、直撃するかに思われた砲弾は真っ二つになり、シルファーを避けるようにそれぞれが左右へ逸れた。遥か後ろで二つに分かれた砲弾の暴発が起こる。

 シルファーは不敵な笑みを浮かべ、腕を撫でた。

「フフ……ワタシの持つ能力は《鎌》。自分の身体の如何なる部分も鎌に変形させ、触れるものみ~んな切り刻んじゃう。アナタだって、この鎌でダイコンの輪切りみたいにしてあげるわ!」

 見ると、シルファーの両腕には外側に鎌の刃のようなものがずらっと生えていた。白と黒が波のように入り乱れた乱刃で、成る程あれなら弾丸も斬れそうな勢いだ。


「でっ、でも……何であいつは……?」

 俺は一瞬で思考を巡らせる。

 あのおよそ人間とは思えない力。加えてあんな風にあいつが言っている以上、きっとあのシルファーという男もギルと同じ〝資格者〟に違いない。

 だが、それならば何故あいつはギルを殺しに来たみたいな言い方をしているんだ?

「……おい、お前!!」

「あら、何かしら?」

「お前……何でギルや俺を殺そうとするんだ!!」

「……は?」

「お前も〝資格者〟なんだろ!? それならきっと俺達と同じで、天界獣から命を狙われる存在な筈だ! その点ではお前もギルと同じ立場な筈なのに、何で〝資格者〟どうしで争ったりするんだ!?」

 俺は声を張り上げる。血を流しすぎて少々貧血になっていた為に少し堪えた。

 だが、男は「クククッ」と呟くと、やがて腹を押さえて笑い出した。

「……あーっはっはっはっ!! ア、アナタ、本気でそう思ってるの!? ワタシをそんな馬の骨と一緒にしないで頂戴よ!」

 俺は意味が分からず、唖然とする。

 その横でギルはタバコをぺっと吐き捨て、靴の裏で火を消した。その表情はどこか、込み上げてくる怒りを押さえているように見えた。

「確かにワタシは〝資格者〟よ。でもそいつと違うのは、《アルカディア社》に属する存在だって事。

 《アルカディア社》は闇の世界に存在する、その存在も一部の人間しか知らない程の裏企業。そこでは〝資格者〟を狩るために上部から色々と手が回され、この世に存在する全ての資格者の《魂》を集めるのが最終目的。

 だからワタシはアナタを殺し、その《魂》を奪う為に派遣されたって訳。ま、それ以外にも資格者が居たってのは、ホントに嬉しい誤算だけどね。……あ、因みに言っておくと、天界獣を刺客として送り飛ばしてるのも我が社なのよ」


「うるせェな……訊いてもいねェ事をごちゃごちゃと」

 シルファーがぺらぺらと語っているのに我慢ができなくなったように、ギルが握り拳をつくった。

「何にしても、「帝クラス」が動き出すとはちょっとした一大事だな。今までは天界獣しか来てなかったが……連中もそろそろ痺れを切らしたか?」

「さあね。何にしても任務の失敗なんて許されないの。アナタ達には二人とも死んで貰わなきゃ……」

「やれるもんならな。御託はいい加減聞き飽きた。とっとと来やがれ!」


「(おいお前、走れるか?)」

 思い切りよく怒号を飛ばしたギルは、俺の方を見ずに小声でそう言った。

「な、なんとか……」

「なら、早い所図書館へ逃げて、エリィの所に行け。あいつのすぐ傍なら結界が守ってくれてるから、あいつもそう簡単には入ってこれねェ」

「わ……わかった。でも、お前は……?」

「心配すんな。逆にお前にウロチョロされたんじゃ、戦いづらくてしょうがねェ」

 一人で逃げるのは少々忍びなかったが、確かにギルの言うとおりだ。結界がどうとかはよく分からなかったが、今は逃げるしか……!

「あら、そのコは逃げるつもり? そうはさせないわよ……」


「……! おい、危ねェ……!」

 ギルの叫び声が聞こえた途端。

 左足に鋭い痛みが走った。

 そのまま足に力が入らなくなり、訳も分からず、俺は妙に不自然な動きで地面に倒れ込んでしまった。

「……あれ? 左足……」


 痛い。

 刺すような痛みが突如襲いかかる。

 近くの地面に生え並ぶ芝生は、ペンキを零したかのように真っ赤に染まっていた。


 左足が、斬れていた。

 傷は深く、足は太ももの辺りを横に半分以上切り裂かれ、鋭利な切れ込みから血がドクドクと溢れ出している。

 背中を切られたときのデジャビュの様な感覚を感じながら、俺は顔を歪ませて叫び声を上げた。

「うっ、うわああああ!!」

「お前っ……!!」

 ギルが急いで駆け寄ってくる。

「大丈夫か!?」

「いっ、痛いっ……あああっ!!」

 血が止まらない。次から次へと溢れ出す。

 何故あれだけ距離が離れているのに、俺は足を切られたんだ。など疑問に思う点はあった。

 だが、今はそれすらも掻き消すほどの痛みと恐怖に俺は支配されていた。

「傷が深いな……とりあえず、これで止血しろ!」

 ギルは躊躇いもなく自分のシャツの右袖を破ると、それを俺の左足の傷にきつく巻き付け、縛った。途端白い袖は真っ赤に滲んだが、なんとか出血は治まった。

 俺は顔を真っ青にして倒れ込む。心臓が早鐘のように鳴り、口の中はからからに乾いていた。

 ふと思う。あと少し左足が外側にずれていたら、俺の目の前には切断された左足が転がっていたのだろう、と。

 想像しただけで、さっと血の気が引いた。そんなこと考えたくもない。


「あ~らら、また外れちゃった。二度と逃げられなくなるように、足を切り落とすつもりだったのに」

 シルファーは残念がるそぶりをしながらも、恍惚な表情を浮かべていた。

 ギルは立ち上がり、シルファーと向き合う。その表情はさっきよりももの凄い怒りに包まれていた。

「この野郎……!」

「ふふ、そのコはもう満足に逃げられないでしょうから。次はアナタを切り刻むとしましょうか……〝大切裂鎌(おおきりさきがま)〟!!」

 途端、シルファーの両腕は付け根から巨大な鎌へと変わった。腕全体が根本から大きな鎌のようだ。

 ギルもそれに応じるように、右腕を突き出す。

「〝鉄の大剣(アイアンブレード)〟……!!」

 ギルの右腕は機械的な音を立てながら捻れだした。だがそれは大砲の砲身ではなく、肘から先が、分厚く巨大な大剣に変わった。先端が地面に付きそうなほど大きな剣だ。

「剣だって〝武器〟だ。俺が大砲にしかならねェと思ったら大間違いだぜ。……返り討ちにしてやる!!」

「そんな事できないわよ? だってそれより先に、アナタはこの鎌で全身バラバラにされちゃうんだもん!」


 シルファーは巨大な鎌と化した両腕でお互いの鎌を研ぎ合いながら、不気味な笑みを浮かべる。

 ギルは右腕の大剣を鋭く構えると、静かに息を吐き出した。


 空に浮かぶ満月は、二人の姿と、赤く血に染まった芝生を照らし出していた。



To Be Continued……


7話できました。

何か第6話から残酷描写多くなってしまった気がします。

表示を書き換えておかなければ……当初は残酷描写は入れない設定だったんだけどなぁ……。

あと明日からパソコンの起動時間が親に制限されるので、掲載速度が遅くなってしまうかも知れません。ご了承下さい……。

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