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第6話 〝襲撃〟


 次第に、夜になった。

 日は沈み、辺りはずいぶんと暗くなった。

 窓の外では草木が夜風に吹かれて揺れている。

 夜空にはおぼろな満月が浮かび、その月光は地を明るく照らし出していた。

 どうやら『幻想世界』も、環境的には『現実世界』とあまり変わらないらしい。


 そんな中、俺の胸には去来するものがある。

 もしかしたら〝あいつ〟も今、同じ満月をみているのかな、と――




              第6話 〝襲撃〟




「…………」

 特に理由はなかった。俺は来たときに着ていたコートを再び羽織い、部屋のドアを開けた。

 外に出よう。別に散歩だ。どこかから逃げ出したりする訳じゃない。ただ昼間からあまりにも色々な事がありすぎて、俺は少し頭を冷やしたかったのかも知れない。

 今更ながら、ここは本当に「図書館」なんだろうかと、俺は未だに目を疑っているようであった。部屋は勿論、それを繋ぐ廊下も本当に豪華としか言いようがないなもので、漫画やテレビでしか見たことがない。さながら「ハ○テのごとく!」に出てくる三○院家のごとく!だった。……あ、今うまいこと言った、俺。

 ただ本当に図書館ではあるようで、建物は全部で三階建てのうち、一階は居住スペース。二階と三階には全ての部屋にぎっしりと本が蔵書されていた。他人の家で失礼とは思ったが、今までざっと建物内を見て回っていたのだ。しかし、それでも恐らく全体の二割も回れていないだろう。それくらいバカッ広かったのだ。


 ギイイイイ

 門を開け、外に出る。コートを羽織ってきていたからまだ良かったが、やはり外気は冷たかった。

「うっ……寒……」

 バタバタしていたのであまり目には入っていなかったが、外はただっ広い草原だった。その中に、この「アダム図書館」が一人ポツンと置かれているのだ。

 夜風に草が揺れ、周りには図書館を囲むように森林が生えていた。何と殺風景な場所であろう。まあしかし、こういう場所でも「屋敷」だと、ある種風情があるものなのかも知れない。

「何か……まだ信じられないな。本当に〝異世界〟に来ちまったなんて」

 吐いた言葉は白い霧となって、上へ霧散していった。


――――――――――――――――――


「おい、あいつが見当たらねェんだけど?」

「え? 部屋にいないの?」

 エリィの部屋に、ギルが顔を出す。

「ああ、部屋の明かりが消えてんだよ。近くの部屋も探したんだけど、どこにも居なかったぜ」

「……散歩かしら? さっき門が開いたような音がしたから」

「ハァ? ったく、あいつはまだ分かってねェのか。〝資格者〟ならいつ襲われたって不思議じゃねェってのに」

「でも、大丈夫なんじゃない? 天界獣は今朝来たばっかりだし、私が居るうちは、そんなに早くは来られないだろうし」

「……そうかな……なにか今夜は、落ち着かねェ気がする……」

 ギルは、どこか不満げな表情を浮かべていた。


「……? あ……」

 すると、エリィが急に不自然な動作で目前の壁を凝視した。

「ギル……あれっ……!」

「……どうした? ただの壁―― ……!!」

 言いかけた直後、ギルは何かを思い出したように部屋を飛び出した。


――――――――――――――――――


 十分ほど経って、図書館の近くを大体見渡した。どこもかしこも平野だったが、ここが異世界の地なのだと思うと、何だか少し楽しくもあった。こんな事を考えるようになった自分に少々の疑念を抱きながらも、俺は寒空の下、足を黙々と動かした。

 そろそろ寒さが堪えてきたので、図書館の暖かい部屋に戻ろうとした、その時だった。


 森の奥で、木が倒れる音がした。

 メキメキと唸った後、ズシンという音が地に響く。

「……何だ? 木って自然に倒れるものだっけ?」

 まあ、そういう事もあるのかな? 程度に、その時は考えていた。

 だが、それは確実に「異常」だった。

 一本目が倒れた直後、何本も、何十本も、続けて一連の木が倒れる音が響いてくるのだ。

 

 メキメキ、ズシン。

 メキメキ、ズシン。

 メキメキ、ズシン――。

 その異様な音の連続に、俺は明らかに違和感を覚える。

「お、おいおい、なんだこの音――」

 言いかけた直後、異変は目に映ることになる。


「あ~あ、やっと着いたわ。あの女も面倒な結界張ってくれるわねえ~」

 森の奥から、一つの人影が見えた。

その人影は辺りの木を切り倒しながら、こちらに歩いてくる。

「え~っと、今回の目標は〝資格者〟ギル・ガレイクと……」

 一人でぶつぶつと言っていた〝そいつ〟は、森を抜けると月明かりに照らされて、その姿が鮮明に映し出された。

 背の高い「男」のようだ。派手な格好をしていて、サーカスのピエロのようなメイクを顔中に塗りたくった、街中で見かけたら余裕で警察に通報されるくらいの「変人」であった。眼は大きく、なにやら変てこな赤と白の縞模様の帽子を被っている。

 というか、男が女の喋り方をしているところを見ると、多分に〝あれ〟だろう。


「な、なんだあの人……」

「……あら? あなた……」

 いきなり眼が合ってしまった。まいったなァ、個人的にはあまり関わりたく……。

 次の瞬間、そいつはいきなり大声で奇声を上げた。

「んま~~っ、これはラッキー!! 報告には無かったのに、〝資格者〟がもう一人~~!! あれを仕留めたら、もしかしたらアタシ昇格とかしちゃうんじゃないの~~~!!」

 何やら顔を撫で回しながら狂喜している。……いや、本気で大丈夫かこの人……。


そう思った直後だった。

「じゃ、バイバイ」

 そう言うとその男は、いきなりこっちへ向かって走り出した。両手両足を振り出しながら、何とも凄い形相で。

「ちょ、ちょっと、あなた誰ですか!? とりあえず近寄らないで……!」

「〝切裂鎌(きりさきがま)〟……!」

 男がそう叫んだかと思うと、途端、無意識に背筋がぞっとした。そのせいで、背を向ける形で男から逃げ出した俺は、地面の土に靴のつま先を引っ掛け、ドタッと転んでしまった。


「い、いたた……」

 地面に突っ伏した状態で、強く打ち付けた胸をさすり、立ち上がろうとする。

 次の瞬間、俺は背中に酷い違和感を感じた。不思議に思って背中に手を回すと、手のひらがべたっと濡れる感覚と、刺すような鋭い痛みを瞬時に感じる。

「な、なんだこれ……!」

 背中の肉がすっぱり切れていた。幸い傷は浅かったので大した事は無かったが、分厚いコートの生地が端から端まで一本の太刀筋で切裂かれている。傷口からは暖かい血が流れ出し、その下の白いシャツをどんどん真っ赤に染めていった。

「う、う、うわわわっ……!」

「もう~。避けちゃだめでしょ! 次で喉元を掻っ捌いてあげるから、それでさっさと死になさい!!」

 男は眼前に立ち、俺のほうに手を伸ばしてくる。


 死んだ。

 事情はさっぱりわからないが、俺はこの男に殺される。本能が瞬時にそう判断した。

 身体が震える。こんなに緊迫した状態だからか、背中の痛みがあまり気にならなくなってきた。

「じゃ、死・ん・で」

 男に、首をがっちりと掴まれた。

 嗚呼、さようなら。俺の短き人生……。


「オラアアアア!!」

 手が首から引っぺがされた。目の前に居た男は後ろに吹っ飛ばされ、遥か遠くの巨木に磔にされるように激しく激突した。

「う、うぎゃぁ…っ……!」

 男は弱々しく倒れこむと、苦しそうに呻きながら腹を押さえ、辺りを転がりまわっている。男の近くには、黒光りする鉄のような砲弾が一発転がっていた。

「はあっ、はあっ、あ……危ねえ」

 後ろから激しい息遣いが聞こえる。振り返ると、そこには見覚えのある男が肩で息をしながら立っていた。

「……コラテメェ! なに〝資格者〟なのにこんな夜遅くに出歩いてやがんだ!! もう少しで死ぬとこだったんだぞ!」

 ギルだった。凄い剣幕でこっちを睨みつけながら、灰色の大砲と化した右腕を男のほうに向けている。

 右腕は以前見たものよりも銃身が小型で細長い。恐らく弾の種類が違うのだろう。俺の後ろから放たれた砲弾は男の腹に直撃し、そのまま遥か遠くまでふっ飛ばしてくれたのだ。


「……な~んなのよ、アンタ……!」

 よろよろと立ち上がりながら、男はこちらに歩いてくる。ギルは拳を鳴らしながら腰を沈める。

 俺はというと地面に尻餅をついたまま、ただただ呆然とその光景を眺め、いまさら戻ってきた背中の痛みを耐えることで必死だった。

「お前、《アルカディア社》のモンだな? とうとう帝クラスまで動き出しやがったか……」

「そういうあなたは、今回の目標の〝資格者〟、ギル・ガレイクね……」


「いかにも」

 ギルは薄い笑みを浮かべ、右腕を構えた。



To Be Continued……



 謎の男は自分で書いてて気味悪いです。

 ……最近ちょっと風邪気味です。


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