第4話 〝『幻想世界』〟
俺の日常的だった生活は何故、こんな事になってしまったんだ?
いくら考えても分からない。
何故ならこうなった〝原因〟について、俺にはこれっぽっちも関与していないし知らないからだ。
にもかかわらず、俺はここにいる。
「見知らぬ世界」。
冗談ではすまされない。笑い事でもすまされない。
何しろ俺は、知らない間に謎の怪物達から、命を狙われるハメになっていたというのだ――。
俺はベッドに腰を掛けていた。
初めに俺が目覚めた部屋はエリィの物だったらしいので、それとは別に、二階に部屋を用意して貰った。腰掛けているのはその部屋のベッドだ。
俺は……まるで気を失っているかのように、ただ呆然と天井を見つめている。
話は一時間前にさかのぼる―
第4話 〝『幻想世界』〟
「……で、どういう事なんだか、ちゃんと説明してくれ」
俺は椅子に座り直して口を開いた。エリィも同じように近くの丸椅子に座る。
ギルとやらの男はさっき図書館の部屋に上がり込み、部屋の壁にもたれかかっている。エリィが作り出した青白い光の柱は、いつの間にか消えていた。
「……そうね。ごめんなさい。少しばたばたしてて。ろくな説明もできなかったわ」
「まァ、さっきのあれだって初めて見たんじゃビビるのも無理はねェよ。天界獣って〝狂獣種〟はキモいのが多いもんなァ」
「…………それは後でいい。まず、ここはどこで、俺は何故こんな所に居るんだ。突然頭が痛くなったと思ったら、いつの間にかここでベッドに寝てたってだけなんだぞ」
俺は訊きたくてしょうがなかった質問を、やっと尋ねる。
「ええ。さっきも言った通りここはあなたの居た『現実世界』とは別にある、もう一つの世界でね、『幻想世界』と言う所。つまりあなたは全く別の次元空間へ来てしまったと言うことなの」
俺は深く首を傾げ、唸る。
しかし実際、目を覚ましてから俺は普通じゃないことばかり体験している。だとしたら、ここは――。
「……信じ難くはあるが、さっきのバケモノといい、腕が大砲になる人間といい、今は他に有力な確証がない……。まあ、〝今のところは〟百歩譲って信じておく」
「またダイレクトだなー。「腕が大砲になる人間」って、俺のことか?」
「だから今はいい。……じゃあ何で俺が、その『現実世界』から『幻想世界』へ来ちまったんだ? そんな超自然的なことが俺一人に起こるなんて、どう考えてもおかしいだろ」
するとエリィは、当然の如くこう言った。
「何故かは、私にも分からないわ」
ええ? 「分からない」とはこれまたアバウトな……。
「……何で?」
「『現実世界』から『幻想世界』へ人間が移動してくることは、本来極めて希なケースなの。しかもそれには原因はなく、ある日ある時突然起こるものとされているわ。この事については未だに詳しいことが分かっていないの」
「はぁ……じゃあ俺はその神隠しとやらに逢って、こんな異世界じみたところまできちまったて訳なのか?」
「……まあ、そうなるわ」
成る程ね。本当に眉唾物の話ではあるが、まあ一応言われたことは信じてみる事にした。
いちいち言われること全てを疑ってたんじゃ話が進まない。それにこの二人も、俺に嘘をついて得な事なんて無いだろうに。こんな状況じゃ、信じることも大事なのかもな。少し意味は違うかも知れんが……。
「じゃあ……それはそれでもう良いとして、さっき出てきたあの変な〝天界獣〟とかいう怪物は何だったんだ? 俺は本当に死ぬかと思って肝冷やしたんだぞ」
すると、エリィがどこか伏し目がちに口を開いた。
「あれは……ギルを狙ってるの」
「……え?」
「ああ、俺はあいつに、命を狙われてんだ」
「……マジで?」
「おお。マジで」
えらく軽く仰ってくれるな、この男は。今俺達って軽く凄い会話してるぞ。
「何でそんな事になってるんだ? 何か犯罪を犯したとか、巨大な組織から逃げ出してきたとかしたのか……?」
「ハハハ、バーカ。そんな事じゃねえよ。正直俺だって、あいつらにゃあほとほと迷惑してんだ」
ギルは苦笑する。すると直後、ギルはおもむろに右腕を突き出した。
「ああ。原因は〝これ〟だ」
途端、ギルの腕が機械的な音を立てながら、さっき窓の外で見た大砲に凄い速さで変形していく。
「わっわっ! 何やってんだお前!!」
俺が驚いている間に、右腕は完全に武器化した。物騒なその姿に俺は思わず後ろに腰を引いてしまう。
……しかし気のせいか。前に天界獣と戦っていたときには、もっとずっと腕の大砲は大きかったはずだ。まるでこの男が自ら大きさを調整したような……。
「ダイジョブ、撃つつもりはねェよ。」
ギルはそう言って笑うと、直ぐさま大砲と化した右腕に、もう片方の左手で触れた。途端右腕は再び捻れ初め、瞬く間に元の腕の姿に戻った。
俺はただ呻くしかない。
「とどのつまり、俺は〝資格者〟って呼ばれる特殊な人間なんだ。その資格者は一人に一つ、それぞれ固有の「超人的な能力」を持ってる。で、俺の場合はこの《「武器」を司る能力》ってのを持っててな。自分の身体の各部を色んな武器に変形させられるんだ。……へへー、カッコいいだろ」
ギルは自分の右腕を自慢するように高く上げた。
……いや、別にうらやましくはねェよ。俺は深く嘆息する。
……今更ながら俺は思う。この現代の物理ではとうてい理解できないような現象が、今俺の目の前で起こっている。それは漠然ながらも、俺が『幻想世界』とやらに来てしまった理由として、ますます十分な物となっていった。
「じゃあ、お前はその〝資格者〟って呼ばれる人間って訳か……。まあそれは置いておくとしても、それなら何でお前ら資格者は命を狙われてるんだ?」
するとギルは、溜息混じりにこう答えた。
「……わかんね」
予想外の言葉が帰ってきた。
「はあ!? ……理由も分からずに命狙われてるってのか!?」
「そーなんだよ。それがさあ、俺も分かんないで四苦八苦してんの。あいつらは基本的に〝資格者〟を狙ってくるから、俺を目的としてるってのは分かるんだけど」
「……ギルの言ってることは本当よ。 私にもいまいち襲撃をされる理由が分からないの」
……呆れてものも言えん。それで命を狙われていいのか? 再び深く溜息をつく。
「――ん? でも待てよ」
ふと、頭の中を過去の言葉が過ぎってくる。
「そう言えば俺さっき……エリィから「新しい〝資格者〟」とかって言われてなかったっけ? あれってどういう事なんだ?」
素朴な疑問だった。
まあ多分、間違いか何かだろう。それについては俺なりに確証がある。
何故なら俺はギルのように腕が大砲になったりしないし、他に特殊な超能力を持ってたりしてるわけでもないんだからな。
「ああ、それは本当だぜ。お前は新しい〝資格者〟だ」
……え。
「あ、そう言えば、まだ詳しく言ってなかったわね」
……え?
「さっき『現実世界』と『幻想世界』の事について話したでしょ? この二つの世界はそれぞれが異なる次元帯に存在しているの。だからその間を物質が行き来することは物理的に有り得ないんだけど……その間の移動が唯一可能な物。それが〝資格者〟なの」
……〝資格者〟? え? はい?……俺が??
「私が最初あなたに会った時、私は「あなたは人間?」と尋ねたでしょ? あれはあなたが『現実世界』から来た人間かどうかを確かめるため。何も知らない人なら、そんなことを訊かれたら不自然な反応をするに決まっているから……」
彼女の言葉は直線的に耳に入っていった。それらは頭の中で計算され、ある結果を弾き出す。
「俺がギルと同じ〝資格者〟で、だからこの『幻想世界』に来られた、と。……ってことは、俺はギルと同じで……これからあの天界獣ってバケモノに命を狙われるって事か!!?」
「そうなるな」
ギルの一言は無情だった。
どうやら俺は訳も分からず、知らず知らずのうちに謎の怪物達に命を狙われることになっていたらしい。
……何という超展開!! こんなのアリか!? 訳が分からん!!!
俺は誰かに向かって、声の限り叫びを上げた……。
To Be Continued……
どうも、第4話です。
本編中にもあったように、超展開のまま終わってしまいました。すみません。
第5話は真面目なのを書きます。