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第3話 〝異形の怪物〟




 瞬間、俺は押し黙る。

 怪物はのっしのっしと地響きを立てながら、少しずつこっちへ近づいてくる。

 後ろに佇むエリィはしっかりと窓の向こうの怪物を見つめ、立ち上あがった。

 おい……これは一体、何の冗談だ。




            第3話 〝異形の怪物〟




「止めろお前、何する気だ! 速く逃げないと、きっと俺達あいつに殺される!!」

 俺は力の限り叫び、怪物から逃げるように言った。

 だが、エリィは俺の言葉に聞く耳を持たない。

「大丈夫、あなたこそ下がっていて」

 何が〝大丈夫〟……!!

 そう言おうとした直後、エリィはだぶだぶの袖から小さな右手を前に出した。

 手の平を広げ、窓の向こうの怪物に向ける。

 次の瞬間、俺は信じられないものを目にした。広げた彼女の右手の平に、青白い光が点っていく。

 そしてエリィは力強く、口を動かした。

詠唱(コール)限定(エフィソス)解除(スフィルナ)連結(ペルガノン)……」

 聞いたことのない言葉を唱える度、右手の光は強くなっていく。

 そして彼女の最後の言葉で、手の平に集まっていた青白い光は一気に四散した。

 「……発動!! 〝拒絶の聖域リジェクト・サンクチュアリ〟!!!」

 四散した光は部屋の壁を通り抜け、窓の外まで広がっていった。それぞれの青い光は小さなボタンくらいの大きさの球状になり、それぞれが紐のように綺麗に並んだかと思うと、球状から出る光と光でお互いを繋ぎ合い、どんどん連結していく。

「な……」


 次の瞬間、窓の外の怪物が、それを見て急に焦るかのようにこっちに飛び込んできた。

「ガアアアアアアアア!!」

 何十本もの足を高速で動かし、跳ぶようにして突っ込んでくる。

「無駄よ、もう遅い……」

 後ろでエリィの呟き声が聞こえた。

途端、窓の外で繋がった光の紐は地面に着地し、それぞれが着いた箇所から真上に、青白い光の柱をもの凄いスピードで伸ばし始めた。

 走ってきていた怪物は急には止まれず、その光の柱に思いっきり衝突した。しかし怪物の身体は内側には通らず、その場で倒れ込むように止まってしまった。

「ガアアッ……」

 怪物は低いうめき声を上げ、一歩後ずさる。

「……もう大丈夫よ。〝拒絶の聖域リジェクト・サンクチュアリ〟は、私が指定した物体以外を拒絶する結界。そんなに長くは持たないけど、ギルがくるまでの足止めくらいなら十分だわ」

 エリィはこちらを向き、俺に笑いかけた。りじぇくと……何だって? 聖域? 全く意味が分からないが、とにかく助けてくれたみたいだ……。よく見ると彼女の右の手の平には、まだ微かに青白い光が点っている。

「あ……えっと……ありが…とう……?」

 何に対して礼を言ったのかは分からないが……とりあえずそう言っておくことにした。

「うん。さて……ここからはギルを呼ばなくちゃ」

 ギル……誰のことだ?


 そう思うや否や、バタン! と、扉か何かが力強く開く音がした。

「……もう来てくれてたのね。呼びに行く必要は無かったみたい」

 俺は立ち上がり、外が見える大きな窓の縁にしがみついた。その向こうを凝視するように覗き込む。

 男が一人走っていた。かなり背の高い男で、短く逆立った金髪。口には火の付いたタバコをくわえ、あの異形の怪物に向かってすごい速さで駆けていく。

「……こんな真っ昼間から来やがって……! エリィが怪我でもしたら、どーしてくれんだコラァ!!」

 もの凄い形相のその男に呼応するように、怪物も一斉に目線と手足を男へ向ける。

「お、おい……あの人誰なんだ? 危なくないのか?」

 現場から目を離さないまま、恐る恐るエリィに尋ねる。だが、エリィはもう既に安心した感じだ。

「ええ、あの人はギルっていって、私の幼馴染みなの。私と違って〝バッジ〟を持った人だから、あの天界獣にも対抗できる」

 はいストップ。また分からない単語がでてきたぞ。えー、バッジというのはあの服に付けたりする缶バッジ的な奴か? そんな物の所有者だからと言ってどうなるんだ? あと……多分〝天界獣〟っていうのは話の流れからしてあの怪物のことだろう。そうか、あのバケモノは天界獣っていうんだな。

 ……名前なんて分かったところでどうにもならないけど……。

 俺が回らない頭を無理矢理回そうと試行錯誤していると、突然、窓の外からとんでもなく大きな爆撃音が聞こえた。まるで大砲でも発射したかのような激しい音だ。

 我に返って窓の外を覗くと、辺りには黒煙が立ちこめていた。その中には「怪物」改め「天界獣」と、あのギルとか言う背の高い男がうっすらと見えた。


「……ギャアアアアアアッ!!!」

 途端、途轍もない金切り声がこだまする。見ると、黒煙の中で天界獣が身をよじれさせながら、苦しそうに呻いていた。

「へへ、バーカ。お前くらいの〝狂獣種〟が、俺に敵うわけねェだろうが……おーいエリィ、もう結界解いてもいいぜ。こいつは死んだ」

 男の勝ち誇ったような笑い声が聞こえる。こっちを向き、部屋の中まで聞こえるほどの大声で、男……ギルは両手を拡声器のようにして言った。

「……これって……助かった……のか」

 俺は何が何だか分からなかったが、ようやく、ホッと胸をなで下ろす。どうやら死なずに済んだようだ。

 ……しかしあの男も物騒だな。大砲かどうか分からん武器で、あの天界獣を倒したみたいだし。


 しかし、エリィはどこか腑に落ちないような表情をしていた。その理由は、俺にもすぐ分かることになる。

「……ギル、後ろ! まだ生きてるわ!!」

 エリィが叫んだ。途端、まだうっすらと残る黒煙の中から、息を荒げる天界獣がよおよろと立ち上がった。

 俺はそれの光景に再度泡を吹き、ギルは驚いた表情で後ろのそれを振り返る。

「うおっ、まだ生きてやがったのか。しぶてェな……ダメ押しが必要か?」

 ギルは面倒くさそうに身体を天界獣に向けると、右腕を天にかざし、握り拳を作った。

「いくぜ……〝巨人大砲ゴーレムズ・キャノン〟!!!」

 ギルはそう叫んだ。瞬間、俺は自分の目を疑う。

 上にかざしたギルの腕が、ガシャンガシャンといった感じの機械音を立て、腕の根本から捻れだした。

「な……なんだ、あれ!」

 俺が口をポカンと開けている間に、ギルの右腕は一瞬で巨大な大砲に変形した。いや、造り替えられたといった方がニュアンス的には正しいか。

 その大砲は元の腕の三倍近くはある巨大さで、銃口は一メートル近く幅があるだろう。あんな兵器、俺はテレビですら見たことがない。

「くらいなァ!!」

 ギルが右腕を眼前の天界獣に向け、そう叫ぶ。

 それと同時に銃口が火花を散らし、巨大な砲弾がもの凄い勢いで発射された。正直言って弾速が早すぎたため、色は黒っぽいと言うことくらいしか確認できなかった。

 その砲弾は真っ直ぐに天界獣へ直進し、直撃した。

 もの凄い爆発音と同時に黒煙が再び立ちこめ、爆発音に混じった微かな悲鳴が響く。

「ギャアア……アッ……!」

 砲撃を喰らった天界獣は無惨に倒れ込み、赤黒い血を吹き、やがてピクリとも動かなくなった。



「いやー、はっはっは。割としぶとい奴だったなァ」

 彼はけらけらと笑いながら帰ってきた。窓のすぐ傍まで来ると、その様子を見て、エリィはひどく嘆息した。

「もう。完全に停止するまで気は抜かないようにって、いつも言ってるでしょ。念のために結界を継続しておいてよかったわよ」

「まァまァ、そう言うなって。お前が無事で何よりだ」

 エリィとギルはそれぞれ普通に会話を続けている。

 俺はと言うと、未だ冷めない夢の中にいるような感じだった。

 突然の危機が去り、少し冷静さを取り戻してから再び感じる。


「なんだよ、これは」

 口に出して言った。エリィが首をこちらへ向ける。

「何なんだ! 見たこともないバケモノに襲われたり、手から青白い光が出て柱になったり、人の腕が大砲になったり……。夢じゃないなら何なんだ! 一切合切理解できねぇ!」

 思わず声が荒くなった。息を切らし、膝に両手を置く。


「……あれ、そいつは?」

 ギルがこっちに気付いたらしく、窓の向こうから部屋を覗き込む。

 「そいつは?」だと? そりゃあこっちの台詞……。


「ああ、新しい〝資格者〟よ」

 ……は?

 エリィは至って真面目にそうギルに答えた。


 ……待ってくれよ。なんだそれは。

 頼む、誰か説明してくれよ。とりあえずはその言葉の意味を。

 そしてあわよくば、「何故俺がこんな所にいるのか」も……。



To Be Continued……


どうも、郷音ヒビキです。

相変わらず説明遅くなってすみません。

一応次の第4話で説明するつもりです。

ちなみに、エリィのあの呪文のコールは、実在する地名をもじったりして使ってます。

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