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第17話 〝悲劇の地鳴りは夜長に笑う〟

「……ん……」


 ――それは、夢の淵から呼び起こされるような感じだった。

 ベッドに潜って安眠をとっていた筈の俺の身体は、しきりに左右へと揺すられていた。

 隣からは、誰かの必死な声が聞こえる。


「……お……て……」



 ん…何だ……?



「お…きて……!」





「起きて、飛鳥君!!」

「うわっ!」


 ドサッ!


 いきなり、ベッドから叩き落とされた。……冷たい石の床が、やたらと頬に凍みる。

「…ってて……何だ一体…」

 まだ意識がはっきりとしない頭をがしがしと掻きながら、俺はゆっくりと立ち上がった。

 だが、そんな俺ののんびりとした行動に焦りを感じるかのように、隣では聞き覚えのある声が必死に叫びをあげていた。


「大変なの飛鳥君! 今すぐ来て!!」

「……え?」

 隣に居たのは、エリィだった。

 彼女は俺の服の袖を掴みながら、その小柄な身体で引っ張るようにして精一杯俺を急かしている。見た感じ、めちゃくちゃ慌ててるっぽい。

 ――が、当然俺には事情がさっぱり飲み込めず……。


「どうしたんだ? 何か――」


「今この街に——大量の天界獣が向かってきてるの!!」



 寝ぼけていた俺の頭は、その一言で一辺に目が覚めた。




             第17話 〝悲劇の地鳴りは夜長に笑う〟




「——な、何だそれ……」

 思わず言葉を漏らす。聞き覚えのある単語に、無意識に背筋が吊り上がるのが分かった。

「どういう事だよ!」

「分からない……でも、見えるの! 確実に結界の中に進入されてきてる!!」

 相変わらず意味不明な物言いだが……今は事情を把握する方が先だ。俺はエリィの両肩をがしっとつかみ、慌てる彼女を落ち着かせようと試みた。

「……とりあえず、一回整理させろ」

「あ……ごめんなさい」

 しゅんと静まる。

「まず、〝見える〟って何だ? お前には外から来てるっていう……その天界獣らが来てるって事が分かるのか?」

 そう聞くと彼女は、まだ軽く肩を上下させながらだが、途切れた言葉を繋ぎ合わせるようにして話し始めた。


「うん……。まだ言ってなかったと思うけど、私は無意識に、自分の周囲一定の範囲に特殊な〝結界〟を持ってるの。その結界の中に天界獣またはそれに準ずる物が進入した場合、どれだけ距離があっても、結界の内側であればそれらが〝見える〟ようになる。私はその結界と目をセットで所持していて、その感覚にも気づけるの。

 結界は大体1㎞半径まで届いてるから、私が気づいた時間から考えて、もう奴らは多分ここから700メートルくらいの地点まで来てると思う……」

 息荒く話し終えた彼女は、その白い肌に汗の玉を浮かべていた。

 ……成る程。相変わらず物理的根拠を全く無視した話ではあるが、分かったことはある。

 要するに彼女は自分から半径1㎞の範囲内であれば、天界獣達の気配に気付くことができる。そしてその姿を遠くからでも確認できる。

 昼間のエリィも、もしかしたらあのとき既にうっすら感じるくらいの感覚があったからなのかも知れない。


「とにかく、貴方はすぐにここの街の人達を逃がすのを手伝って! 敵の数は天界獣が三十体以上なの! この町なんてすぐに潰されちゃうわ!!」

 彼女は必死に俺を連れ出そうとしているが……ふと、俺の頭に疑問が浮かぶ。

「でもここは地下だぞ? そう簡単には見つからないと思うし、それならここに隠れてた方がよっぽど安全なんじゃ……」

 そう、昼間のコバトの話からしても、地下に移住してからのフォレストがそれ以降の被害を受けた様子はない。それなら——。


「いえ……多分、バレてるわ」

「え!?」

 彼女は、俺の言葉を遮るようにそう言った。

「私達が地下にいるって事ぐらい、もう分かってると思う。

 元々アルカディア社の目的は、貴方やギルのような〝資格者〟を殺すこと。奴ら——『帝』は、私が天界獣らを気づけるのと同じように、奴らも私達の存在に気づくことができるの。けど私達〝資格者〟が一度にこの「地底街」に集中してしまったことで、逆に奴らからも気付かれやすくなってしまったんだわ……」

「そ、そんな……」

 落胆に駆られ、体中の力が抜ける。

「けど、どうするんだよ! 今は夜中だから街の人達はみんな寝てるだろうし、そもそもこんな複雑な地形の地下を行き渡って、奴らが到達する前に全員を外に避難させるなんて不可能だ!! ここの全員が殺されちまうのだって時間の問題だぞ!!」

「分かってる……けど、今私達にできることは、一人でも多くの街の人達を逃がすことしかないじゃない!」

「…………っ」

 彼女の口調が少し荒くなる。

 静寂で無機質な部屋の中に、その声が反響しながら響き渡る——。

 ——まいったな……。今こうしてる間にも、天界獣と帝は刻々とこっちに迫ってきていると見て間違いない。

 焦燥から、唇がどんどん乾いていく。思考が……パニックになっていく。




 ——その時だった。



 ドゴオオオオンン!!


「!!?」

 急に、物凄い地鳴りが聞こえた。……どこか聞き覚えのある轟音に、俺の心臓はまたドキッとする。

「なぁ……今のって……」

「……天界獣の足音と見て、間違いないでしょうね」


 聞きたくなかった答えだった。



 

 ―――――――――――


「ハァ……ハァ……!」

 〝彼〟は荒く息をしながら、目の前の光景を愕然と見渡す。


 思えば今日は珍しく、中々寝付けない夜だった。

 夜風を浴びようとここに来ただけ。

 いつもと変わらぬ、満天の星空。

 それに満足し、地下に帰ろうとした途端。


 突然の気配を感じ——。


 振り返った先には……大量の、怪物。




 怪物・怪物・怪物・怪物・怪物——。


 見渡す限り、それしか移っていなかった。

 彼にとってもこの異常な景色は、その脚を震えさせるのに十分すぎる理由だった。

 何より、過去のあの光景とダブって仕方がない。軽い吐き気を感じる。


 ——けど。

 彼は拳を握った。

 自分の身の丈の何倍もある怪物を、それもこんな狂った数を、どうして自分が止められるというのだろうか。


 分からない。

 明らかに無謀だ。

 誰が見ても明白だ。



 だが。

 〝彼〟には、拳を握ることしかできなかった。



「相手になってやるで……街のモンには、ぜってぇ手ェ出させへんからなァ!!」


 〝彼〟——コバトには。



 ―――――――――――


 俺は狭い地下の中を、必死に走り続ける。

 エリィからは一人でも多くの人を起こして、一カ所に集めるように言われた。地上には既に天界獣が到達してしまっているからして、上にも下にも逃げ場はない。それなら街の人の知恵を借りて、どうにかそれ以外の脱出口が無いかが知りたいらしい。

 それ故俺はこの洞窟のような通路をかけずり回り、誰か街の住人と会うべく必死になっているのだ。


 ……が、何にせよ地下だ。

 アリの巣の迷路のように複雑なこの地形を、俺は——ぶっちゃけ、さっきから同じ所を行ったり来たりしているだけだろうなーということはうすうす感ずいていた。


「……だーっ! どっちがどっちだーー!!」

 堪らず叫びを上げる。その声は洞窟の中を駆け抜けていったが、この大声で地下の全員が起きてくれればいいのにと、無謀な望みを浮かべてしまう。

 ……完全に迷ってしまったらしい。


「はぁ………っ」

 とうとう、これ以上闇雲に走り回っても仕方がないと思い、その場で足を止めてしまった。

「くっそ、誰の部屋にも行けねぇ……つーか、ここの住人達は何でこんなに地下をややこしく造っちまったんだよ……」

 確かにこの地形は、相当住み慣れた者でなければ確実に迷ってしまうだろう。……俺が特別方向音痴な訳ではない。


「畜生……どうすりゃいいんだよ……」

 刻々と迫り来る死刑執行を、ただ待つ事しかできない死刑囚のような気分だ。

 早くしないと、もう地下にも踏み込まれてしまうだろう。そうなれば一巻の終わりだ。

「……くそっ!!」

 ドカッ!

 ——どうすればいいのか分からず、俺は思わず目の前にあった岩の壁を殴りつけた。


 じーん……。

 ……痛かった。拳に鈍い衝撃が走る。

 しまった。アニメとかだと結構普通にやっていたりするけど、実際はこれってやるとすっごい痛かったのだ。なにやってんだ俺……。



 ——ガラッ



「……?」

 ——ふと、今しがた殴りつけたばかりの壁を見る。何かが崩れたような音が響いた。

 そこには——。


「……この梯子(はしご)は……」

 そこには、岩と岩の切れ目の間に現れた、見覚えのある梯子があった。

 昼間使った……地上(うえ)へ登るための移動手段。


 この梯子の存在を知っているのは……思い当たる限り一人しかいない。




 ドゴオオオオオン!!


 ふと、上で衝撃が走った。

 嫌な予感が絶えないのは、拳の痛みのせいではないだろう。




To Be Continued……


ども、Kyouneです。

次回から、いよいよヒートアップです! お楽しみに!!


今回のタイトルは……ミクのオリジナル曲に詳しい人なら、「おっ」てなるかもしれませんね(「ハイ○ンスナン○ンス」とかね)。

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