表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/22

第15話 〝コバト〟 


 腕に絡まった重い鎖を、ぐるぐると回しながら外していく。

 よくもまあ、こんなに雁字搦めにされていたもんだ。鎖は灰色に鈍く光り、皮膚に食い込んでいた箇所にくっきりと跡が付いている。


 目の前の少年はさっきから俺のことをじろじろと、監視するように眺めている。

 こいつはさっきからずっとこのままだ。(理由は不明だが)一度は俺を殺そうとしていただけあって、なかなか警戒を解いていない。

 俺はというと大した情報も持てぬまま……しかし胸の中にある一つの確信を抱きつつ、その少年を横目ながら視野に入れた。




             第15話 〝コバト〟




 その少年は、緑色に光る二つの瞳を持っていた。

 年は俺より下で、エリィより少し上といった感じだろうか。全体的に小柄な感じで、服装はうっすらと土に汚れた半袖のTシャツを着ており、頭にはバンド……と言うよりかは、鉢巻きのような灰色の帯を巻いている。

 この、人のことを疑り深く探ってくる細い目を除けば、田舎の夕暮れ時に路地でサッカーボールでも蹴っていそうな、あるいはプラスチック製バットの素振りでもしてそうな、一人のやんちゃな子供に見える。


「ホンマにあんちゃん、よそから来た奴なんやな?」

「……ああ」

 少年はさっきから俺の周りを行ったり来たりと、しつこくこの事を聞いてくる。俺はひりひりする腕をさすりながら、少年を諭すように話した。

「さっきも言ったろ。俺はこの〝フォレスト〟って街に住んでる人間じゃない。お前と争う気はないし、争う理由もない。分かるだろ?」

「………」

 すると俺の言葉を聞いた少年は、小さめの(あご)に手を当てて、何か考え込む仕草をし始めた。下を向いてうんうんと唸り、何かを思案しているようだ。

 少年は時折辺りの廃墟を見渡したり、空を眺めたり、茶色の短髪をぽりぽりと掻いていたりもしたが、何十秒か経つと少年はすっと顔を上げた。


「分かった。ほな、約束してくれや。ワイはお前の言うとる事を信じる。そんかわり……お前が下の街に帰っても、この場所や、ここにワイがおったことは、街のモンには言わんといて欲しいんや」

 少年が話す聞き慣れない関西弁には少し戸惑ったが、言わんとしていることは勿論理解する。

「ああ、誰にも言わねぇよ」

「……そうか!」

 俺がそうきっぱりと返答すると、少年の表情は一気に晴れ渡った。


「ああ、ワイの名はコバトや。ここに住んどるモンでな。ま、よろしゅう頼むで」

「俺は……夏目 飛鳥(なつめ あすか)。しかしお前、何でもってさっき俺を殺そうとしたんだ?」

 俺は比較的平らな瓦礫の上に腰を下ろす。するとその少年——コバトは、申し訳なさそうに笑いながら頬を掻いた。

「あー……その、なあ。お前も知っとると思うけど、この街の連中、外に出るなっちゅーてとにかく(やかま)しいやろ? せやけどワイはこの場所が好きやから、下にあった梯子(はしご)でちょくちょく登ってきとんねん。

 まあ、こっちにも色々事情があってな? ワイが外に居った事が街のモンにバレでもしたら、ワイは即刻この街を追放されちまうんや。で、さっきワイはてっきりお前が街のモンだと思っとったから、こりゃまずいと思って……」

「頭にショックを与えて、上手いこと記憶を消そうとした訳か……」

「まあ……そういう事や」

 小刻みに頭をへこへこと(軽くだが)下げながら、コバトはきまりが悪そうにしていた。 

 ……俺はというとその話を聞いて、腹の底で収まろうとしていた怒りが再び燃焼するのを感じた。


 思わず、怒鳴る。

「っ馬鹿かテメェ!! あの高さを頭から落ちたら、記憶が無くなるどころか命が無くなる所だろうが! 最初だって、俺は瓦礫で頭をぶん殴られたんだぞ!?」

「いやぁ、だからすまん言うとるやろぉ……」

「すまねぇよ! 助かったからいいとはいえ……記憶を無くすために瓦礫で殴るわ鎖で縛って落とそうとするわって、どんな無茶だよ!?」

「ああ……うん。ま、まぁ結果オーライや。生きとったんやから、ええやないか」

「いや、ええやないか、じゃねぇよ……!」

 そこまで言ったところで、俺は急に脱力してしまった。こっちは理不尽極まりない理由で殺されかけたというのに……。

 〝もう、これ以上言っても仕方ない〟。

 脳天気に苦笑する目の前の彼を見ていると、嘆息混じりにそう思わざるを得なかった。

 ……俺もどうかしてるな。頭打っておかしくなったのか?


「もういいよ……。ところで……」

 話を切り替え、俺は辺りをぐるっと見渡す。

 ——変わらず佇む廃墟。

「ここ、どうしてこんな廃墟なんだ?」

「…………」

 ずっと気に掛かっていた事を切り出した。

 しかしコバトは少し俯くと、苦笑しながらすぐに答えた。

「ここはな、昔の〝フォレスト〟なんや」

「……? 昔の、とはどういう事だ?」

「せやから……今ある地下の街は、新しく作られた〝フォレスト〟なんや。昔はここに本来のフォレストっちゅう街があったんや」

 するとコバトは少し遠くを見るような目で、語り出した。


    ――――――――――――


 八年ほど前やったな。

 今この場所には、そこそこ活気があった小さな街、フォレストがあった。

 街のモンも少ないし、生活が豊かなわけやなかったけど。みんな笑いあって、楽しく過ごしとった。

 辺りは木々に囲まれとったからあまり目立たん街ではあったんやけど、だからこそ街のモンには、お互いが家族みたいな繋がりがあった。

 ワイもこの街が大好きで、沢山の友達と一緒に、楽しい毎日を送っとった。

 みんなこの毎日が、終わるわけない思うとった。


 せやけど、そんな毎日が終わったのは、突然やった。


 街は、襲われたんや。

 見たこともない〝化け物〟やった。この世の生き物とは思えん程の、バカでかいのが何十匹も襲ってきた。

 そいつらにワイらの街は一瞬で潰され………沢山の街のモンが、殺された。

 まだ子供だったワイは、訳も分からずその状況に圧倒されとったのを覚えとる。

 何も分からないまま、自分が生まれ育った大切な街を、人を、そいつらに壊され殺されていく所を、何もできずに逃げ回っとった。


 結局、街は完全に崩壊し、今みたいな廃墟になってもうた。

 これが今から八年前の出来事や。

 でも、ワイも含めて街のモン達は諦めとらんかった。

 みんなで街を復興させていこう言うてな。また位置から街を作り直したんや。


 せやけど、街はまた襲われた。

 今度は前よりも多い、ごっつ多い化け物を連れて来て。

 また、大勢の人が殺された。

 前と全く、同じ光景やった。


 けど、街のモンは絶対諦めんかった。

 何度でも、何度でも、街を作り直しては襲われた。

 我ながら、襲われると分かってて何で街を生き返らせとったのかは分からん。

 せやけどそうまでするほど、みんなこの〝フォレスト〟に希望を持ってた。


 でも、とうとう限界が来た。

 街は破壊され尽くされ、街のモンにもとうとう絶望が沸いてきた。

 でも、諦めることだけはできん。

 ほんなら、どうしたかっちゅうと……。



 〝地下〟に、新しい街を作ったんや。


 それが〝「地底街」フォレスト〟の始まりやった。




To Be Continued……

更新遅れてごめんなさい。

まだパソコンの調子が完全ではなく、ちょくちょくしか書けない始末。

今度完璧に直しておきます。


一話の長さがまちまちですね。今回の15話はまた若干短かったような気が。

執筆フォームが違うので、書いてる文字数がわかんねーです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ