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第14話 〝光指す地上にて〟


「……っく……」

 一つ一つ、梯子(はしご)の階段を登っていく。

 梯子は随分と古くなっているらしく、足をかける度にギシギシと木が唸った。

 しかし、折れていたりするところは鉄のような金具で所々補強が施されている。どうやら誰かが長い間、この上に上るために使っていたようだ。

 

 登り初めて早五分ほど。いい加減に手足が疲れていたところで、ようやく天辺に見える光が強くなってきた。

「やっぱり、地上に繋がってるんだ……」

 町長や街の人からさんざん言われてはいたが、俺は上った先の場所がやけに気になり、梯子を登る手足を早めていった。




            第14話 〝光指す地上にて〟




「ふう……」

 最後の階段に足をかけ、遂に地上に出た。


 ……が。

 眼前に映った景色は、俺が想像していたものとは全く違っていた。

「何だ……ここ……?」



 廃墟、廃墟、廃墟。

 目に飛び込んでくる景色は全て、無惨に崩れ去った視界いっぱいに広がる廃墟だった。

 辺りには沢山の民家の残骸が転がり、瓦礫から飛び出て、錆びた鉄の骨格が足元にごろごろしている。

 青く光る空の切れ間、雲と雲の間から漏れ込んでくる日光が、その廃墟を朧気に照らし出していた。

 俺は目の前の光景に異様さを感じ、首を回して端から端まで景色を覗き込む。

「一体、何が……」




「でやあああああああああぁぁぁぁっっ!!!」


 ガンッ!!



「…………!!」

 突然、後頭部に割れるような衝撃が走った。

「っつぁ……!!」

 いきなり襲った強烈な痛みに為す術もなく、俺は固い地面にばったりと倒れ込んだ。


「……くっそー、いつの間にかこの場所までばれてもーとったんか……」

 後ろで微かに、人の声が聞こえる。

 朦朧とする頭をふらふらと擡げると、視界の端にはぼんやりと、いかにも重たそうな瓦礫の塊を持ち上げている少年が映った。

 少年は鋭い目付きでこっちを睨みながら、鈍く光る瓦礫の先端を俺の頭に向けている。

「今もう少し殴っとけば、起きたときには忘れとるやろ……」

「は……!?」


 ガンッッッ!!!


 頭に再び衝撃が襲いかかり、途端。


 ……目の前が、真っ暗になった。



    ――――――――――――



「……ん……」

 ゆっくりと瞼を開ける。

 ずきんと後頭部に痛みが走ったが、俺はそれを押し殺してふらふらと立ち上がった。

「ってて……何があったんだよ……」

 目を擦りながら辺りを見回すと、気を失う前に見ていた景色と何ら変わらない廃墟が、佇むように広がっていた。

「……俺、どうなったんだっけか……。あー駄目だ、全然覚えてねぇ……」



「あーー! 生きとるーー!!」

 急に後ろから、凄い叫び声が聞こえてきた。

 はっと振り向くと……そこには大きな焦茶色の樹がずんとそそり立っていた。声の発生源を探そうとその樹を見上げると、天に届くほどの高い枝に、一人の少年が立っているのが見えた。

「しもたなぁ……さっき完璧に殺せとらんかったんか……」

 少年は悔しそうな顔をしながら、俺を睨み付けてくる……いや、今なんか凄い物騒な言葉が聞こえてきた気がしたが、ここはあえてスルー。

 脳の奥底で消えそうになっていた記憶を見つけると、急に腹を締め上げるような怒りが込み上げてきた。


「あいつ……間違いない! さっき俺を殴って気絶させやがった奴だな……!!」

「うっ、思いっきりバレてもーとるがな……」

 少年の顔は日の光の逆光でよく見えなかったが、まずそうな声を漏らしていることは大体察しが付いた。

 何の恨みで俺をぶん殴ってくれたのかは分からんが、とにかく事情を……。


「バレたからにはしゃーないな……お前にゃあ死んで貰うわ!!」

「…………はぁ!?」

 いきなり死刑宣告を喰らった。

 少年はその枝から勢いよく飛び降りると、実に華麗な飛び方で、次々に枝から枝へと飛び移り、あっという間に地面まで下りてきた。

 少年と俺との距離は数十メートル。

 しかし少年はまるでパンチを打つかのような格好で腰を沈めると、右の拳をぐっと握りしめた。


「死にさらせぇぇ!!」


 ジャララララララッ!!


 次の瞬間。鎖が噛み合う音が響いたかと思うと、開かれた少年の手の平から、何十本にも分かれた大量の鉄鎖(てっさ)が凄いスピードで飛び出してきた。

「な……!!」

 反応する間もなく、俺の右腕はその鉄鎖の一本に巻き付かれた。ぐるぐると何重にも回った鎖はがっちりと腕をとらえて放さず、瞬間、相当の重みがのし掛かる。

「く、くそっ、何だこれ……」

 俺が戸惑っていると、同時に飛び出した他の鉄鎖も俺をめがけて一斉に飛んでくる。

 避ける間もなく、俺は残った左腕・右足・左足・首に一瞬で鉄鎖を巻き付けられた。

「………!!」

 俺の身体を支える計五本の図太い鉄鎖は、遥か遠くの少年の手の平と連結している。

 どういう手品か知らないが……、それでも急に鳴り始めた俺の危険信号は、確実に五月蠅さを増していった。


「ふんっ……」

 少年がそう力んだかと思うと、俺を縛り付ける鉄鎖は全体的にゆっくり上へと上昇し、あっという間に地面から数十メートルの高度まで持ち上げられてしまった。今ここで放されて地面に落ちたら、骨折じゃすまないだろうという高さだ。

 首を何重にも締め上げる鎖に息が苦しくなる。それを何とかしようと藻掻(もが)こうとするが、同じように両手足も完全に拘束されているため、それもできない。

 完全に、動きを封じられた。


「さぁて、お前に恨みは無いけども、村のモンに知られた以上生かしておく訳にはいかんのや………そっから落ちて死んでまえ!!」

 少年の言葉と共に、いきなり重力の感じ方が真逆になった。

 身体を百八十度回され、地面に頭を向けられたのだ。


 やばい、やばい、やばい。

 こんな高さから、しかも頭から落ちたら即死に決まってる。

 恐怖と焦燥の入り交じった感情が頭の中を支配し、だんだん緩くなっていく手足の鎖に絶望を覚える。

 このままじゃ死ぬ……!! ……何か……!!


 そう思った瞬間、頭の中に、一つのセリフが閃いた。





「俺は、村人じゃねぇぇぇぇっっっ!!!」




 叫んだ途端、鉄鎖が緩んでいくのが止まった。

 視界に逆様に映る少年の表情は、たちまち驚きに満ちていく。息も絶え絶えに絞り出した言葉はどうやら届いたらしい。

 よかった、〝アタリ〟か——。


 しゅるしゅると鎖は地面に向かって下がり、やがて俺を地面に降ろした。

 バクバクと鳴り響く心臓の鼓動が痛い。俺はすぐには立てず、その場にぺたんと座り込んでしまった。


「——ホンマか?」

 少年は未だ疑心暗鬼といった感じだったが、俺の方に近づいてきた。


「……ああ、本当だ」

 ——本当さ。

 ここで嘘をつこうモンなら、瓦礫に頭を打ち付けて死ぬことになるぜ、俺は。



To Be Continued……


投稿遅くなって済みません。

ちょいとパソコンの調子が悪くて……何日もうpできないままだったことをお詫び申し上げます。次回から新章とか言ってたくせに……orz。

それとお気づきになられたかと思いますが、今回は急いでうpしたかったために内容短めです。次回の15話では、是非——! と、意気込んでみます。

こんな駄文に足を運んでくれる、読者の皆様に感謝です。

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