表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/22

第11話 〝暗雲立ち籠める暗闇の森〟


 脚の傷が痛む。

 ぽたぽたと滴り落ちる血が、その下の地面に赤く染み込んでいく。

 だが、今のギルには少しも気にならなかった。

 目の前で、戦闘態勢に入っている〝奴〟がいる。

 気は、そっちに向いていた。




        第11話 〝暗雲立ち籠める暗闇の森〟




「……らぁっ!!」

 右腕の大砲を奴に向かって構え直し、いち早く腕に力を入れる。


 途端、一瞬の出来事。

 地に向かって打ち込まれた砲弾……によって引き起こされた爆発は、辺りを煙で囲うにはうってつけだった。

「〝鉄の大剣(アイアンブレード)〟……」

 もくもくと硝煙が立ちこめる中、ギルは今まで大砲だった右腕を今度は剣に変える。鋼色に鈍く光り、身の丈ほどもある巨大な大剣だ。


 次の瞬間、煙の中からうなり声を上げる「人型」が飛び込んできた。

 すかさず横へパンチをかわし、右腕の大剣で斬りかかる。

「このっ……!!」

「キシャアアアアアアア!!!」

「……!!」

 瞬間、ぞっとしたギルは、思わず左腕も小型の剣に変えた。


 そこから始まる接戦は、とても筆舌には尽くしがたいものだった。

 ギルの剣による攻撃はことごとく「人型」の図太い腕や脚で弾かれ、時には刃を歯で噛み付いて止められる。

 一方「人型」から繰り出されるパンチやキックは、ギルは剣で交戦すると同時に、何とか全てをかわしていた。

 ……一見、対等にも見えるこの勝負だが、ギルは既にこの戦いが、自分にとって圧倒的に不利なものであることを感じ取っていた。

 まず、ギルと「人型」とじゃ身体が違う。

 宝石のように赤く、鉄パイプのように図太い奴の手足は凄い筋肉で、筋肉質なギルの身体も奴の前では霞んで見えるほどだった。

 その腕から鋭く空気を切って放たれるパンチは、一発食らうだけでも致命傷だ。実際、さっきからかわし続けているこいつの拳は、流れた先の大樹や石などを例外なく粉々に破壊している。大剣を盾にしてガードすることも考えたが、それだと確実に大剣ごと吹っ飛ばされて終わり、ということが目に見えていた。

 ……だが、ギルの剣を二、三発食らったってこいつは死にはしないだろう。

 「人型」の拳はギルの頬や服を掠りながらも、何とか一度も直撃を食らわないまま耐え凌いでいた。


「(くっそ!! このままじゃ、やられんのも時間の問題か……!)」

 そう思ったギルは、突如、右腕を大砲に戻した。

 素早い動作で砲身を奴に向けると、そのまま右腕に渾身の力を込める。

「〝巨人の大砲(ゴーレムズ・キャノン)〟!!」


 ドカアアアン!!

 目の前で爆音が響き渡り、もの凄い爆風に辺りの木々が千切れんばかりに揺れる。

 ギルは、確かな手応えを感じた。

「ギッ、シャアアアッ!」

 「人型」は直撃した砲弾に吹っ飛ばされ、遥か向こうで硝煙に包まれた。

 腹を痛めたかのような、「人型」の唸り声が聞こえる。

 当然のごとく、ダメージは殆ど無さそうだが。ともかく、一時的にでも奴と距離を取ることには成功した。

 ギルは深く息を吐き、今までの張り詰めていた状況を忘れるように、頭を左右にぶんぶんと振った。

「接近戦は自殺行為だったか……見たところ奴の攻撃は体技だけだったからな。ある程度の距離を置いた方が戦いやすい……」

 そう思っていた直後。



 身体が、吹っ飛ばされた。

 突如、目の前の景色が、凄い勢いで遠ざかっていく。

「……かッ……!!」


 流れていく景色の中に、拳を突き出す「人型」が見えた。



    ――――――――――――


「……っは、……っ、はっ……はっ……」

 荒く、小さく息をする。

 なにが起こったのか分からず、ギルは静かに首を(もた)げた。

 だが、じわじわと、しかし痛烈にやって来た腹の痛みに、顔を歪める。

「……く……っ……」

 朦朧とする意識の中、頭を左右に動かして辺りを見る。

 森の奥まで吹き飛ばされたのだろう。さっきまでとは全く違う景色だった。

 辺りは大木で囲まれ、その木々の僅かな隙間から、微かに日光が漏れ出しているだけだ。

 さっきより、圧倒的に暗い場所。

 だが、それ以上に、

 痛い。

「……肋骨(あばら)、何本かイったな、こりゃ……」

 声にならないほど小さな言葉を繋げ、何とか言葉にした。


 だんだん、状況が飲み込めてきた。


 ――迂闊(うかつ)

 完全に油断していた。

 舐めていたのだ、奴の身体能力を。

 〝一瞬で距離を詰め、殴り飛ばす〟。それは奴にとっては造作もないことだったのかも知れない。

 一度吹っ飛ばしたからといって、距離が取れると思っていた。その自分の浅はかな考えに、今さらながら少し腹が立つ。

「やっべぇ……身体、動かねぇ……」

 悲痛な声を絞り出したが、声を出すことすら苦痛を伴った。


 ぐらぐらと揺れる視界の中、だんだん意識が遠のいていくのが分かった。



 エリィは……そうだ、あいつは無事なのか?

 あと……えー、飛鳥だっけか? あいつともはぐれて……


 ……くっそ……


 ……あいつら……無事なんだろうな……





 身体が、沈んでいくのを感じた。



    ――――――――――――



「おい、また来たぞ。これで三人目だ」

「アンタが入り口をたくさん作りすぎたからじゃないか!」

「……しかし……そうでもしなきゃ、逃げる前にあいつらに喰い殺されるのがオチだ!」

「おいおい……今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ」

「他の二人は?」

「今ウチにいるよ」

「……ありゃ? こいつは……」



「酷い怪我だ」




To Be Continued……


ども、Kyouneです(やっぱりユーザーネーム変えました)

今回はギル中心。で、やっと第2部に入りました。

今回も思い知らされましたが、やはりバトルシーンを書くのは苦手なようです。なるべく簡略化すると迫力が出やすいらしいですけど……精進します。

……ふと思ったんですが、「幻想のアルカディア」。略して「幻アル」?

で、いいですかね?


※追記:今回は話の特性上、他のエピソードを挟むわけにいかなかったので、かなり短くなってしまいました。次の第12話でその分多めに書きたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ