表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/22

第10話 〝Deep Red Blood〟


 世界に生まれて。


 そりゃあその世は理不尽に退屈なところがある。

 俺だって、その日常から抜け出したいと思った事ぐらいある。

 ゲームの中に出てくるような魔法やストーリー、モンスター。

 夢物語のものとは知っても、確かに俺は〝それ〟に期待していたのだ。

 ずっと前にも思ってた。俺は〝それ〟を望んでいた。

 「夢」であっても構わない。

 例え「夢」でも見てみたい、と。


 えー……、済まない。話が分かりずらくなってしまった。

 端的に言おう。

 というか、今思い浮かぶ言葉はこれしかない。



「夢なら覚めてくれ」。




           第10話 〝Deep Red Blood〟




 俺が確認したのは全部で三体。

 その全てが昨日見たものより巨大で、明らかに禍々しい雰囲気を放っていた。

 既に一体はギルの手によって倒されたが、残りの二体は地を響かせながら俺達を追ってきていた。


 〝天界獣〟だ。


 二体はそれぞれ見た目に違いがあった。一匹は昨日見た天界獣をそのまま一回り大きくしたような感じ。身体がどす黒く、目が体中に幾つもあり、何十本もの触手のようなものを動かして移動するものだ。

 しかしもう片方は全然違う姿をしていた。身体はルビーのように赤い血の色で、「人」の形をしている。身体の大きさも普通の人間より一回り大きいといった程度だ。腕も脚も二本ずつあり、直立歩行でこっちへ動いてくる。顔は仮面をかぶっているかのようで、目や鼻があるべき位置に起伏があるだけだ。もう一体のように気味が悪くはないものの、これはこれでかなり不気味だ。

 ……で、俺はと言うと……


「はあっ、はあっ……!!」

 平坦な黄土色の土が続く野道を、息を切らしながら、迫り来るその二体から走って逃げていた。

 脚から聞こえる悲鳴を無視し、死にものぐるいで地を駆ける。

 心臓の鼓動ははち切れんばかりに動いていたが、ここで止まったら確実に殺されるという恐怖が、俺の脚を無理矢理に突き動かす。

 ふと後ろを振り返ると、さっき見た時とあまり変わらない景色が目に飛び込んできた。

 片方の、獣型の天界獣はそのヘドロの塊のような身体を凄いスピードで動かし、土の地面を滑るように追いかけてくる。もう片方の人型の方は急いでいる様子はなく、骨張った図太い両足でゆっくりと歩きながら、しかし確実に俺を追い詰めていた。


 ……何の因果でこんなことになったのか、未だに俺にはサッパリだ。 

 どうもこの『幻想世界』に来てからというもの、不測の事態が後を絶たない。まあそれ自体にはもう慣れた感が少しあるのだが……。

 今回のは、少し冗談じゃない感じだ。

 前触れなんて無かった。ほんの十分ほど前、いきなり図太い咆哮と地震のような地響きが鳴り響いたかと思うと、突然周りから三体の天界獣が現れた。それだけだ。

 話が断片的すぎて分からないと思うが、いま俺が確認できている事実は本当にそれだけだ。……っつーか、逆に俺が説明して欲しいくらいなんだよ、このあまりにも理不尽な状況を!


「ギャオオオオアアアアアア!!!」

「……っつ……!!」

 後ろから響き渡る天界獣の叫び声に、俺は走る速度は緩めないまま思わず耳を塞いだ。

 バカみたいにでかい咆哮だ。両手で耳を塞いでも、指の隙間から漏れ込んでくる音が耳の芯をつんざく。こんな奇声を何十分も聞かされたら、鼓膜が破れるか頭がおかしくなるかのどっちかだ。

 滴り落ちる汗、悲鳴を上げる膝、壊れそうな耳、口から飛び出そうな心臓。

 それらの苦痛を全て抱きかかえながら、俺はただ必死で走り続けた。


    ――――――――――――


「くっそ、あの野郎……」

 体中が痛い。ズキズキする。

 それというのも全部あの「人型」のせいだ。

 ギルは右腕から滴り落ちる鮮血を脇目に、さっき吹っ飛ばされた時に挫いた足を無理矢理に動かした。


 まさかこんなところで「人型」の天界獣に出会すとは思わなかった。

 ……いや、狙ってやがったんだ。事前にエリィが教えてくれたから良かったものの、咄嗟にガードしなかったら俺は今頃間違いなくくたばってた。

 「あいつ」に一発ぶん殴られただけで、こんな所まで吹っ飛ばされちまった。一体の狂獣種は既に倒したが、あの人型は格が違う。

 もたもたしてたら二人の命も危ないだろう。

「エリィともはぐれちまったしな……何しろ早ェとこみんなと合流した方が良さそうだ……」

 ギルは浅く舌打ちをすると、辺りの生え散らかった草木をかき分け、木々の隙間から光が差す方へ走っていった。


    ――――――――――――


「……っはっ、も、もう駄目だ……」

 とうとう体力に限界が来た。すねの骨は痺れ出し、頭の中が真っ白になってきた。

 酸欠でくらくらする頭をもたげようとするが、叶わずがくっと膝をついてしまう。

 後ろから変わらず追ってくる獣型の天界獣が、遂に獲物が観念したと言わんばかりに嬉々としたうなり声を上げた。

「ギャアアアアアアアア!!」

「くっ……」

 駄目だ。

 圧倒的な絶望感が頭の中を支配した。何とか脚を動かそうとするものの、命令に反して一向に立ち上がろうとしてくれない。怒りをぶつけるように必死に膝を叩くが、既に叩いた感触さえ感じなくなっていた。

 目線の先には、凄いスピードでダイブしてくる天界獣。

 その巨体に日の光さえも遮られ、暗闇に閉ざされる中……。

「ギャアアアアアア!!」

「………っつ!!」




 視界が真っ赤に染まった。

 おびただしい量の鮮血が飛び散り、辺りに悲愴な「悲鳴」が響き渡った。

「ゲ……!!」



 天界獣の「悲鳴」が。


「ゲギャアアアアアアアア!!!」

「え……?」

 後ろでは胴体を真っ二つに切断された天界獣が苦しそうにのたうち回っていた。下半身はすでにピクリとも動いておらず、上半身だけが必死にもがいている。その大きな切り口からは、真っ赤な血が止めどなく溢れ出していた。

 俺は訳が分からず、ポカンと口を開けたまま座り込んでいる。

 溢れ出ていた汗が一気に引き、動かない脚が痺れていることも忘れて。

「今……何が……?」

「ゲギャ……ギャ……」

 苦しむ天界獣の悲鳴は徐々に小さくなり、やがて聞こえなくなった。


 すると真っ二つになった身体はだんだん色素が薄くなっていった。

 ギルにやられた天界獣もそうだったが、どうやら天界獣は死ぬとその身体が消えてしまうらしい。

 身体が透き通るようにして完全に消えてしまうと、俺の身体に付着していた大量の返り血も、綺麗に消えてしまった。

「…………」


 何となく、右手に何かを握っていた気がした。



 ドゴオオオオオン!!


 すると突然、後ろでもの凄い爆音が聞こえた。

 何事かと咄嗟に首を向けると、遠くでは硝煙がもくもくと上がっている。

 何となく見慣れた感じの光景に、俺の脳裏にはある希望が浮かび上がった。

「もしかして……ギルか?」

 俺はがくがくと震える脚を無理矢理に動かし、どうにか立ち上がると、よろよろと移動を開始する。

 そういえばあの人型の天界獣は、俺を追うとき一度も走ってこなかった。

 距離からすると、今さっき爆発が起こった位置は丁度あの人型がいるであろう辺りだ。


 最初に襲われたとき、あの人型はすぐ傍にいたギルを森の奥へ殴り飛ばした。

 二体の天界獣は吹き飛ばしたギルの方へは行かず、〝資格者〟の俺を追い続けてきた。

 恐らくギルはもう殺したものだと思いこんでいたのだろう。俺が逃げていたのはそれからだ。


 ……直感で、分かっていた。

 さっきの獣型よりも、「人型」の方がよりヤバいという事は。

 

    ――――――――――――


「……へッ、えらく吹っ飛ばしてくれたじゃねェかよ、この野郎……!」

 崖の上から、呆然とする野郎を眼前に構える。

 右腕を〝巨人の大砲(ゴーレムズ・キャノン)〟に造り替え、砲身を向けると、あっちも両の図太い拳を構え直してきた。

 

 やる気って事だ。


「エリィにゃ手ェ出してねーだろうな……相手になるぜ、〝超人種〟!!」



To Be Continued……


ども、郷音です。

長らく休載していてすみませんでした。

試験も無事合格したので、これからはバリバリ書いていきたいと思います。

近々ユーザーネームを「郷音 ヒビキ」から「Kyoune」へ変えようかと思っている今日この頃。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ