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あの日

作者: ニニギ

 ある日、それは人によって感想が異なる1日であった。

 「興奮で寝られない」人生の中に、そんな日はしょっちゅうある。でも今日は、寝られないというより、寝たくない。ずっとこのまま起きていて明日が来なければいいのに。こうやってかつてアインシュタインやシュレーディンガーが否定したことを僕は受け止めようとしていた。でも、そんなのはミクロな世界の話で、僕のいるこの世界はマクロで、どうしようもなく事象が確定する。それなら、寝て疲れをとったほうが効率的なのか。そう思い、仕方なく床につく。どうしようもない「今日」が訪れる。

 いつものように、少しでも健康的な生活を壊したくない僕は8:00に目を覚ます。重い瞼を少しでも軽くしようと、カーテンを開け陽の光を浴びようとするが、眩しすぎて、結局閉めてしまう。親も仕事に行き、僕しかいないキッチンへと向かう。いつも通り、パンを食べようかとも思ったが、母がベーコンだけ焼いていってくれている。あまり食欲も湧かないし、これだけ食べてスマホを開く。今日は友人と遊ぶ約束がある。その予定に間に合わせるために準備をしつつ、ニュースを見る。

 今日は友人の家に集合し、共に近くの複合商業施設へと出向く。少しの希望と不安を胸に、友人の家へと歩みを進める。そして友人と合流し、複合商業施設へ行く。その中のいくつかの店舗を周り、様々な商品を吟味していく。今後に必要か、そうでないか。結局結論は出ないまま、なあなあと歩を進め、昼食へと向かう。運命の時はすぐそこに迫ってきている。

 フードコートで各々食べたいものを購入し一つの座席へ。そして訪れる12:00。運命の時。今日集まったのはまさにこのため。僕の大学の合格発表だ。入試が終わった時には大きく変わった傾向に自信をなくしていたが、他の人も解けていないようで安心し、少しずつ、自信を取り戻していた。僕はもう合格したかのような気持ちで、その合格発表を見届けようとしていた。だが少しの緊張感があったことは否めない。猫の入った箱が開かれた。猫は・・・死んでいた。僕は頭が真っ白になり、少しの間、何も考えられなかった。だが、事実、僕の番号はそこにはない。受け入れるしかない。頭ではわかっていても心がそれを拒んでいる。確かに、僕は必死に勉強をしていたわけではない。塾にも入らなければ、過去問以外の問題集を解いたわけでもない。ただ、ここ3年の過去問は十分なほど解けていたし、一次試験の点数も自己採点では十分だった。受け入れ難い事実であった。だが、それは紛れもない真実でもあった。仕方がない。そう思った僕は、親や親しい友人たちに連絡を入れたのち、学校へと連絡をする。そうしなければ、あの面倒臭い教師は確実に僕に電話をし、合否を問い詰めてくるからだ。だからこっちから言ってやった「落ちてました。失礼します。」ともちろん引き留めようとしてきたが、無視して電話を切った。もうあいつと関わらなくて良いのはいい気分だ。あのクソみたいな学校の合格実績を一つ潰してやったと考えればいい。そうすれば、少しは心が晴れるから。そうやって誤魔化しつつ、友人との食事を続けた。もちろん形容し難いほどどんよりとした空気ではあったが、僕がケロリとしているのを見て、友人も次第に元気を取り戻し、その後の会話を楽しんだ。

 その後の記憶は曖昧だ、何をしたのかは覚えていないが僕の手元には二冊の本があった。二冊とも、好きな作家のまだ読んだことのない作品だった。中古ではあるが、状態はかなり良さそうだ。きっと、友人と、僕の大好きな古本屋にでも行ったのだろう。だが、その本だけでは僕の心に満ちた腐乱臭を取り除くことはできなかった。

 親は「よく頑張った」と褒めてくれた。親戚からも連絡があり、よくやった、次に切り替えろと言われた。表面上はそうした。親に、親戚に、心配はさせられないから。僕が被った猫は生きているように見えた。でも、実際は死んでいた。まるで一酸化窒素中毒かのように。

 どうしたって、心は切り替えなきゃいけない。そう思った。そう思って、僕の好きな曲を何曲も聞いた。やはり1番響いたのは、僕が中学の時、何度も死にたいと思ったけれども、そこから救ってくれた曲だった。命ってのは大切で、守っていれば意外となんとかなるんだと。そう思わせてくれた。僕はこの曲に、二度も救われたのだ。

 それからは早かった。心は晴れ晴れとし、猫は息を吹き返した。奇跡かのように。

 一方でこのある日、僕の友人の猫は、そもそも死ななかった。僕にとっては猫が死んだ1日ではあったが、彼にとっては猫が生きていた、最高の1日であった。

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