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新たなる刃

 ランの啖呵を聞いて男は嗤う。


「ハッハッハッ! お前が俺と戦うのか? 冗談としては一流だがな。面白さだけで勝てるほど、安い相手ではないぞ?」

「女の子だからって油断してると、後悔しますよ? ファング!」

『心得た。第一段階(ファーストフェイズ)


 ランから白いオーラが立ち込める。

 同時に魔力が急速に高められていく。


「ほう……。伊達に大見得を切ってる訳じゃないってことか。これは失礼した、レディ」

「行きます……!」


 オーラをたなびかせながら、ランが突っ込む。

 逆手に構えられた短剣が男を狙う。


「速い。直接的だが狙いも悪くない。いい攻撃だ」


 男は笑う。

 自分に迫る刃を前にしても、動じる様子はない。


「だがな」


 刃が男の身体に届こうかという瞬間。

 男の姿が消える。

 否。消えたのではない。


 男は低く身体を落としていた。

 目にも止まらぬ速さ。

 そのまま流れるように態勢を変える。


「悪かったのは、俺を相手にしたことだ」


 次の瞬間には男の蹴りがランの横っ腹に入っていた。


「……かっ」


 勢い良く吹き飛ばされ、ランは地面へと叩き付けられる。


「ラン!」


 ルーシェが横たわるランに駆け寄る。

 僕とゴルドーは二人と男の間に立ちはだかる。


「おーおー。やる気十分だな。慌てずとも相手をしてやる。俺たち()()でな」


 男の合図にどこからともなく、同じ黒い外套の人間が続々と現れる。


「お前たち。さあ、パーティの時間だ」


 一斉に男の部下たちが襲い掛かってくる。

 数は五……十……十五人ほど。


「ディノ! 馬車とブラン殿に近づけるな!」

「分かってる!」


 次々に迫ってくる攻撃をいなしながら、馬車の方に気を配る。


「おっと、余所見は厳禁だぞ。少年」


 波状攻撃の中を男が縫うように飛び出してくる。

 ただでさえ、他の攻撃への対応に手一杯なのに、さらに男の蹴りが加わる。


「くっ……!」


 部下たちの方はともかくとして、男の攻撃は恐ろしく重い。

 そして、何より厄介なのは気配が薄いこと。

 目で捉えているはずなのに、意識に上りにくく、対応に遅れが生じる。

 そのせいで、態勢を保つのがギリギリで攻勢に踏み切れない。


 ここを凌ぐのに、二人だけでは限度がある。

 せめてあと一人。

 いてくれたなら、状況は変えられたかもしれないが……。


「(ラン、ルーシェは……)」


 ランは今だ倒れたままで、ルーシェはランについている。

 加勢は難しいだろう。


「……なら、やるしかないか」


 ルア砂漠で得たもの。

 魔力の制御技術ともう一つ。

 業魔のオーブと封剣・夜叉から名を継いだ、僕の新しい剣。

 業夜に秘められし力を解く。


「業夜、刀身展開(オーバーブレイド)


 僕の声に呼応して、剣の刃が白い光を纏っていく。


 刀身展開(オーバーブレイド)

 業魔のオーブとしての性質で吸い上げた魔力で剣の刃を形成する。

 剣に組み込まれた術式で魔力は霧散せず、留められる。

 発動直後から剣に宿る魔力は次第に増えていき、切れ味は同時に上がっていく。

 魔力量に応じて刃の光は変化し、今の白が段階(いち)である。


「また面白いことをしているな。曲芸師にでも転職したらどうだ?」

「冗談を……!」


 発した光で間合いができた。

 僕は男たちへと飛び込む。


 一閃。

 ただ真横に振っただけ。

 魔力の刀身は衝撃波を生み、男の部下たちを吹き飛ばした。


「つっ! 馬鹿げた威力だな。さすがにこいつらには厳しいか」


 男は倒れる部下たちを見ながら、短剣を構える。

 型も何もない、一見隙だらけの構え。


 しかし、踏み込めない。


 男の鋭い眼が、見せている隙は隙ではないことを示している。


「来ないのか。なら、こちらから行くぞ!」


 しなやかな身のこなしから繰り出される蹴り。

 身体を傾け、ギリギリのところで躱す。


「躱すか……。それなりにやるようだ」


 男は余裕そうに、容赦なく蹴りを連打する。


「そら、躱せ躱せ。当たっても知らんぞ!」


 鞭のようにしなる脚が矢継ぎ早に飛んでくる。

 風を切り、地面を抉る威力。

 頬を掠るだけで薄皮が切れる。


「おいおい。逃げてるだけか? その立派な剣も腐ってしまうなぁ!」


 男の挑発が飛ぶも、反応する余裕すらない。

 音を置き去りにして迫る蹴りを躱し、逸らすのに集中せざるを得ない。


 どうすれば――――


 余裕のない中で、必死に頭を回す。


 このまま避け続けるのは無理。

 最初は何とか避けられていた攻撃も徐々に掠る数が増えてきている。

 疲労と剣に魔力を流していることで動きが鈍くなっているからだ。


 なら攻撃する?

 闇雲に振っても、男の身のこなしでは簡単に躱される。

 第一、攻撃に転じる隙がない。

 隙があるとすれば、それは――――。


「……行けるか」


 試す価値はある。

 良い策かどうかは別として。


 僕は蹴りの猛襲の中、至った考えを行動に移す。


「なっ……」


 驚きの色に染まる男の表情。

 同時に動きが止まる。


 それもそのはず。

 男の脚は僕の脇腹にクリーンヒットしていた。


「ノーガード、だと……?」


「……ごふっ」


 内からこみ上げてきた血が口から溢れる。

 あばらは砕け散り、尋常じゃない痛みが襲い来る。

 意識が飛ぶほどの刺激を必死に堪え、耐える。


「なぜ……なぜ……倒れない」


 男の言葉をよそに既に準備が整っている剣を構える。

 刀身の色は黒。

 白、赤と続く、刀身の最終段階。


 回避を辞めた瞬間にありったけの魔力を剣に込めた結果である。


「刀色剣技、黒。黒芒閃!」


 後ろに構えた剣を振りぬく。

 稲妻を伴う斬撃は男を捉え、激しい衝撃を生む。

 

「ちっ……これは……」


 一瞬の攻防は、斬撃が制した。

 男の全てを飲み込み、地へと叩き伏せた。


 「かーっ! 効いたよ、今のは」


 男は天を仰いだまま、声を上げる。


「黒芒閃か。良い技だ。単純だが、強い。技ってのはシンプルなくらいが一番良い。気に入ったよ、お前」

「何を言って……」


 言葉の途中で、男は何事も無かったかのように起き上がる。


「おい」


 男の声にゴルドーの方で戦っていた部下が反応する。


「今回は引き上げてやる。目的のものは無さそうだし、負傷者もいるしな。また会おうぜ」


 そう言い残し、男は踵を返す。

 部下たちも倒れている負傷者を回収し、引き上げていく。


 終わった。

 色々あったが、幸い荷物もブランも無事。

 これでレイアロンへの移動を再開できる。


 そう思っていた。


「おい、ラン!」


 後ろでルーシェの叫ぶ声が聞こえた後。

 僕の横をランが走り抜けていく。


「待って! まだ……まだ終わってない!」


 こだまする少女(ラン)の叫び。


 先程までの終了ムードは無情にも消え去り、再び辺りに緊張が走った。

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