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試練開始

「それじゃ、みんな頑張ってね。ここから僕は鍛冶作業に入るから、もうアドバイスはなしだ。あったからって活性化するまでに至れる訳じゃないしね。みんなの健闘を祈ってるよ」


 リーシェはひらひらと手を振りながら、工房の中に引っ込んでしまった。


「それじゃあ、みんな。やろうか」


 ゴルドーの一言で皆がそれぞれの課題を開始する。


 僕もまた、目の前に立つゴーレムへと意識を向けた。


 ものも言わず、ただそびえ立つだけのゴーレム。

 不気味なほどに静かだが、魔力の反応は起動していることを示している。


「ひとまずは叩いてみるか」


 再び〈魔核再製(ミスエイト)〉を発動し、蒼鎌を構える。


 ありったけの魔力を込めて、


「蒼麟断!」


 全力で振るったはずの一撃。


 それはガキンッと一瞬火花を散らすだけに終わった。


「やっぱり……だめか」


 鎌を通して、まだ手に残る痺れが途方もない硬さを感じさせる。


 リーシェの言う通り、やはり力づくでのクリアは無理。

 魔力を撃ち込んで、コアまで届かせるしかない。


「魔力波形を捉える……」


 リーシェの言葉を思い出しながら、精神を研ぎ澄ます。


 魔力は精神状態の影響を大きく受ける。

 激しく怒れば、その流れは大きくなるかわりに繊細さを欠く。

 心を落ち着かせれば、細かく魔力を捉えられるが、流れは小さくなる、など。


 今必要なのは、魔力を細かく捉えること。

 だからこそ、精神を研ぎ澄ましているという訳だ。


「…………」


 集中すればするほど、捉えられる魔力はより詳細になる。

 そのはずだが。


「なんだ、これ――――」


 ゴーレムの魔力波形を捉えようとして、僕は咄嗟に意識をそらした。


 集中する中で見えてきたもの。

 それはゴーレムの体内で幾重にも展開された魔法の数々だった。


 おそらくは防御力を底上げする支援魔法。

 その魔法が、ゴーレムを構成する物質の欠片一つ一つに多重展開している。

 欠片一つずつが独立して魔力の流れを形成しているため、おびただしい量の流れが混在しているのである。

 これでは、流れを捉えきる前に僕の頭がパンクしてしまう。


「こんなの……どうやって……」


 あまりに膨大な情報量に心が折れかける。


 そんな時。

 ルーシェの言葉をふと思い出す。


 あの人は無茶苦茶を言うが、絶対にできないことは言わない。


 であれば、必ずできる方法があるのだろう。

 それだけを信じて、今は模索していくしかない。


「やろう」


 自分の頬をパチンと叩いて、気合いを入れる。


 もう一度、集中してゴーレムに意識を向ける。


 見えてくる流れの群体。

 一つ二つと魔力の流れを捕捉していく。


「う――――」


 次々と捕捉していくが、次第に頭がクラクラしてくる。

 いくつの流れを捉えたのか分からなくなり、気持ち悪ささえ感じてくる。


 失敗。

 失敗。

 失敗。

 失敗。


 挑戦しては、全体の半分も捉えきれない内に押し寄せる情報の嵐に耐えられず断念する。


 そんなことを繰り返す内に、辺りはもう暗くなり、日が沈みかけていた。


「はあ。ちょっと休憩しようか」


 工房の影で日除けをしていたブルーに声をかける。

 ブルーはぷるぷる身体を揺らしながら、こちらに近づいてきた。


 日は完全に沈み、夜が訪れる。

 灼熱の太陽が座していた空には、満天の星々。

 その下で僕とブルーは身を寄せ合っていた。


「……この調子で大丈夫なのかな」


 この一日を振り返る中で漏れ出た一言。


 まだ一日。

 一朝一夕にいかないことは重々分かっているつもりだ。


 だが、リーシェに気づかされた事実。

 パートナーを顧みていなかったという事実が僕には相当堪えた。


 この先、ヴァレットの足跡を追うにしても、冒険者として冒険するにしても、危険は付きまとう。

 絶対に危険に立ち向かえるだけの力が必要になる。


 とはいえ、今の戦い方ではブルーやルーシェ、共に戦ってくれるパートナーを傷つけてしまう。


 そんな考えがぐるぐると渦巻いて、僕に焦りを感じさせていた。


「ブルー……」


 ここまで一緒に頑張ってきてくれた最初のパートナー。

 そんなブルーを見ていると、じんわりと目から涙がこぼれる。


 悔しさ、情けなさ、罪悪感。

 色んな感情がまぜこぜになって、僕の頬を濡らしていく。


 ポチャリ。

 ふと頭に重みを感じる。


 そこには隣にいたはずのブルーが乗っかっていた。

 ブルーは僕の頭の上で身体全体を揺らす。

 ぷるぷるとした身体が僕の髪の毛をくしゃくしゃにしていく。


「ブルー、何してるの」


 僕の声に気も留めず、ブルーは身体を揺らし続ける。

 と、ここで一つの考えに思い至る。


「もしかして……頭を撫でてくれてるの?」


 すると、僕の頭からポチャッと降りて、その身体を縦に揺らした。


「ブルー――――」


 思わず僕はブルーを抱き寄せる。


 こんな不甲斐ない僕でもブルーはパートナーとして寄り添ってくれている。


 そのことが何より嬉しくて。

 僕にとって誇らしいことだった。


「うん。頑張るからね」


 僕は腕の中のブルーに向かって話す。


 また明日から頑張ろう。


 そう気持ちを新たにしていた。

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