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魔王

 異変に気づいたのは、どれくらい経った頃だろうか。


 特に痛みを感じることもなく、しばらく。

 死後の世界なんてそういうものかと思って、目を開けた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


 そこには口をバックリと開けたヘルタイガーがいた。

 ギラリと光る牙は、すんでのところまで迫っている。


 ただ妙だったのは、そこからピクリとも動かなかったということだった。


 どういうことだろう。

 首を傾げていると、


「危ないところだったのぅ」


 どこからともなく声がした。


 古ぼけた口調の割に幼さを感じる声。

 辺りをキョロキョロと見回してみても、声の主と思しき者はいない。


「そこからは見えん。右のほうじゃ。早う来い」


 謎の声に導く方向は瓦礫によって通路が塞がっている。


「そっちは行き止まりのはずだけど……」

「大丈夫じゃ。先の衝撃によって開かれた道がある」


 導かれるままに歩いていくと、予想通り瓦礫の壁。


「そこの端のほうに通路がある。少し瓦礫を動かしてみればわかるじゃろう」

「端って……あっ」


 よく見ると、瓦礫の隙間から光が漏れている。


 その奥には、壁に入った亀裂。

 ちょうど、人が1人通れるような幅に見えた。

 

 僕は瓦礫を動かし、ブルーと一緒に亀裂の中へ進んでいく。

 しばらく歩くと、少し広い空間に出た。


 中央には見るからに古びた剣が一本。


 全体が錆びてしまっているが、土色の中には本来の色であろう銀色も混じっている。

 そして、土にまみれてもなお、鈍い光を纏っていた。


 間違いなく、普通の剣ではない。

 直感的にそう感じられた。


「それに触れてみよ」


 何が何だか分からないが、僕は言われるがままにその剣に触れた。



「え」


 気がつくと、僕は一面真っ白な空間に立っていた。

 ブルーの姿も見当たらない。


 他に何もない、孤独な場所。

 そんな印象を受けた。

 

「ほら、ボケっとしておるでない」


 頭に衝撃が響いた。


 振り向くと、幼い女の子が一人。


 黒を基調としたドレスに身を包み、まるで人形のような姿だ。

 しかし、その佇まいからはただならぬ気品が漂っている。


「何をしておるか。さっさと返事をせい」


 もう一度頭に衝撃。

 どうやらバシバシと叩かれていたようだ。


「えっと……君は?」

「ようやく気が付きおったな、小僧。余が誰かと問うたな。よく聞け。余はお主の命の恩人じゃ!」


 少女はえへんと胸を張る。


「ほれ、大きな虎に今にも噛みつかれそうだったじゃろ? それをギリギリで止めてやったのじゃ」

「……君が?」

「そうじゃぞ。何なら今すぐに虎を動けるようにしてやろうか? 再びお主は追い詰められ、ガブリと人生終了は間違いないじゃろうがな」

「いや……出来ればやめていただけるとありがたいです」

「じゃあ、もうちっと感謝の言葉ぐらい出んもんかのー」


 一体何が起こったのか。

 何一つとして理解できず、頭は混乱したままだが、何とか言葉を絞り出す。


「あ、ありがとう」

「うむ! 素直なのは良いことじゃ。まあ感謝が遅れたことは大目にみるとしよう」

「それで……これは一体?」

「ん? ああ、そういえば何も説明しておらんかったな。余はヴァレット。ヴァレット・ローン・リスタベルク。今で言うところの魔王である」

「へえー、魔王なんだ」


 自分で口にしながら、どこか違和感を覚える。


 明らかに予想外の単語が混じっていた気がする。


 頭の中でその単語を反芻する。

 すると、徐々に思考が追いついてきた。


「ま、魔王って、あの魔王!?」

「あの、とはどのことを指しておるかは分からぬが、魔族を統べた王である」


 魔王。それは誰もが知る脅威的存在。


 魔族を束ねる闇の王である。

 噂で聞くだけの存在だったが、まさかこんなに小さな女の子だったとは。

 にわかには信じがたいものだが……。


「……その魔王がどうしてこんなところに? って言うかここはどこなんです?」

「うむ、順番に話そう。まず、余は魔王といえど、今の魔王ではない。その歴史を辿るならば、最古のものにあたる。世で生きる魔を宿した生命を統括、統治したのは余が初めてだからな」


 最古。要するに初代ということ。


 魔族にどれほどの歴史があるのか、はっきりとは知らない。

 しかし、遥か昔とされるおとぎ話の数々には魔族が登場することが多くある。


 話は真実なら、相当の年齢であることは間違いない。

 魔族は容姿と年齢は関係ないのだろうか。


「……お主が何を考えているかは分かるぞ。余の姿は気にするな。話を続けるぞ」

「……はい」

「で、それまでバラバラに動いていた魔族がまとまり始めた。人間はそれを恐れたのじゃろう。魔族討つべしと人間は一斉蜂起した。つまりは戦争、余は人間たちと戦った末、封印されておったのだ。ここは封印に用いられた剣の中。当時の人間たちが技術を凝らして創り上げた宝剣じゃ」


 魔族との戦争、宝剣による封印。

 理解の範疇を超えた話に僕はただ話を聞いているしかなかった。


「本当であれば宝剣はその加護により何人も寄せ付けず、見つからないはずじゃった。じゃが、何せ気の遠くなるような昔の物。かなり力が落ちてきているようじゃ。この剣はダンジョンの中に姿を現してしまったのじゃからな」

「……でも、どうして僕を助けてくれたんですか」


 魔王の気まぐれか、あるいは戯れか。


 僕の問いに少し考える素振りを見せる。


 「余は気の遠くなる時間をこの宝剣の中で過ごした。とうに外の世に対する興味など失せていてな、眠りについていたのじゃ。そんな中、この剣がダンジョンに現れてしまった。何事かと思い、外を覗いてみれば、見えたのじゃ、お主とパートナーのスライムがな。迫る危機を前にあのスライムを懸命に庇う姿。実に見事なものだった。余もまたお主と同じく仲間である魔族を力とし、戦っていた。余と同じ者はもう見ないものを思っていたが……。なんにせよ、同志であれば、助けるのは必定。そこに理由は必要か?」

 「......いえ」


 自身を魔王と呼ぶ少女からのあまりに真っ直ぐな言葉。

 強い意志を感じさせる瞳。


 それらは目の前の少女が魔王であることを納得させるだけの気配に満ちていた。



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