エスパーダの最期
シンシアとやってきたのは、シュヴァリエ・ガーデンの連盟拠点──。
その地下にある、牢舎だった。
薄暗い石造りの牢舎にはいくつか牢があって、クラン内で犯罪を犯した人間は一時的にここに留置され、衛兵隊に引き渡される。
先日のドロシーさん誘拐事件の際に、黒の下膊の手引きをした第五旅団のメンバーもここに収監されていた。
シンシアが案内してくれたのは、その牢舎の最奥。
5人まで収容できる、一番大きな牢だった。
「アデル?」
「……っ!? デズモンド!?」
そこに収監されていたのは、メスヴェル氷窟で僕たちを襲ったエスパーダの面々だった。
「お、お、お前、生きていたのか! ……良かった!」
アデルが、顔を真っ青にして、すがりつくように鉄格子を掴む。
「し、心配してたんだぜ? お前がダンジョントラップに引っかかって下層に落ちちまったのを見たときは、心臓が縮み上がったぜ」
「そ、そうよ!」
間髪入れず、マリンが鎮痛な面持ちで続く。
「あたしたち、ずっと心配してたのよ!? 助けようとしたけど間に合わなかったから、ずっと後悔してたっていうかさ」
「そうだとも。不慮の事故に巻き込まれてしまったお前を危惧していた」
「なぁデズモンド、お前からも『彼らは無罪だ』って言ってくれよ? また仲良くやろうぜ? 仲間だっただろ、俺たち」
「……」
一通り彼らの言い分を聞いて、呆れるを通り越して感心してしまった。
ララフィムさんから情報を得たシンシアが捕まえてくれたんだろうけど、きっと「助けようとした」とか「間に合わなかった俺たちのせいだ」とか偽善者ヅラしてたんだろうな。
申し訳なかったとか謝罪の言葉があったらちょっとは考えてやろうかと思ったけど──本当に救いようがないヤツらだ。
「デズモンド。キミに問いたい」
牢舎にシンシアの声が響く。
「ララフィムからの報告では、彼らは魔導具『涅槃寂静』を使ってキミたちを下層まで落としたとある。これは事実か?」
「……」
牢舎に静寂が降りる。
僕は小さく息を吸って、はっきりと答えた。
「事実です。彼らは魔導具を使って、僕たちを殺そうと企てていました」
「……っ!? デ、デズモンド!? 何を言ってやがる!?」
アデルが悲痛な声で叫ぶ。
「お、お、俺たちはトラップにかかっていたデズモンドたちを助けようとしたんだっ! 神に誓って殺そうなんて考えてねぇ!」
「そそ、そうよ! それに、あたしたちが殺そうとしてた証拠がどこに──」
「黒の下膊に聞けばわかりますよ」
アデルたちの言葉を遮って続ける。
「アデルたちは黒の下膊に大金を払って僕の捜索を依頼したんです。なので、リーダーに聞けば彼らとのつながりが全部わかるはずです」
「……なるほど。涅槃寂静をどこで手に入れたのか不思議に思っていたが、黒の下膊に関わっていたか」
「……っ!」
シンシアの説明を聞いて、アデルが息を呑んだ。
あの魔導具はエピッククラスの超レアアイテム。
確かに、どこで手に入れたのか疑問だったけど、黒の下膊から譲られたのなら納得はいく。
「クソったれがッ!」
逆上したアデルが鉄格子を力任せに蹴る。
「ふざけんじゃねぇぞッ! なんで俺たちがこんな目に合わなきゃいけねぇんだよ! そもそも、そのゴミ野郎が俺らに弱体化の付与術をかけたせいだろ!? 俺らじゃなく、そのゴミを捕まえろよ!」
「ん? 弱体化付与術とは何のことだ?」
「そいつをクビにしてからC級でも満足に戦えなくなっちまったんだよ! 超新星と呼ばれれた俺たちが急に落ちぶれちまったのは、そのゴミが腹いせに俺等に弱体化の付与術をかけたからだ!」
「……なるほど。そういうことか。これは驚いたな」
シンシアが呆れたような笑みを浮かべる。
「これまでB級ダンジョンを探索できていたのは、自分たちだけの力だと思っていたのか?」
「はぁ!? 何を言ってんだ!? 当たり前だろ! 俺らはB級モンスターと互角以上に渡り合って来たんだ! S級ダンジョン踏破も近いって噂されてて──」
「はっきり言おう。キミたちがB級モンスターと戦えていたのは、デズの乗算付与のおかげだ」
シンシアのその言葉に、アデルが続く言葉を飲み込んだ。
「……乗算、付与?」
「そうだ。デズの付与術は能力を数十倍に上げる力がある。そのおかげで新人のキミたちはB級モンスターと戦えていたのだ」
「そっ……」
アデルは何か言いかけて、ハッと息を呑む。
多分、心当たりがあったのだろう。
それはそうだ。
散々彼らには説明していたからね。
まぁ、全く信じてくれなかったけど。
追い打ちをかけるようにシンシアが続ける。
「デズは【嗅覚強化】でモンスターの位置を把握し、【耐寒強化】で防寒具無しで寒冷エリアを歩けるようにできる。デズがいなくなって、やけにモンスターから不意打ちを受けたり、寒冷エリアで足止めを受けたりしたのではないか?」
「……っ!」
アデルだけじゃなく、マリンやカロッゾも目を丸くした。
どうやら思い当たる節があるらしい。
「デズはお前たちに弱体化付与など使っていない。ただ、デズのサポートがなくなり、本当の実力が露呈しただけだ。C級ダンジョンすらまともに探索できない、新人相当の実力がな」
「……そ、そんな」
アデルが腰から崩れ落ちる。
魂が抜けたように呆ける彼を見て、いたたまれない気持ちになってしまった。
これ以上は、もういいだろう。
「……ありがとう、シンシア。もう大丈夫。彼らを衛兵に渡そう」
「え、衛兵!? ちょ、ちょっと待ってよ!?」
マリンが慌てて駆け寄ってくる。
「あ、あ、あたしは!? これからあたしはどうなるの!?」
「僕にもわからない。だけど、覚悟はしてたほうが良いと思うよ。同業者殺しはこの街で一番重い罪だからね」
「……っ!?」
マリンの顔からさっと血の気が引いていく。
最低でも冒険者ライセンスの剥奪。
それと数年間の強制労働。
悪ければ──絞首刑だ。
「嫌っ! 嫌よそんなの! なんであたしがこんな目にあわなきゃいけないのよ! あたしはアデルについていっただけなのよ!?」
「お、俺もだ! 俺も悪くないぞっ!」
今度はカロッゾ。
「アデルに協力していただけ……いや、こいつに脅されていたんだ! 悪いのはアデルだけだ! 俺は被害者だ!」
「あたしは悪くない! わかってよデズモンド! お願いだからっ!」
「……」
もうこれ以上見ていられなかった。
あとはシンシアたちに任せよう。
懇願と恨み節を叫ぶマリンとカロッゾの声を聞きながら、牢舎を後にする。
なんとも悲しい気持ちになってしまった。
エスパーダを追放され、さらには彼らに殺されかけたけど──少し前まで彼らは間違いなく同じ志を持った仲間だったんだ。
出会ったばかりの頃は、みんなで夢を語り合って一緒に頑張ってきた。
一体どこで道を間違ってしまったんだろう。
今となってはわからないけれど、その岐路に戻ることはできない。
だけど……アデルたちにはちゃんと罪を償って、あのときの気持ちを思い出して欲しいと思う。
「……あっ! デズきゅん!」
拠点を出て宿に戻ろうとしたとき、ふと、声をかけられた。
「やっと出てきた! もう、遅いよ!」
「リ、リンさん?」
腰に手を当てて頬を膨らませていたのは、リンさん。
その傍には、ガランドさんとドロシーさんもいる。
「ど、どうしたんですか?」
「どうしたんですか、じゃないよ! 約束してたでしょ!?」
「へ? 約束?」
「ちょっと何? ヒュドラの毒でボケちゃった? みんなでご飯に行こうって約束したじゃない」
「……あ」
そういえばそんなこと、言ってたっけ。
「さらに今回は『お祝い』もせねばならんからな」
ガランドさんが嬉しそうに続く。
さらにドロシーさんも。
「そ、そうですよ。今日はデズモンドさんの臨時団長就任祝いも兼ねて、盛大にやりましょう?」
「……みんな」
なんだか涙が出そうになってしまった。
やっぱりこのメンバーでパーティを組めて、本当に良かったと改めて思う。
「でも、僕のお金で、ですよね?」
「もちろんそうだよ──って言いたい所だけど、今回はあたしたちの奢り。高級店でもどこでも連れってってあげるから」
「うぇっ!? どういう風の吹き回しですかリンさん!?」
「ん? どういう意味かな?」
笑ってない笑顔を向けてくるリンさん。
いや、お金にガメついリンさんが奢るって言い出すなんて、隕石でも振ってきそうなレベルじゃないですか。
でも、とみんなを見て思う。
祝ってくれるのは嬉しいけど、高級店で奢ってもらうのはさすがに悪いしなぁ。
「……あ、そうだ」
しばし考えて、良いアイデアを思いつく。
「そう言えば、安価で高級料理を食べる良い方法があるんですけど、ちょっとやってみませんか?」
「……え?」
「安価で?」
「高級料理?」
ドロシーさんに続き、ガランドさんとリンさんも目を瞬かせる。
「そうです。上流階級の人たちが食べるような料理を安価で出してもらえるお店があるんです。そこでなら、盛大にやっても財布に優しいですよ」
「なるほど。それはいい考えだ」
「いいねいいね! 興味ある! てか、そんなお店があるなんて初耳だよ!」
大興奮のリンさん。
そんなお店があるなら、これから入り浸りたいとでも言いたげだ。
だけどリンさん。
残念ですが、僕と一緒でなければ食べられないんですよね。
「とりあえず、行きましょうか」
そうして僕たちは、そのお店へと向かった。
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