保田なお 音声データ①
もふちゃん、大活躍の巻!
『結界石による音声データ録音の書き起こしと補足』
「越中も結界の中に入ってくれ!」
「センパイは?」
「俺も結界を張って準備に取り掛かる!」
俺達は結界石の効果が切れる前に保田なおの元に辿り着くことができた。
殺人鬼の姿を確認すると同時に越中ひなたは自分の結界石を割り、
「なおちゃん、今の結界が切れたらこれ使ってね」
と、事前に手渡しておいた結界石の一つを保田なおに放り投げた。保田なおはおぼつかない手で何とか受け取る。
初対面にも関わらず名前呼び。社交性の高さが羨ましくはある。
「もふもふ怪獣!」
ここで問題が発生する。殺人鬼と戦うためにもふもふ怪獣を呼んだにもかかわらず、越中ひなたの腕の中から出てこないのだ。
「もふちゃん?」
特に説明していなかったので越中ひなたは戸惑っていた。
「もふもふ怪獣は俺が仕事で戦う時の相方なんだよ。もちろんただのペットじゃなく、存在自体も第六感が優れていないと見えないんだ。きっと保田さんは何も見えていないんじゃないかな」
保田なおが肯く。
「分かりやすくいうと召喚獣みたいな感じだな」
もう一度、もふもふ怪獣を呼んだ。が、俺の元に来ようとはしなかった。
「……なんだかもふちゃん、嫌がってるんですけど」
もふもふ怪獣は越中ひなたにひしっとしがみつき、嫌々というそぶりを見せる。今までこんなことが起きたことはなかった。
「もしかして、センパイがちゃんと名前を呼ばないから行こうとしないんじゃないっすか?」
困っている俺を見て、越中ひなたがさも閃いたと表情を浮かべてこちらを見てきた。
「まさか」
「そのまさかですよ。ほら、呼んでみてくださいよ!」
「……もふ、おいで」
「もう、センパイ!もふちゃんです!」
「…………もふちゃん、おいで」
ここでようやくもふもふ怪獣が俺の元にやってきた。越中ひなたが「でしょ?」とドヤ顔を向けてくる。
何も見えない保田なおからすればよく分からない行動だろう。今後、何も見えない顧客の前で「もふちゃん!」と叫ぶ頭がおかしいと思われる野郎の姿が展開されるわけだ。
越中ひなたにはなにがなんでも相棒になってもらうことを俺は決意する。もふもふ怪獣に名前を付けてしまった責任はとってもらう。野郎一人ならともかく、そこに女の子がいて会話が成立していれば顧客から冷たい目で見られることは避けることができるはずだ。
「越中。この仕事が片付いたら俺のパートナーになってもらうからな」
「えっ、うぅ。マジで言ってるんですか。センパイ」
「もちろんだ」
「最近までそんなそぶりなかったのに。別に嫌ってわけじゃないんすよ。むしろ……」
途中から声が小さくて聞こえなかったが、なぜか越中ひなたは若干耳を赤くして顔を背けていた。
もふもふ怪獣が手元に戻って来たので仕事モードに切り替える。といっても俺がもふもふ怪獣に力を注ぐだけなので、特に慌ただしいわけではない。ただ、時間が必要なのだ。
ガシッ、ガシッ
その間も殺人鬼はアイスピックで結界を割ろうとしていた。
俺達が来て気が紛れていた保田なおも事件当日のことを思い出したのか怯えはじめ、両ひざをついて自分自身を抱きしめていた。手の中に結界石は握っているが、このままだと結界石が切れるタイミングで上手く使用できるか不安だ。
「そういえばセンパイ。どうして殺人鬼は姿を現しているんですか?」
越中ひなたが話しかけてきた。けっして今話す内容でもないのだが、保田なおの様子を見てあえて声をかけてきたのだろう。話を聞くことに意識を向けることができれば恐怖から少しは解放される。
「山中里香さんの押さえていた力がなくなったから他のふたりの前に殺人鬼は実体として姿を現したわけじゃないっすか。でも、なおちゃんのところには山中里香さんはいますよね?」
「たしかに山中里香いるし、今でも保田さんを守ろうと殺人鬼の力を押さえているよ。実体が現れている理由は別のところだよ」
「別の理由ということは、山中里香さんじゃなくて殺人鬼の方の状況が変わったということですか」
「そう。単純に殺人鬼の力が増大したんだ」
「なぜそんなことになったんすかね」
「今までは殺人鬼の力は三分割されていたわけだろ?」
「あぁ、そういうことですか……」
越中ひなたは会話を終了してくれた。これ以上の話を保田なおの耳に入れる必要はないという俺の思惑に気づいてくれたからだ。
殺人鬼の三分割されていた力が一つにまとまる。それは他二人のところに殺人鬼がいる理由がなくなったということだ。つまり、殺人鬼は殺人という目的を果たし、まだ目的を果たしていないもう一体のところに戻ってきたのだ。
三人の関係性は正常なものとはいえないし、後になれば知ることになるだろうが、今現状において保田なおが知る必要ない情報だ。おかげで保田なおは何の話か分からず戸惑った表情を浮かべている。
「よし、準備できた」
今回は力押しで一気に片付けることにする。本来なら厳しいかったのかもしれないが、山里香が殺人鬼の力を押さえてくれているのでなんとかなりそうだ。というよりも、山中里香の力がなければ結界石も割られていた可能性もあるし、俺の力だとかなわない可能性もあった。それを感じさせなかったどころか、アイスピックだけが見えていた時に殺人鬼が襲おうとしていることすらも俺に気づかせなかったぐらい、殺人鬼の力を押さえていた山中里香の守ろうという思いがそれだけ強かったのだろう。
力を注ぎ終えたもふもふ怪獣を肩に乗せ、腕を前に突き出す。
もふもふ怪獣は肩から腕にかけ走り込み、手先から飛び上がり殺人鬼に向かっていく。
「いけ!ネコパンチだ!!」
みゃお!
ここでお願いです!
書き終えることができれば、月曜日には一部完結予定です。
最終日、皆様には、
下の[星]をクリックでたくさん照らし、
そのちょい右上の[いいね]をクリックしていただけないでしょうか。
面白くなければ星は一つでもかまいません。
最終日のみで結構ですので、
ぜひ、よろしくお願いいたします。




