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越中ひなた①

連載物始めてみました。

初日だけは2回投稿します。

次の話まで読んでいただければ、どういう流れで話が進むのかが分かるかと思います。

ー越中ひなたさんですよね。長澤家殺人鬼の怪談について詳しいと聞いたんですけど、お話を伺ってもよろしいですか?


「センパイ、なんすか、その話し方。メディアか探偵の人みたいなんですけど(笑)」


ー……仕事だからな。こういう話し方になるんだよ。お前も笑わずに真面目にやってくれよ。いちおう、情報料も出すんだからさ。


「情報料ってもちろんユキチですよね。福沢諭吉♪」


ーユキチなんてもってのほか。お前に渡せるのはヒデヨだ。具体的に言うと、野口英世3人分。


「ええっ!前金もらってるんだから、もっとくださいよぉ」


ー今回の仕事は前金少な目、後払い一攫千金って感じなんだよ。だから仕事の経費はできるだけ抑えたいんだよ。お前なら分かってくれるだろ?


「仕方ないっすね。わたしとセンパイの仲ですからね。じゃあ、仕事が終わったら焼肉おごりってことで!」


ー分かったよ。依頼解決してからだぞ。今は懐が心細い。


「了解です!」


ーじゃあ、インタビューを再開するぞ。話し方を戻すけど笑うなよ。


 「はぁい。でもセンパイ、今のタイミングで長澤家殺人鬼の怪談を聞きたいってことは、もしかしてこの間の女子高生が亡くなった事件と関係してます?」


 ー関係しているのかどうかを判断するために話をお聞きしたいってところですかね。では早速ですが、長澤家殺人鬼の怪談について教えてもらえますか。


「なんかその話し方に慣れないですね。まぁ、我慢しますけど。とりあえずセンパイ、まずあの家にあった3年前の事件については知っていますか?」


ーいちおう調べましたが、改めて教えていただけるとありがたいです。資料とはまた違った情報というのもありますしね。


「あの家って夫婦と子供二人の4人家族で住んでたんですよね。それで3年前の夜、家族が寝静まった頃に男が家の中に侵入した事件があったんですよ。犯人はまず夫婦の寝室に忍び込み、次に子供部屋に入り、次々と家族を手にかけていったんです。その手口がまた残忍で、手に持ったアイスピックで目、鼻、口などの顔のパーツのみを狙って必要以上に何度も何度も刺していったみたいなんですよ。警察も近所からの通報ですぐに駆けつけたみたいなんですけど、すでに犯人は逃げた後だったみたいだったらしいんです。現場に関しても凶器のアイスピックは家の中で発見できたんですけど、それ以外の犯人につながるような手がかかりもなく、近所の人は犯人が戻ってくるんじゃないじゃないかといまだに不安を抱えているみたいです。またいつ、自分の家に来るかもって想像するとたしかに怖いですよね。それもあってここら現場周辺の近所は、警察は今も多めに巡回していますね。」


ーありがとうございました。だいたい資料通りでしたけれど、少し気になった点があります。今ほどの話で男が家に侵入したということでしたが、犯人の手がかりがなかったにも拘わらず、どうして男と断定できたんでしょうか?たしかに猟奇的殺人ではありますが、凶器はアイスピックと誰でも持てるようなものですし、被害者も寝ていたということなら、女性でも犯行は可能ですよね。警察から犯人が男女どちらかという公表はなかったはずです。


「家のリビングに足元から天井近くまで大きい窓ってあるじゃないですか。犯人はそこから家の中に入ったらしいんですけど、よく泥棒が家に侵入するときの手口ってあるじゃないですか。鍵穴に道具を差し込むやつなんですけど、あれなんていうんでしたっけ」


ーピッキングでしょうか?


「そう、それです!ピッキングです。さすがセンパイですね」


ーピッキングで家の中へ侵入したということですか?


「うーん、逆です。犯人はああいうそっと忍び込むやり方じゃなくて、バリーンって思いっきり窓を割ってから家の中に侵入したみたいなんです。それで隣の家のおばさんがその音を聞いて、派手な夫婦喧嘩が起きたんだと思ったみたいですね。長澤家には子供もいるからケガをしないか心配になって、念のためにその時点で警察に通報したようです。ただそのときはまだ夫婦喧嘩だと思っていたこともあって、つい興味本位でこそっと夫婦喧嘩の様子を覗き込もうとしたんですね。するとそこで見えたのが、割れたリビングの窓の前に、黒のTシャツと短パン姿、手にはアイスピックを持って仁王立ちをした身長2メートル近くの長髪の大男だったそうです。思いがけない光景に怖くなってすぐ覗くのをやめたみたいで、どんな顔だったかまでは分からなかったと言ってました」


ー目撃者がいるのなら犯人が男だというのは間違いなさそうですね。どうも警察による情報規制がありそうです。


「情報規制?」


ーたぶん、隣の家の方は犯人が男だという話を、警察にも言っているはずです。言い方がちょっと悪いですが、越中さんにお話をして警察にしない理由というのがないでしょうから。けれど警察の発表や資料にはそのことはいっさい載っていませんでした。つまり、犯人が男だという情報を警察は隠しているということにことになります。


「でも、情報公開した方が犯人を捕まえる可能性は高くなるんじゃないですか?」


ーあまりにも情報が少ないことが関係しているのかもしれませんね。少ないなら情報公開するより、逆に隠すことで犯人を捕まえたときの武器として使用するのかもしれません。例えば取り調べの際に、

『なんで犯人が男だって知ってるんだ?』

『その情報は我々警察と犯人本人しか知らないはずだぞ!』

ドラマみたいなセリフになりましたが、分かり易く例えると、このような感じですね。まぁ、隣の家の方が犯人の顔をしっかり見ていれば、似顔絵捜査をするでしょうから、また展開も違っていたのかもしれません。きっとそうなっていれば、犯人を捕まえるために情報公開をしていたでしょうね。


「たしかに。そうやって犯人が捕まってくれれば、長澤家殺人鬼の怪談も生まれていなかったかもしれないですね」


ー長澤家殺人鬼の怪談が生まれたのは事件直後からですか。


「事件直後はまだなかったですね。いきなり怪談が生まれたわけじゃなく、ちょうど一年前ぐらいに長澤家に関したある噂が流れたことが始まりだったんです」


ーある噂?


「ときおり犯人が長澤家に戻ってきているという噂が流れ始めたんです。わたしの方でも確かめたんですけど、閉まっているはずのカーテンから男が顔を覗かせている姿を見かけた、という話は複数から確認できました。もちろん、隣のおばさんからも確認は取れてますよ。」


ーその際、警察への連絡は?


「何件か通報があったみたいですね。その際は近くで巡回していた警察官が駆け付けたようですけど、犯人の確認はできなかったみたいです。ただ思うんですけど、この話って考えたらあり得ない話なんですよね」


ーそれはどうしてですか?


「現在、長澤家って売りに出されているんですけど、事件の内容が猟奇的なだけにまだ買い手がついてないらしいんですよ。だから家の管理自体は町の不動産がやっているわけです。。だから戸締りはしっかりしているはずだから、窓がまた割られない限りはあの家に入ることこと自体が不可能なんですよ。警察も通報で何度か家の中に乗り込んで探し回ったみたいですけど、毎回もぬけの殻だったということは、犯人が長澤家に隠れている可能性もないということになりますよね」


ーそして、何度かハズレを引いた警察は通報があっても現場には向かわなくなったと。


「そうですね。それでも巡回は多めにしてくれているから、巡回中に犯人の姿を確認でもすれば、すぐにでも捕まえるつもりでいてくれているんだとは思います」


ーつまり今回の怪談の内容は、長澤一家を殺害した犯人が、入ることができないはずの長澤家に戻ってきているということでしょうか。


「それも一部ではありますかね」


ー一部?


「犯人を見かけることも正解ではあるんですけど、なぜ犯人が殺人現場に戻っているのか。その理由自体こそがこの怪談の基幹となる部分になるんです」


ー犯人が本当に戻っているということが、前提としての話ですね。


「さっき犯人を見かけた話が何件かあるって言ったじゃないですか。その話にはある二つの共通点があるんです」


ー犯行時に侵入したときに割った窓がありますよね。もしかして、犯人を見かけるときは、絶対にその窓から姿を現しているとかでしょうか。他の怪談でもキーとなるところのみ姿を現すという話があります。


「たしかにそういう話はありますけど、今回は違うんです。むしろ場所に関してはバラバラな感じなんですよね。まず共通点の一つは時間。犯人を確認できた時間というのが、全て殺人事件が起きたときと同時刻だったんです」


ー犯行があったときはけっこう遅い時間だったんですよね。そんな時間に長澤家周辺は人通りが多いんでしょうか。


「ただの住宅街だから少ないです。人が寝静まるような時間になれば、あの周辺はほとんど人は通らないですから。だからこそ犯人は入り込む家としてあの場所を選んだんじゃないっすかね」


ーたしかに交通が多いところだと、犯行には及びにくいですしね。でもだとしたら、何件も犯人を見かけたという話自体が、長澤家周辺に人が通らないことを考えると、あり得ない話になってきますよね。


「普通ならそうなんでしょうけど、さっき長澤家の買い手がまだついていないって話をしたじゃないですか。不動産屋も半分諦めだしたのか、1年過ぎたあたりから管理も適当になって、庭の草も生えっぱなしな状態になっているんすよ。こうなると事件のことを身近に感じない人からすれば、あの家は猟奇殺人があった廃屋になりますよね。加えて誰かが無念の4人家族の霊がいるかもしれないという想像な話を広げでもしたら、新しい心霊スポットが誕生してもおかしくはない気がしませんか?」


ーつまり、心霊スポットに遊び半分で来た集団が犯人を確認したということですね。目的が長澤家なのだから犯人を見かけたというのも理解はできます。それで犯人を見かけた後は通報はしたけれど、家の鍵はかかって入ることはできなかったし、実際に警察が乗り込んでも誰も居なかった。


「その時の話から少しずつ怪談が生まれ始めるんです。次にこんな話が流れ出しました。誰が言い始めたのかは分からないんですけど、犯人はすでに死んでいて、幽霊となった今でも長澤一家に対して殺害を行い続けている、という噂です」


ーでも、長澤一家の姿って誰も見ていないんですよね。越中さんの話でも、そのような話は出てきていないし、話の流れ的に長澤一家が未だに犯人に殺され続けているって話が真実なら、長澤一家の誰かの姿や声が聞こえたぐらいの話もあっていいような気もしますね。


「もちろんそんな話はないです。だから長澤一家に対して殺害を行い続けているという噂は、きっと誰かが話を盛るために後付けしたんじゃないかと思います。怪談なんて時間がたつと話が盛られているっていうのはよくありますから」


ーもう一つ共通点があるんでしたよね。


「心霊スポットってみんながみんな一度行って終わりというわけじゃないんですよね。一度行った人が別のメンバーに怖かったという話をして、話が盛り上がったまま一緒に行くみたいな。命の危機を感じなければよくある話ですよね。そこで何度も行ったことある人からの話で気づくことができたんですけど、犯人を見かけないときは当然門扉は閉まっているんですけど、犯人を見かけるときは門扉は開いているらしいんです。」


ー不動産が管理しているわけですし、普通なら敷地内に入れないように門扉は閉まっているはずですよね。


「そうなんです。だから不動産屋に確認をとってみたんですけど、鍵はうちでしっかり管理をしているし、戸締りを忘れることはない。だから門扉が開いているわけがないって逆に怒られちゃいました」


ーだけど実際に門扉が開いていたという話は何件もあるわけですね。犯人がまだ生きていて家の中に侵入したと考えると、門扉が開いているのを確認した後、犯人が家の中にいるのを見かければ、犯人は正面から家の敷地内に入ったと想像できますね。となると、門扉から入って、玄関のドアから家の中に入った可能性があると次の想像ができる。窓は割れてないし、玄関ドアが閉まっていても、犯人が内側から鍵をかけたと考えられる。犯人が長澤家の合鍵を作っていたとすれば、可能な話ですね。


「だとしても、誰かがその場で通報して、巡回中の警察官が駆けつけているわけじゃないですか。そこから誰にも見つからず、どうやって逃げたのか分かんないですよね。玄関から飛び出せば通報者に発見されてしまいますし、窓を割って外に出た形跡はもちろんありません。これって普通に考えて、生きている人間のできることじゃないですよね」


ーだから越中さんは噂話の中で未だに犯人が長澤一家を殺害し続けている部分を否定しながら、犯人はすでに死んでいて、幽霊として長澤家に戻っているという部分に関しては触れなかったわけですね。


「さすがセンパイは鋭いですね。ここまで話せばなんとなく怪談の内容は分かるとは思うんですけど、わたしの方で怪談『長澤家の殺人鬼』を語っちゃってもいいですか?」


ー自分で言いながら気になった部分があったですけど、確認のためにもお願いします。


「三年前、長澤一家を襲った殺人鬼。夜な夜な長澤家に戻ってくるという噂あり。外から姿は見えるけど、いざ警察が突入してみれば姿も痕跡もなし。きっと殺人鬼はすでに生きてはいないのだろう。ではなぜ死んでも殺人鬼は長澤家に戻るのか。幽霊となった一家を再び殺害するため?それは違う。その証に殺人鬼を見ても、一家の姿や声を聞いた人は誰もいない。殺人鬼は誰も居ない家で誰を殺すというのだろうか。長澤家は心霊スポットとして一部から注目を浴びている。殺人鬼が戻っているときは門扉は開いている。ということはきっと玄関ドアも開いているだろう。開いているのは殺人鬼が家の中に入ったからだからだろうか。いや、それだけではないはずだ。殺人鬼は人を殺したくてたまらない。だから門扉や玄関ドアを開いておびき寄せるのだ。心霊スポットとして家の中に入り込む連中を。手に持ったアイスピックを顔中に突き刺すために」


ー……けっこうな熱演でしたね。語り口調もさきほどまでと違って雰囲気がありました。


「わたし、怪談については好きすぎて凝っちゃうんですよ」


ー気になっていた部分も解決しました。自分で勝手に玄関ドアは閉まっていたと言ったんですけど、やっぱり玄関ドアは開いていたんですね。


「はい。門扉のところで通報した人もいれば、玄関ドアを開いて怖くなったところで家の中に入らずに通報した人もいたみたいです」


ありがとうございます。参考になりました。


「女子高生が亡くなった事件のヒントにはなりそうですか?あの事件は不自然なところがあって、なんだか自殺には思えなくて気になっていたんすよね」


ー警察の発表では自殺ということですから、よっぽどの物証が出てこない限りは覆らないでしょうね。ただ僕は雇われて事件のことを調べてはいますが、探偵ではないので亡くなった女子高生のために動いているわけではないんです。これから起きることから依頼者を守るために動いているだけですから。


「っていうか、さすがに次からはその話し方やめましょうよ(笑)大声で笑うの我慢してるのきついです」

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