ワープ失敗して飛び出した先は異世界だった
「どこだ、ここ?」
ワープが終わって出て来た第一声である。
宇宙を移動する手段として、瞬時に転移するワープは当たり前のものとなってる。
もっとも、宇宙船に搭載するには大きくなりすぎるので、一部を除いてワープ専用の装置をくぐる事になる。
トンネルとも言われるこのワープ装置は、広大な宇宙に拡がった人類に必要不可欠なものだった。
そのワープ装置、通称トンネルをくぐり、目的地に荷物を運ぶ。
そんな運送業者として、彼は輸送用宇宙船を操縦していた。
特にそこに何かおかしな事はない。
何時も通りにいつも通りの仕事をする。
ただそれだけだったはずである。
しかし、ワープして出て来たのは、出口となるワープ装置ではない。
何処ともしれぬ宇宙空間だった。
ありえない事態に陥り、輸送船の操縦士は面食らった。
とはいえ、慌てて騒ぐ事もない。
こういった場合の対処も定められている。
即座に搭載コンピューターによって位置の確認を始める。
星の位置を見て、現在地を推定する事ができる。
全てとは言わないが、人類の進出範囲から観測できる星の位置はほぼ特定されている。
それらに照らし合わせれば、現在地もわかるというもの。
そのはずだったのだが。
「現在地……不明?」
「はい」
戸惑う操縦士の声に、コンピューターは淡々とした声で答えた。
「観測出来る範囲の星の位置は、知られてる宇宙とは全く別のものです」
「えっと、つまりそれって……」
「ワープ事故によって、全く知られてない宇宙に転移したと思われます」
絶望的な答えが飛び出してきた。
「まいったな」
コンピューターと色々語り合ってわかった事は一つ。
現在地がどこなのかわからない。
救助を要請する事もできない。
現時点で生きのびる為に出来ることは、居住可能な惑星を見つけて移住する事。
これだけしかない。
とりあえず、言われた通りに居住可能な星を見つける事にする。
観測出来る範囲で、居住可能な惑星がある恒星系、いわゆる太陽と周辺を回る星があるか確かめる。
現在地を観測するついでにコンピューターは既に探索を開始していた。
その結果、
「いささか想定外の状況にあります」
有るとも無いともいえない不思議な答えを出してきた。
「なるほど」
コンピューターが言いよどんだ理由。
それは、手近な星の望遠映像を見てわかった。
「こりゃあ、わけがわからんな」
そこには一般的な宇宙における太陽や惑星とは異なる姿があった。
言ってみれば天動説の世界だ。
平面の大地があり、その周囲を海が囲っている。
その周囲を太陽と月が回ってる。
操縦士が知ってる星の姿とは全く違っていた。
「観測できる範囲の様々な星がこの形をしてます」
「なるほど」
頷きはしたが、納得はしがたい。
常識にかすりもしない光景だ。
受け入れがたいものがある。
宇宙の法則そのものが変更されてなかぎりあり得ない事だ。
「おそらく、別の世界に飛び出してしまったのかと」
突拍子もない推論をコンピューターが出す。
「そうとしか言えません」
「だとして原因は…………ワープか」
「おそらくは」
ワープで別の宇宙に飛び込んでしまった。
思い当たる理由がこれしかないので、他に考えようが無い。
しかし、なんでワープで別の宇宙に飛び出してしまうのか?
「考えてもわからないか」
「現時点では原因究明は不可能です」
「となると、帰れる保障は」
「ありません。
今後、何らかの研究結果が出るまでは」
「出来るの?」
「この宇宙船の保有する道具では不可能です。
今後、新たに研究機関や設備を作成しないかぎりは」
つまり、操縦士が元の宇宙の戻れる可能性はないという事になる。
「じゃあ、この世界で生きていくしかないと」
「その通りです」
腹をくくるしかなさそうだった。
やむなく操縦士はこの世界に腰を据える事になる。
まずは人が住める場所に移動。
居を構えて生活拠点を築く。
いずれ戻るにしても、それまではこの世界で生きていかねばならない。
住処は必要になる。
帰る方法を探すのはそれからだ。
資源を採掘する機材や、資源を加工する施設が必要になる。
これらはコンピューターが工作機械を使って作るから問題は無い。
ただ、時間はどうしてもかかる。
生産体制がしっかり出来上がったら、ようやく研究を行える。
元の世界に帰れるのかどうか。
それを研究するための施設を作るのは最後になるだろう。
帰れる方法が見つかるかどうかわからないが。
「まあ、まずは居場所を作ろう。
良い場所はあるか?」
「観測出来る全ての星に移住可能です。
この宇宙の恒星系というか、大地の全てで生物が生きていける環境が出来上がってます」
「便利な宇宙だ」
ならば、その中で最も住みやすい場所を選ぶ事にする。
到達出来る範囲の中で一番住みやすそうな大地を選ぶ。
燃料・酸素・食糧などは限られてるので、好きな所を選ぶというわけにもいかない。
それでも、選択肢は多かったので、その中で一番良いところを選んだ。
あとは資源などが手に入れば御の字である。
ただ、既に住んでる者達の姿も観測している。
生命体が過ごしやすい場所なら先住者がいてもおかしくはない。
「出来るだけ接触を避けたいけど」
未知との遭遇は何かと不具合が起こるもの。
余計な面倒など起こさないためにも、出来るだけ先住民との接触は避けたかった。
「山の奥とか海の中とかでどうだ?」
「それならば人の通わない山の中が適切かと。
海中だと必要な設備が増えますので」
「じゃあ、そうしよう」
出来るだけ人里離れた場所を選んでいく。
「その前に、月で資源を採掘しましょう。
地上に下りる前に、ある程度資源を確保しておきたいので」
「任せるよ」
基本的にコンピューターに仕事は任せる。
操縦士の出る幕はないからだ。
大地の周りを巡る月に到着する。
到着すると、手持ちの道具を使って資源を集める。
それを加工して道具を作り、その道具で採掘効率を上げていく。
大量の資源を獲得出来るようになってから、様々な機械を作っていく。
そうして作った機械で様々な設備や施設を作っていく。
基本的な工具しか無いところから始めていくので時間がかかる。
それでも二週間もあれば、最低限必要な器具を調達する事ができた。
そうしてから、先に探査機を大地に送り込んでいく。
いきなり着陸するという無謀な事はしない。
集められる情報を見てから大地に下りるかどうかを決める。
ありがたい事に、予定地の周辺には人の姿は無い。
見つかる心配は考えなくて良かった。
色々準備をしてから大地に下りていく。
久しぶりの地上に心が躍る。
予定通り山奥に下りると、作った機械を設置していく。
外敵を阻むバリア発生装置。
簡易組み立て家屋。
水のくみ取り装置と浄水器。
下水の処理装置などなど。
生活のために必要なものを次々に設置していく。
あとは食糧だが、これは現地で調達するしかない。
保存食はあるが、種などはない。
肉も現地で手に入れないとどうしようもない。
「やっぱり現地人と接触するしかないのか?」
「探査用ドローンで食用可能な植物を集める予定です。
動物も食用可能なものを捕獲予定です。
ただ、現地人から得られるなら、その方が効率が良いかもしれません」
安全性を考えると、コンピューターに採取させた方が良いのだろう。
「まあ、現地人との接触は気が向いたらにするよ」
「わかりました」
必要の無い接点は作らない方がよい。
余計な騒動のもとになる。
「ですが、食糧の残りを考えると、出来るだけ早急に入手した方が無難です」
「そうなんだよなあ……」
食用可能な植物、野菜などは栽培する必要がある。
となると、収穫まで時間がかかる。
それまでの間、保存食で足りるかどうかは悩ましい。
「やっぱり、少しは接触も必要か」
「出来るだけ最低限で済ませられるよう、作戦を組み立てます」
「頼む」
とりあえず、安全安心に交易が出来る場所。
そこにこの世界で取引材料になりそうな物を持っていく事にする。
観測した範囲では、この世界は産業革命前の文明水準。
簡素な日用品を持ち込めばそれなりの取引が出来る。
とりあえず、鉄製の様々な器具を作って持ち込む。
現地の樹木を使って荷馬車も作る。
馬はさすがに用意できないので、ロボットを作って外見を馬に似せる。
見た目だけでは作り物だとわからないように偽装もする。
あとは、何かあった場合のための警戒装置。
それと、防御用のバリア展開装置に、空気圧で弾丸を飛ばす銃。
殺傷能力のない、電撃銃も持っていく。
これらが必要な状況が起こらないのが一番だが、何が起こるかわからないのが世の中だ。
「いきなりこんな所にワープしたしな」
念には念を、出来るだけの対策はしておくに限る。
そうして行ける範囲にある中では比較的大きな市場へと向かう。
様々な所から様々な人間がやってくる場所だ。
見知らぬ人間がやってきても怪しまれる可能性は低い。
「じゃあ、行くか」
「はい、馬の方を動かします」
ロボット馬が足を動かしていく。
見た目には生き物と変わらないそれは、荷物を満載した荷馬車を引いて歩き出す。
あとは市場で必要なものを手に入れるだけ。
言語は月にいる間に地上を観測しておおよそ解明済み。
翻訳機を使う事で会話も可能。
神経接続機器を使って、意識するだけで翻訳して音声が出るようになってる。
なお、神経には極めて細い電線を針のように突き刺してる。
痛覚を刺激する事もなく、人体に悪影響も及ぼさない。
どれだけ激しい動きをしても、体内で柔軟にしなって体を傷つけることもない。
これのおかげで、人は機械に直接意識を飛ばして指示を出せるようになっている。
準備は万端、あとは仕事をこなすだけ。
何も問題は無い…………はずだった。
しかし、異世界にワープ事故で転位するという事故を引き当てた操縦士である。
騒動を引き寄せる引力が働いているようだ。
ロボット馬がひく馬車で進んでいる先で、騒動に出くわしてしまう。
「きゃああああああ!」
甲高い女の悲鳴。
何かあったのは明白だ。
「どうした?」
「進行方向で行商人が襲われてます。
襲ってるのは武装した山賊。
総勢、14人です」
「なるほど」
無視してもいいが、それはさすがに気が引ける。
「手持ちの武装で撃退できるか?」
「問題ありません」
「じゃあ、助けよう」
そうして助けに入った事でこの世界の住人との接点を強く持ってしまう。
その後、この世界での様々な出来事に巻き込まれていくようになるが。
それはまた別の話。
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