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百合色の鍵姫~転生した元魔王の甘々百合生活  作者: 恋する子犬
第三章 尊い姉妹と幸せを得た少女
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第80話 大使館にて

「今更だけど、シェルは悪魔の姿が見えるの?」

「はい。肉体に纏う魔力のオーラを感じ取ったので。ちなみに悪魔が羽織っているローブには、透明な肉体とは別に、他者からの存在認識を阻害させる効果があるようです。恐らく、勇者レベルの者でなければ、この悪魔を明確に目で捉えることは不可能かと」

「なるほど。じゃあ、この悪魔をハッキリ見ることができる人は本当に少ないのかも。……それにしても、シェルは物知りだね」

「わたくしは火力型のキュラと違い、知的なサポートを主とします。力か知恵か…相手に合わせて、わたくしたちをお使いくださいませ、マスター」

「うん」


 エルフの森で出会った時、最後に話したのがシェルだったから、今回なんとなくで彼女を呼んでみたけど、相手によって特性を変化させられ、尚且つ意思を持つ剣なんて見たことがない。契約の一つも無しに私の潜在能力を読み取れたことも含めて、聞きたいことは山ほどある。

 勇者パーティとの戦いが終わったら、色々話してもらうことにしよう。


「それでは、マスター。わたくしは虚空空間(アーカーシャ)に戻ります。また必要な時が来れば、お呼び出し下さいませ。キュラも、マスターに召喚されるのを楽しみにしておりますから」

「分かった。ありがとう、シェル!助かったよ」

「では」


 シェルは刀身を曲げ、私に一礼した後、パッと一瞬で消えていった。

 多分、すぐにまた呼び出すことになるかも。その時は…。

 そう心の中で呟き、私は悪魔を抱えながら地上に降り立つ。リツが待っている街の広場へ。


「あんた、ほんとに凄い奴だったんだね」


 少し引き気味でありながらも、リツは真顔でそう口にした。

 悪魔と交戦する前の脱力状態とは一変。何事も無かったかのようにピンピンしてる彼女に、私は不思議そうな眼差しを向ける。


「あれ?魔力は…」

「たかが魔力0になったくらいで、私が怯むわけないでしょ。あの後、自然魔力を取り込んで自分のものにしたから、今は普通に動ける。なんなら、あんたに加勢できたくらい」

「し、自然魔力をね…」


 体内に生み出す生物個々の魔力と自然魔力では、性質が全く異なる。故に、自然魔力は魔法の媒介として使用することは可能だけど、そのままの状態で体内へ取り込み、自分のものにするのは先ず不可能だ。

 ということは、リツはどういう訳か、自然魔力を取り込む過程で、それを本来であれば体内で生成される筈の魔力へと変換させたことになる。

 これができる者が世界に何人いるだろうか。実質、魔力無限と同義だろう。

 流石は勇者の中でもトップクラス。不測の事態でも、すぐに対処可能な恐ろしいまでの異能を持っている。


「これから、キロ・グランツェルの元に行くんでしょ」

「うん。リツも一緒に…あ、いや、できれば残って欲しい」


 キロよりも強いであろうリツが一緒に来てくれれば、どれだけ心強いか。彼女ならば、私なんかよりも早く奴らを壊滅させてくれることだろう。

 それでも、リツに残って欲しい明確な理由があった。


「万が一の時のために、街を護っててもらいたいんだ」


 グランツェル家は、目的のためなら人の命をも簡単に奪う非道な連中である。

 王都レアリムの人たち全員が人質であったというサキの発言を聞いてから、ずっと懸念していた。このグラン街に住む人たちも例外ではないのだろうと…。

 奴らは追い込まれれば、必ず人質を使ってくる。そう判断し、私はリツに提案した。


「別に構わない。あんな闇に見舞われた奴らの顔なんて、二度と見たくなかったし。でも、街の人間全員を守ることは保証できないよ」

「そんなことないんじゃないかなぁ。リツなら、出来るでしょ?私、信じてるから」

「は…?」

「それじゃあ、行ってくる!!」


 何だこいつは…という視線をもらったけど、私は気にせず、この場を後にする。

 単なる決めつけではなく、必ずやり遂げてくれるという絶対的な信頼。そんな私の表情・言葉に、リツは奇異の目を向ける。


「さっき会ったばかりの相手を、信じる…?自分を殺そうとした悪魔と一緒にいる奴だってのに…。ほんと、よく分からない。まあ、街一つ守るくらい、朝飯前だけど」


 溜め息をつきながら、リツは呟いた。少しばかり、口元を綻ばせながら…。


「で、私に何か言うことはないの?勝手な行動しておいて、何も無し?」


 眉間に皺を寄せ、今度は地に伸びている悪魔へと視線を向けるリツ。彼女の怒りを即座に感じ取ったのか、悪魔はその場で土下座し始めた。


「次は、ほんとにないから…」


 冷淡に言い放ち、リツは満身創痍の悪魔を引きずって歩き出す。

 たとえ家族だろうと容赦はしない。リツの強い志に隠れた愛情の裏返し。その、表れだった。


「もう、一人にしないでよね。馬鹿悪魔…」


 照れ隠しなのか、ぬいぐるみで顔を隠す。この時、彼女は一瞬だけ素の自分を無意識に表出していた。




     ◇




 グラン街、大使館(エンバシー)――。

 随分と時間を食ってしまった。ユィリスは勿論、魔族と交戦しているであろうルナたちのことも心配だ。

 流石にもう、本筋から逸れるようなトラブルは御免だからね!

 常に厄介ごとの中心にいる自分を疎ましく思いながら、私は大使館(エンバシー)の門前まで飛んできた。


「ん?これは…!」


 門に近づき、中の様子を伺おうと覗き見た私は、反射的に後ずさる。

 何やら行く手を阻むように、大使館の前を途轍もない強風が吹き荒れていた。今度は慎重に詰め寄り、その風の正体を探る。

 もしかして、結界??

 どうやら、大使館(エンバシー)の巨大柵の内側に沿って、気流の壁が生成されているようだ。まるで結界の如く、内と外からの行き来を妨げている。

 みんなの姿は見なかったし、この中にいるのは間違いない。だとしたら、閉じ込められている可能性が高いけど、逆を言えば、街の人たちの出入りを食い止めて、被害を少しでも抑えているようにも思える。

 魔族がいるなんて知られたら、街中パニックになるだろうし、これはもしかしたら…。


「やっぱり、モナの〝暴風結界〟だ」


 と、風の魔法を扱うモナの魔力を感じて、ピンときた。

 私は魔力を上手く使い、結界に穴を開け、すぐさま中に入る。魔力回路を解析したところ、かなり簡易的な結界だったから、せめて街の人たちを撒き込まないようにするための最低限の措置だろう。

 柵の内側では、黒服を身につけたグランツェル家のエージェントが、ボウガンを持って配備していた筈。だけど、そいつらは仲良く気を失って倒れていた。

 流石だ。まあ、ただの一般人があの子たちに勝てるわけがない。


「さて、大使館の中はっと…」


 高級感が漂い、清潔感に溢れた邸宅。そんな如何にもお金持ちが利用するような内装に気を回す余裕などなく、私はみんなの気配を感じる方へ全力疾走する。

 言わずもがな、ここでも比較的強そうな魔族共が全員こてんぱんにやられていた。

 無双してるなぁ…。私の心配は余計だったみたい。

 そして、床に転がっている魔族を通り過ぎ、階段を駆け上がって、二階最奥の部屋へ辿り着いた私は、ようやくみんなの姿を確認した。


「あっ、アリアさんが来ましたよ~!」

「やっと揃ったわね!」


 いつでも行けると言わんばかりの表情で、臨戦態勢は整っているようだ。ティセルに至っては、倒れた魔族を尻に敷いて優雅に座っちゃってるし…。


「アリア!ちょうど今、最後の魔族を倒したところよ!」


 ルナが嬉しそうに駆け寄ってきて、私を軽く抱擁する。「よし!アリアパワー、しっかりと貰ったわ!」と可愛らしく言って、すぐに離れた。

 本当はもっと抱き締められたかったけど、そうも言ってられない。私はモナに、大使館周りの結界について言及する。


「モナ、あの結界って…」

「あ、うん、街の人たちが誤ってここに来ないようにね。アリアちゃんだったら、簡単に突破できるくらいのものだけど」

「やっぱりそうだったんだ。おかげで外の方はあまり騒ぎになってないよ」

「ほんとに!?モナ、偉い?」

「うん、偉いよ~」

「にぃへへ~、アリアちゃんに褒められちゃった~!」


 フードの上から頭を撫でてやると、モナは目にも止まらぬ速さで尻尾を振りだす。随分と機能性が優れた尻尾だ。


 みんなの容態を改めて見るに、掠り傷程度の軽症は見られるものの、まだまだ余裕そうで安心した。


「そういえばアリア、さっきの立て込んでた件は大丈夫だったの?」

「うん、もう大丈夫だよ。それと、さっき勇者のリツに会ってね。少し話をしてきたんだ」

「えっ!?リツって、もう一人の勇者の方ですよね…。敵じゃ、なかったですか?」

「安心して。リツは私たちの味方だよ。街を護ってもらうようにお願いしてきたから、私たちは心置きなく、奴らと戦える!」

「そうなのね…。もう一人の勇者は敵じゃなくて良かったわ~!」


 不安要素が一つ潰れ、みんなに更なる余裕が生まれた。

 状況の照らし合わせは、こんなところだろう。大使館を制圧するため、頑張ってくれた彼女たちに回復を施し、奥にある転送装置に近づく。

 それを目にした途端、私はすぐにティセルへ視線を移した。彼女も既に察していたようで、見覚えのある装置について語る。


「これ、エルフの森に使われてるテレポート装置に似てるわ。というか、多分一緒…。認証済みの人じゃないと、転送されないかも…」


 薄っぺらい円盤状の台から、青白い光が湧き上がっている。前もって、何らかの方法で自分の魔力なんかを登録しておけば、台に乗るだけで転送できるのだろう。

 私はしゃがみ込んで、一通り装置に目を通した。


「ねぇ、ティセル。これって、認証済みの人の魔力に反応して、簡易的な転送を実行してくれるんだよね?」

「そうよ。でも、これじゃ…」

「そこに伸びてる魔族と一緒に乗れば行けませんかね?」

「ううん。それだと、あの魔族だけが転送されちゃうわ。魔法のテレポートと違って、これは受動的に瞬間移動するものだから…」


 なるほどね。

 この装置がエルフの森にあるそれと同等のものならば、転送するのに間違いなく自然魔力が使われる筈だ。ということは、自然魔力を介して、奴らの拠点にあるもう一つの転送装置に接続(アクセス)できれば、上手くいく気がする。

 悩んでる暇は無い。一か八か、とりあえず実行してみることに。


「みんな、私に捕まって。転送するから」

「アリア、できるの!?」

「まあ、なんとかしてみるよ」


 四方から柔らかい感触と甘い匂いを感じながら、装置に手を翳す。地に魔力を流し、自然魔力を介して、もう一方の装置を探知した。

 これだ!!

 そこへ更に魔力を流し、己の感覚を信じて〝テレポート〟を実行する。

 瞬きする間に、私たちの見ていた景色が一転。なんとか転送することができたようだ。


「成功だよ」

「アリアちゃん、凄い…。どうやったの?」

「二つの転送装置は自然魔力で繋がってるから、それを使わせてもらって、こっちの装置を特定したんだ。後は、感覚を頼りに〝テレポート〟するだけ」

「感覚ねぇ…」


 転送してきた場所は、恐らく街の地下。薄暗く、炭鉱に使われるような狭苦しい洞窟だ。

 岩壁に取り付けられたランプが、先の道を照らしてくれている。奴らの本拠地はこの先だろう。

 ユィリス、どうか無事でいてね…!

 私はみんなを連れて、決戦の地へ駆け足で向かった――。

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