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百合色の鍵姫~転生した元魔王の甘々百合生活  作者: 恋する子犬
第三章 尊い姉妹と幸せを得た少女

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第55話 ノワール家の姉妹

「――もしかして、アィリス…さん?」


 いの一番に思い浮かべた名を口にすると、ユィリスは顔を上げ、目をぱちくりとさせながら、私を凝視してきた。


「し、知ってるのか!??」

「やっぱり…。昨日、初めて会って話を聞いたんだけど、色々と合点がいってね」


 こんなにも近くにいて、なぜ気づかなかったのか。()()()()灯台下暗し的な察しは悪いんだよなぁ、私。

 アィリスさんの言う、半年前に村を出て行った冒険者の妹。これだけでも、十分ユィリスを連想できたのに。

 そして光を奪われたというのは、盲目にされてしまった事をユィリスなりに言い換えた表現。これが私の中で決定打となった。


「て、てか姉ちゃん、村に帰ってきてたのか!?」

「うん。仕事仲間と一緒に、最近帰って来たらしくて」

「なんで言ってくれなかったのだ~!アリア~!!」


 両肩を掴まれ、対面に座る涙目のユィリスに激しく揺すぶられる。首が上下に荒々しく動き、変な方向に曲がりそうになった。


「い、いやいや…知らなかったから~~!」

「そ、そうだったな。ごめんなのだ」


 危うく首がもげるところだったけど、今のユィリスの反応を目の当たりにしたら、ここまで必死になるのも無理はないと思える。

 ここで、私たちの会話を黙って聞いていたルナが、しびれを切らして尋ねてきた。


「ええっと、話が見えないんだけど…。ユィリスにお姉さんがいることは知ってるわ。でも、光を奪われたってどういうこと?錬金術師と、何かあったの?」

「……ちょっと、待って欲しいのだ」


 いつも自信満々で怖いもの無しのユィリスが、思い出すだけで蒼褪めてしまう程の出来事なのだろう。無理に話すこともないし、今は気を落ち着かせてもらって――。


「もぐもぐ…」

「……」

「もぐもぐ…」

「……」

「もぐもぐ……ん、食べ終わったから話すぞ!」


 そういう()()()かい!!

 少し心配したけど、いつも通りのユィリスだった。

 腹ごしらえも済んだところで、再び神妙な面持ちで語り始める。


「まあ、アリアとルナは知っての通り、私には姉ちゃんがいてな…。【ノワール】って共通の家名を持ってるのだ」

「ノワール…聞いたことがあります。たしか数百年前に一度だけ、【フォラント・ノワール】という先代の方が、千里眼を用いて魔王アリエの拠点を撃ち抜いたという伝説の話があるんですが…」


 と顎に手を置き、フランが言う。

 そうなの?というような視線をルナから貰ったけど、正直そんな昔の事なんて、あったような無かったような程度の記憶だ。私はう~ん…と曖昧な表情を返す。


「よく知ってるな、フラン」

「レアリムの古い文献に載ってあったんですよ」

「私は知らないけどな!」

「知らないんですね…」

「それでだな、姉ちゃんと私は――」

「ちょ、ちょっとごめん!」


 ユィリスがお姉さんとの事を口にしようとしたところで、私は止める。あまりに躊躇なく話し出すもんだから、少し気になってしまった。


「その、お姉さん…アィリスさんに何があったのかを話すんだよね?」

「ん、そうだぞ」

「私が気にするのもあれなんだけど、アィリスさんのいないところで話しちゃっていいのかなって…」

「いやいや、お前が気にすることじゃないのだ」


 まあ、そうなんだけど…。

 豹変した時のユィリスの反応は、間違いなく相当辛い思いをしたのだと感じさせられるものだった。もしかしたら、アィリスさん自身は知られたくない事なのかもしれない。

 そう思ったけど、


「いいのだ。私の()()()友達…になら、姉ちゃんの許可はいらない。寧ろ、話してくれって言いそうなのだ」


 と、自信満々に言って無邪気に笑う。そんならしくない発言をするユィリスに、一同驚きはしたものの、直後には自然と嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 そして、ユィリスは語る。


「姉ちゃんはな、私が物心ついた時からの唯一の家族だった。親の事はよく知らない。姉ちゃんに聞いても、何も答えてくれなかった。でも、私たちが産まれた場所だけは、教えてくれてな。人間界のど真ん中に位置する〝ネオミリム〟ってとこなのだ」

「あの有名な都市ですか」

「へぇ~!」


 ネオミリム…人間界を良く知らない私でも、噂程度には知っている。

 王都に匹敵するほどの巨大な観光都市で、煌びやかなネオンに輝く街並みが有名。人間界のあらゆる物事が凝縮された、誰もが一度は憧れるテーマパークのようなところなんだとか。

 私も、そこへ行って女の子と二人きりでデートしたいなぁ…なんて憧れていた。それくらい、世界の誰もが一度は耳にしたことがある有名所だ。


「まあ、産まれたところはネオミリムだが、私にとっての故郷はこのカギ村だ。あの時は、3歳くらいだったか…それくらいの私を連れて、姉ちゃんは馬車でここまで来たらしい。そこら辺から、何となく自分の置かれてる状況を理解し始めたのだ。私には、姉ちゃんしかいないってな」


 人間界の真ん中から端っこにある村まで、一体どれくらいの距離を移動したのだろう。

 アィリスさんだって、当時は子供だった筈。そうまでして、ネオミリムから…もしかしたら親から離れたかったのかもしれない。


「姉ちゃんも、私と同じく〝千里眼〟を使えたのだ。子供だったのに、今の私よりもうんと凄かったんだぞ。だから冒険者の簡単な依頼なんて、姉ちゃんにとってはお手の物だった。親のいない私たちに、宿のおっちゃんも優しくしてくれてな。質素だったが、姉ちゃんとの生活は凄く楽しかったのだ。でも…」


 意気揚々と幸せそうに、お姉さんとの日々を語っていたユィリスだったが、急に顔を曇らせ、言い淀んでしまう。しかしそれは一瞬で、覚悟を決めたように当時の状況を話してくれた。


「あの日、姉ちゃんの視力は、千里眼の能力ごと奪われたのだ…」





 ―――――――――――――――





 数年前、【ユィリス・ノワール】という一人の少女がまだ幼かった頃のこと。その日、彼女は育て親も同義の姉と共に、馬車でとある目的地へ向かっていた。


「姉ちゃん姉ちゃん!今日の依頼は何をするのだ~?」


 荷台の上でゴロゴロ転げまわりながら、ユィリスは透明感のある真っ白な瞳をキラキラさせる。その目はいつも、まるで光沢のある絢爛とした〝金色〟の瞳を持つ実の姉、アィリス・ノワールに向けられていた。

 いつ見ても、思わず見惚れてしまう姉の瞳。見つめているだけで引き込まれてしまう。そんな不思議な感覚が、幼いユィリスに憧れの眼差しを向けさせた。


「もう、はしゃがないのユィリス。この前、馬車の操縦の仕方教えてあげたんだから、偶にはやってくれてもいいんだけど?」

「ん~、私は姉ちゃんの操縦する馬車でゴロゴロしたいのだ」

「ハァ、ほんと猫みたいなんだから」


 この頃も、現在と変わらず無邪気で自由なユィリス。そんな妹に毎日のように手を焼いていたアィリスだったが、たった一人の家族として精一杯の愛情を注ぎ、過度だと思われるくらいには甘やかしていた。


「さあ、もう隣町が見えてきたわよ」

「ええ~、嘘だ~!全然見えないのだ」

「そう?私にはハッキリ見えるんだけどなぁ」

「千里眼使ってるからだろ~。私も千里眼使いたい~い~い~!」

「はいはい。そのうち、ユィリスも使えるようになるわよ」


 千里先を見通すことが可能な天性の能力、千里眼。血統関係で発現する者もいれば、視力を極限まで鍛え上げ、会得できる者もいる。

 人それぞれだが、特に〝ノワール〟という家名を持つ人間は、千里眼の先駆者―フォラント・ノワールの魔力を受け継いでいることから、比較的目覚めやすい家系だと謳われていた。

 

「姉ちゃん!私も魔物倒しに行きた~い!」

「だ~め」

「姉ちゃん!私もお菓子作り手伝うぞ!」

「いいけど、難しいよ?レアチーズケーキ」

「頑張るのだ!」


 容姿だけを誇らしく思っている訳ではない。ユィリスにとって、世界でたった一人の姉だから、その優しさ、甘めの厳しさ、知性…どれを取っても自分の中ではナンバーワンだった。

 悲しい時も辛い時も、いつも慰めてくれる。誰よりも、自分を愛してくれる。

 その存在だけが、ユィリスの道標だった。


 ――ある日、姉の見る景色が全て失われてしまうまでは…。


 とある依頼で森に立ち寄った二人は、偶々遭遇してしまったのだ。誰かの命であろうと顧みず、自身の研究のためなら犠牲を厭わない〝マッドアルケミスト〟に。

 いつものように、千里眼で魔物を狩っていたアィリス。そこに目をつけ、一人の女が歩み寄る。


「ほう…千里眼か!?お前、中々面白いものを持っているじゃないか!」


 濃い目の緑髪を後ろで括った髪型。丸眼鏡をかけ、白衣を纏ったその姿は、まさに研究者であった。

 真面目な容姿の裏には、常識を逸脱した大きな影が潜んでいる。出会った当初から、アィリスは既にその闇の存在を警戒していた。


「あなたは、何者なの?」

「千里眼、一度研究してみたかったのさ。その常識外れの視力は、私の技術でとんでもない兵器へと成り上がる。楽しみだなぁ。ククク…早く研究したい」

「は…?」


 質問に答えないだけでなく、相手の話も聞かず、なぜか千里眼を研究することを前提に駄弁る女。近年稀に見る変人だと、アィリスはこの場を立ち去ろうとユィリスの手を引く。


「何言ってるの…?行こう、ユィリス」

「おい、待ちたまえ!この偉大なる天才研究者、ファモスの興味から逃れられた生物など、この世にはいないのだよ」

「姉ちゃん、アイツ頭どっか置いてきたのか?会話が下手くそなのだ」

「うっさいわ、ガキが!!」


 ユィリスの天然辛辣発言に突っ込む自称天才のファモスは、落ち着きを取り戻し、ニヤリとほくそ笑む。


「まあいい。お前では、千里眼の本当の力を発揮することは不可能さ。私に任せれば、あの魔王アリエをも打ち滅ぼせる兵器を生み出せると約束しよう」

「魔王アリエ…?勇者でも勝てない魔王に、あなたが?」

「そうさ。ククク…お前の視細胞に伝達される〝光シグナル〟は、特殊な視界(ヴィジョン)により魔力が活性化され、高度な視力を発揮する。それが、千里眼だ。痛くはしない…その視界(ヴィジョン)さえ得られれば、魔王の戦力に対抗できるのさ」

「何を根拠に…。そんなくだらないことのために、千里眼はやれないわ!」

「くだらない…ねぇ。お前たちが手のひらを返すのも、あと数年の辛抱さ。今、いい()()()()が見つかってな。魔王アリエを討伐するため、面白い計画を練ってるところだ。これは、ただの投資だよ。お前の提供した千里眼が役に立てば、お前は英雄になれる。そうだろ?」

「馬鹿馬鹿しい。他を当たって!」

「ふむ、仕方ない。あまり、こういう手は使いたくなかったがね」


 あまりに馬鹿げている思想。これ以上構ってられないと、立ち去ろうとする姉妹の前に、複数の機械人形が現れだした。


「なんなのだ!?こいつら…!」

「とある人工生命体の試作品さ。ボロいが、力はある」


 メッキがむき出しになった、異形な兵士。どうやら自分の意思を持っている訳ではなく、ロボットのようにファモスの魔力操作で動いているらしい。


「ユィリス、ちょっと下がってて」

「姉ちゃん…」

 

 まだ戦う力などないユィリスを安全な場所へ促し、アィリスは弓を構えだす。


「いくら頭が良くても、私はあなたを研究者だとは認めない!」

「言うのは勝手さ。好きにすればいい。ただ、あまり私の技術を舐めないでほしいな…」


 機械兵の後ろに佇むファモスは、不敵な笑みを浮かべ、上唇を舌で舐め上げた。

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