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百合色の鍵姫~転生した元魔王の甘々百合生活  作者: 恋する子犬
第二章 王都レアリムでの一件(※加筆修正中)
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第13話 悶絶

 三番勝負、第二戦――。

 最初の勝負は、見事私が勝利を収めた。このままサシ勝負まで持ち込まれないように、次で勝ち星を挙げたいところ。

 ユィリスは今、ルナの家でシャワーを浴びている。先程の対決で泥だらけになったからと、仕方なくルナが貸していた。


「はぁ~、さっぱりしたのだ~!」


 暫くすると、ほっかほかの湯気に包まれたユィリスが、タオル片手に外へ出てくる。

 解放感で満たされた温泉上がりの子供のようで可愛らしい。なんて遠目では思っていたが、洗い直した良い香りの服を着て、濡れ髪を下ろしたユィリスに近づかれると、不覚にもドキッとしてしまう。


「ほら、ユィリス。アリアが待ってるわよ。さっさと次の対決いっちゃって」

「分かってるのだ。一戦目は、アリアの()()で負けてしまったが、次はそうはいかないぞ」

「……」


 ルールに則っていたとはいえ、確かに超音波はやり過ぎだった。そこは少し反省している。

 でも普通に勝負していたら、正直勝てるかどうか分からない程、ユィリスのタイムは早かった。ただ単に運が良いだけじゃ、あの魔物は捕まえられない。

 一体、どんな手を使ったのか…。

 ルナに促され、ユィリスは次の勝負内容を説明しだす。


「二戦目は、メンタル耐久勝負!如何に言葉で相手の精神を削れるか。精神力と精神攻撃力が試される対決だぞ」

「ルールがちょっと曖昧じゃない?」


 呆れたようなルナの突っ込みに、頷きながら考える。

 言葉で攻撃するとはどういうことだろうか。私が言われるのは全然構わないけど、ユィリスの精神を壊すような言葉なんて使いたくない。というか絶対に言えない。

 そもそも、精神面で勝利したところで、根本的に強さの証明にはならない気がする。こちらの精神力を削った上で、最後の戦いに持ち込みたいと考えているなら、まあ分からなくもないけど。

 この勝負の意味があまりよく分かっていない私たちを差し置いて、ユィリスは自信満々に続けた。


「そんなことないぞ。物理・魔法以外の攻撃方法で、如何に相手を怯ませられるか…それが出来たら強いとは思わないのか?」

「そりゃ、まあ。でも、罵詈雑言が通用するのは、精々低レベルの魔族ぐらいだと思うよ」

「まだ、分かっていないようだな。この戦いの意味を」

「え?」

「別に、罵倒だけが精神攻撃ではないのだ。それが分かっていないお前に、私を怯ませることは絶対にできないぞ」

「……??」


 意味深なユィリスの発言に首を傾げる。この子には何か作戦があるようだけど、私はどうすればいいのか分からない。

 魔法を使ってはいけないとなると、催眠や洗脳の類は封じられる。でもどうだろうか。魔法に頼らずとも、それらを扱える巧みな話術を持ち合わせているとしたら、今のユィリスの態度にも納得だ。

 いずれにせよ、どんな精神攻撃を仕掛けてくるのか興味が湧いてきた。

 しかし、私は思い知らされる。そんな余裕はすぐに失われることになると。


「じゃあ、フィールドを用意するぞ」


 ユィリスは少し魔力を使い、半径1メートルほどの結界を生み出した。結界と言っても、本格的なものではなく、地に魔力の円を描き、その縁から沸々と光が溢れ出ている程度の小さな枠組みだ。

 その中へ入り込み、ユィリスは手招きで私を誘導する。


「この結界から出た奴の負けだ。簡単だろ?逃げるのをアリにすると、勝負にならないからな」

「うん…」


 端から端まで2メートル弱。ちょっと狭いけど、妥当と言われればそんな気がしてくる。

 内心気乗りはしなかったものの、曖昧な返事をして、取り敢えず結界の中へ。私たちは、お互いに至近距離で向かい合う形となる。


「一旦始めてみるのだ。それで何とも言えない結果になるなら、この勝負は私の負けでいいぞ」

「あなた、そんなに自信あるのね。これ負けたら、アリアの完封なのに」

「問題ない。こいつが私の()()()()()()()()()なら、この勝負は貰ったも同然だからな」


 目を細め、ユィリスは意地悪そうにニヤリと笑う。

 今から何を言われるのだろうか。変な緊張が襲ってきたけど、言葉のみの対決だし、ここは気楽にしていればいい。

 女の子からの罵倒は大歓迎だし、その中でうま~くユィリスを結界外へ誘導させられればベスト。とにかく、動じて逃げ出さなければ私の負けはないのだ。


「まあ、いいわ。どうせ、アリアの勝ちだもの。それじゃ…よーい、始め!」


 ルナの合図と共に、ユィリスは白い歯を見せ、にひっ…と小生意気な相好で笑った。私はゴクリと生唾を呑みこみ、責めの言葉を待つ。


「耳を塞ぐのも無しだ。ちなみに、この結界内の会話は、外に漏れないから安心していいぞ」

 

 安心…?

 そう言うと、ユィリスはゆっくりと私の目の前に歩み寄ってくる。次の瞬間、彼女は人が変わったように、突飛な態度を取り始めた。


「ね、ねぇ…アリア。実は私、アリアのこと、ずっと気になってて…」


 ……はい??

 口元に手を当て、頬を赤らめながら恥じらいを見せるユィリス。急に豹変した彼女の様子にポカンとしつつ、私は耳を傾け続ける。


「一目見た時から、すっごく可愛いなって、思ったのだ…。ねぇ、アリアは私の事、どう思う…?」

「ど、どう思うって、その…」


 お互いの体が当たるか否かの距離まで迫り、上目遣いでこちらを見つめてくる。そんなユィリスを目の前にして、早くも私の心臓は脈を打った。目を逸らしつつ、平静を装おうと努める。

 いやいや、落ち着け私。これは多分、演技だ。ユィリスの演技。このキャラがなぜ私に効くと思ったのか分からないけど、一旦冷静になって――。


「ねぇ、答えて。黙ってたら、何も分からないのだ…」


 更に距離を縮めてくるユィリス。彼女の息遣いは色っぽくなり、首筋に吐息がかかる。

 ちょっとまっ…ち、近いよ…。

 これ以上は色々と不味い。だが、逃げることはおろか、押し返すことすらできない。

 結界に入り、ルールを受け入れてしまった時点で、この勝負は既にユィリスのペースへ持ち込まれていた。ここで状況を打破するためにいくら模索しようとも、一度かき乱された思考を立て直すのは困難を極める。


「ま、待ってユィリス。これって、精神攻撃…なの?」

「そんなこと、もういいじゃん。今は、私に集中して…アリア」

「――っ…!?//」


 あまりに甘えた声で言うもんだから、不意に背筋を撫でられたようにゾクッと反応してしまう。

 激しさを増す動悸。興奮しているのか、どんどん息遣いが荒くなるユィリスと同じように、私も気づけば少しずつ吐息を漏らしていた。


「答えないなら、好きにしちゃうから…」

「んっ…!?」


 首筋から耳元にかけて、ユィリスの息が吹きかかる。その瞬間、体の力が抜け、腰を抜かしたように地面へ尻もちをついてしまった。

 同様に、ユィリスも私に覆い被さるように倒れ、トロンとした目で私の顔を見つめてくる。


 ――ドクン、ドクン、ドクン……。


 何、これ。こんなの、されたら…!

 お互いの吐息がかかる距離。既に私の心臓は、口から飛び出そうな程に跳ねていた。

 

「アリアの目、トロンってしてるぞ…。私、そういうの好き。ハァ…可愛い」


 好きって何!?

 耳元でそんなことを囁かれ、一瞬だけ理性が飛びかかる。しかし、限界の閾値はすぐそこまで迫っていた。

 何も考えられない。何も、言えない。

 演技にしては上手過ぎる。いや、恐らく私の脳ミソが、ユィリスという女の子を過剰に色付け、美化させているのだろう。どういう理屈か、彼女の瞳孔が♡マークにしか見えなくなっているのだから。

 私たちだけの空間。そこに、お風呂上がりのユィリスの甘い香りが漂う。

 いつも私が使っているシャンプーと同じ。だけど、他人が使うとまた違った匂いになる。これが、私には刺激が強過ぎた。


「どうしたのだ…?ああ、シャンプーの匂いにクラクラしちゃったか?ふふっ、アリアは色々と敏感なのだな…」


 やたらとシャワーの時間が長かったのには訳があった。必要以上にシャンプーを使い、甘ったるい香りを纏わせ、私の思考を惑わせるためだ。

 完全にユィリスの策略に乗ってしまった私は、そんなことを頭で考える余裕すらも失っていき、気づけば軽い昏睡状態に陥っていた。


「このまま、唇を奪ったらぁ…どうなっちゃうのだろうな」

「……」


 抵抗もできず、目を瞑る。途端に、私の意識は闇の中へ誘われていった。

 そして、



「「「ストーーーップ!!」」」



 とルナの大声が聞こえてきたと思ったが最後、そこで私の記憶は完全に途絶えた。勝負を遮られ、ユィリスは不満そうに口を尖らせる。


「おい、ルナ。今いいとこなのだ。邪魔しないで欲しいのだが…」

「いいとこって、あなた何をやってるの!!」

「何って、精神攻撃だぞ?」

「これのどこが精神攻撃よ!もう、アリア気絶しちゃってるじゃない!」

「あ、ほんとだ」


 ルナが見兼ねて声を上げるも、時すでに遅し。完全にキャパオーバーとなった私が、仰向けに倒れ、目をグルグルと回していた。

 そのあられもない姿を見て、ルナの心配が怒りに変わる。


「ちょっと、アリアに何吹き込んだのよ!」

「さぁな~。私たちだけの秘密なのだ」

「ハァ…アリアは人間にあまり慣れてないの。そういうことは、他の人でもやらないで!」

「人間に慣れてない?どういうことだ?」

「あ、いや…。そ、それこそ、私とアリアだけの秘密よ!」

「ふーん…」


 先程の色仕掛けはどこへ行ったのやら。特に何もしていないと言わんばかりのあっけらかんとした態度を取りながら、ユィリスは納得しているのかしていないのか、微妙な表情で倒れている私に目を向けた。


(パンツを見られた時の反応…てっきり、極度の辱めを受けることが弱点だと思ったが、そういう訳でもないのだな。何か、別の理由があると。ふふん!益々興味が湧いてきたぞ)


 ユィリスの精神攻撃(?)を受けて、私はものの見事に悶絶。よって戦闘不能と見做され、第二戦はユィリスに軍配が上がった。




     ◇




 まさか、私が気絶するなんて…。

 悶絶状態から回復して、ベッドからゆっくりと体を起こす。窓の外を見ると、すっかり日も暮れ、明るいお月様が顔を出していた。

 どうやら、かなりの時間気を失っていたらしい。気絶する前の記憶はあまり定かではないけど、凄く厭らしいことをされていたような気がする。

 思い出そうとすると体が熱くなるのを瞬時に察し、これ以上は〝何も無かった〟を貫くことにした。

 

「アリア、大丈夫?」

「う、うん。今はもう、平気だよ」


 三番勝負、最終戦――。

 ユィリスに呼び出され、村の広場に顔を出す。

 今は夜中に差し掛かる時間帯で、村の人は誰もいない。この場を照らす街灯が、私たちに明るさを与える。

 最後は、正々堂々サシ勝負。広場の範囲内であれば、何をやっても構わないそうだ。


「さっきの勝負、かなりこたえたのではないか?まあ、こっちが有利のルールではあったが…お前も一戦目で超音波?なんか使ってたし、おあいこなのだ」

「うん。まさか、最後まで来ると思わなかったよ」


 魔力も体力も一切消耗していない元魔王アリエ・キー・フォルガモスを気絶させたのは、後にも先にもこの子だけだろう。

 どんな手を使おうが、勝負は勝負。ここまで来てしまったからには、もう戦うしかない。どうにか、ユィリスを傷つけずに勝てないものかと思考する。


「この世界は、強さの指数が世界ランクで決まっているのだ。私の個体レベルは96。もう少しで、『練れ者(エキスパート)』の領域に到達する…」


 自信たっぷりに告げられたユィリスの言葉に、私は軽く驚いた。やはり、言うだけの実力はあるみたい。

 今ユィリスが言った『練れ者(エキスパート)』とは、世界ランクにおける段階の一つだ。

 世界ランク5000位未満の者は『圏外』、5000位~1001位の者は『練れ者(エキスパート)』、1000位~101位の者は『上位者(スペリオル)』、100位~11位の者は『超位者(グランダ―)』、10位~1位の者は『究極者(アルティメット)』と呼ばれている。

 圏外の数を考えれば、世界で5000位は中々のものだ。魔力を持つ全ての生物にランクが与えられるから、必然的に同種の個体(魔物や意思のある植物)も含まれる。故に、5000位でも人間だけに絞れば、上位500の中には入っているのではないだろうか。

 一般的に、個体レベル100以上になると、『練れ者(エキスパート)』の領域に足を踏み入ることができるとされている。そんな段階を見据えたユィリスが、どんな攻撃を仕掛けてくるのか興味が湧いてきた。

 そこで、私はある提案を持ちかける。


「ユィリスって、多分弓使いだよね?」

「そうだぞ。命中率は、90%(※ユィリスリサーチ)を超えているのだ」

「じゃあ、こうしよ。その腰に持ってる矢…それを使い果たすまでに、一発でも私に当てることができたら、ユィリスの勝ち。私はひたすら避けるだけだけど、ズルっぽい魔法は使わないって約束する。真正面から矢を受けて、全部避けてみせるよ」

「そうきたか。たしかに矢が無くなれば、私は攻撃手段を失うのだ。実質、負けのようなもの…。随分な自信だが、反撃しないことを後悔するなよ」

「うん、大丈夫。どっからでもいいよ」


 私が改案した勝負を受け入れてもらい、一先ず胸を撫で下ろす。これで、ユィリスを傷つけることなく、私の勝ちに持っていけるというもの。

 とはいえ、個体レベルの情報だけでは本来の実力を測ることは難しい。雑魚悪魔ベルフェゴールのレベル500だって、人間より長生きした経験値が殆どを占めるのだから。

 でも、ルナが応援してくれてるし、ここは勝つしかないよね。

 そう心の中で思い、ユィリスと向かい合う。

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