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百合色の鍵姫~転生した元魔王の甘々百合生活  作者: 恋する子犬
第四章 波乱の祭典と目覚める鍵
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第118話 記憶喪失の少女

 それが何を意味しているのかなんて分からない。もっと言えば、音節文字をただ並べただけの、この世に存在する何物でもない言辞とさえ思っていた。

 この瞬間、誰かの口からその言葉が発されるまでは――。


「ユートピア……!」


 不意を食ったように驚嘆の声を上げる。そんな私の反応が意外だったのか、「ほう…」と呟きつつ、少しばかり口角を上げるシャロ。そこに食いつくとは思わなかったとでも言いたげな表情だ。


「その反応…アリアさん、何か心当たりがあると?」

「あ、いや、その…。どこかで聞いたことがあるってだけだよ。それが何なのかは分からないけど…」

「本当ですかぁ…?」


 実際は〝鍵文字〟として見ただけだが、それ以外に知っていることは何もない。私の転生に関係があるものかどうかも謎だし、正直言って深くまで追い求める理由なんてない筈だ。

 しかし、なぜか吸い込まれてしまう。この世に実在する()()()であると知った『ユートピア』という言葉に――。

 餌を発見した魚の如く釣られた私は、シャロから訝しげな視線を向けられるも、そこからの追及は特になかった。寧ろ、重くなりつつあるこの場の空気を晴らすように、彼女の眼差しは輝きだす。


「うんうん…やはり、この天才探偵の目に狂いはありませんでしたね。アリアさんを訪ねたのは正解だったようです」

「……??」


 私から『ユートピア』なるものの手掛かりを聞き出す訳ではないのだろうか。と一瞬思ったものの、シャロの意図は全く違っており、


「長年探偵をやっていれば分かるんです。あなたのその目は、並々ならぬ探求心に満ちています。知りたいでしょう?『ユートピア』について」


 私が興味を示した途端、喜びを露わにし始めた。

 相手に何かしらの協力を求める以上、それに見合った対価、若しくは協力する理由や意味が必要になってくる。こちらの関心を引かせた時点で、その方程式は成立したのだろう。

 つまり、シャロたちに協力する理由ができてしまったということだ。


「それは…うん」

「でしたら、何の問題もありません。アリアさんには、謎多き〝リ・ミューズ〟と〝鍵のかかった書物〟についての調査に、是非とも協力していただきたいのです!」


 ここで、シャロの口から協力の内容が告げられた。何となく予想はしていたが、これまた大きな厄介事を呼び込んでしまったものだと、心の中で溜め息をつく。


「分かりますよ、その気持ち…。歩くだけでトラブルに巻き込まれてしまう…そんな体質をお持ちなんですよね」

「心を見透かさないで!?」

「私なんて、行く先々で事件が起きるものですから、歩く死神とまで言われる始末でして…」

「酷いな!!」

「聞いたことあります?この世には『トラブルメーカー』というパッシブスキルが……」

 

 私の胸中を見透かすも、フォローにすらなっていない気の毒な経験談をぶつぶつ…と語りだすシャロ。またも脱線しそうな雰囲気だったので、話を遮り、肝心の調査内容について触れる。


「それで、私は何を協力すればいいの?」

「ああ、はい。えっとですね…勇者の祭典の最中、こっそりと博物館(リ・ミューズ)へ侵入し、()()()()を解き明かす。まあ、そのお手伝いといった感じですね」

「お手伝いって…それ、私じゃなくてもできるんじゃ……」

「いやいや、これは他でもないアリアさんにしか頼めませんよ」


 ここまで極秘な事情を知ってしまった以上、私の中で断るという選択肢はもうない。そこも、天才探偵の掌で転がされている感は否めないけど、なぜ私でなくてはならないのか。

 話は本筋に戻り、博物館(リ・ミューズ)の謎が更に深まることになる。


「一旦、話を戻しましょう。ガイロン氏のご友人から得られた情報は、書物に関することだけでした。謎の書物を見せられて以来、ガイロン氏とは一切会ってないそうなので、結局、博物館館長の現状を知る者は誰一人存在しないという調査結果に至りました。ネオミリム全域を訪ね回ったんです。これ以上は無駄足になると、私は一度事務所へ戻り、これまでの証言と事件の内容を照らし合わせました」

「それで、何か分かったの?」

「ふっふーん!この天才探偵を舐めないでもらいたい!」


 シャロは両手を腰に当て、ふんす!と鼻を鳴らす。何か真相に近づくための手掛かりでも推理したのかと思いきや、堂々とこの一言。


「まっっっったく分かりませんでした!!!」

「……」


 意気揚々と宣言することではない。天才の頭脳に期待していた分、気持ちが冷め、思わず白い目で見てしまう。

 急に自分の発言が恥ずかしく思えてきたのか、私の顔色を伺うや、シャロは頬辺を紅潮させ、それを誤魔化すように鹿撃ち帽を被り直した。


「じゃあ、諦めたってこと…?」

「あ、諦めたなんて人聞きが悪いですね…。調査に行き詰まることなんて、稀ではありませんから。それに、強硬手段を取れる程、私は強くないので、ふん!」

「なんで怒ってんの…?」

「あの博物館に入れさえすれば、全てが解決するということです。全く、あの頑固な館長さんには参ってしまいますよ。……なんて思ってたのも束の間、もう一人の依頼人が私の元を尋ねてきたんです!」

「ひぅ…!!」


 まるで救世主が現れたかのような紹介の仕方に、出来る限り縮こまって話を聞いていたアオの口から小さな悲鳴が上がる。

 ようやく、最初に語られた記憶喪失の話と繋がってきた。二つの依頼を受け持っているとは言っていたが、何らかの関連性があるとすれば、アオの件は実質始めに引き受けた依頼の延長線上にあるのだろう。


「先程言ったように、アオさんは自分の記憶を取り戻して欲しいと私にお願いしてきました。とても勇気のいることだと思います」

「確か、誰かに仕向けられたって言ってたよね?」

「はい。ですがその前に、なぜアオさんが今回の事件のキーパーソンなのかを説明する必要がありますね」


 どうやら、アオが抱えている問題は記憶喪失だけではないらしい。記憶を失ってからの彼女の境遇が、これまた謎に包まれていた。


「実はアオさん、吸血鬼が博物館(リ・ミューズ)を襲撃してきた当時、館内に居た人物の一人だったんです」

「え?じゃあ、この子も吸血鬼に…」

「はい。血は吸われなかったものの、相当な深傷を負って倒れていたと、アオさんを介抱した衛兵の方に話を聞きました。しかし、その外傷が少し妙というか…他の被害者とは毛色が違っていたんです」


 そして、シャロは事件の被害者とアオの相違点について語りだす。


「吸血をされずとも、被害に遭った方は、決まって全身に酷い火傷を負っていました。恐らく吸血鬼は、炎系統の魔法の使い手なのでしょう。所々焼け焦げた跡が目立っていた展示物の様子からも推測できます。ところがアオさんの場合、火傷ではなく、全身に槍や弓矢といった飛び道具が突き刺さり、更には音による強い衝撃を受けたのか、両耳の鼓膜が破れ、血が流れ出ていたそうなんです」

「鼓膜が…」


 想像するだけで痛々しい。その時の状況が記憶に残っていないだけでも、今は救いと考えるべきか。いずれにせよ、アオが悲惨な現状を歩んでいることに変わりはない。

 飛び道具に関しては置いといて、鼓膜を破るような能力で言うと、真っ先に思い浮かべるのがサキだ。彼女と同系統の魔法を扱えるのだとしたら、例の吸血鬼はかなり厄介な存在だろう。

 ただ、なぜその魔法をアオだけに使ったのかが分からない。そもそも、吸血鬼に襲われたかどうかも定かではないから、何とも言えないのがもどかしいのだけれど。

 

「加えて記憶を消されています。なので、一概に吸血鬼の仕業とも断定できないのが難しい所ですよね。アオさんが襲われている現場を見た人がいるなら、話は変わるんですが…」

「襲ったのが吸血鬼じゃないにしても、新たな敵を想定することになるし……どちらにせよ、なんでアオだけに記憶消去の魔法を使ったんだろう」

「そこに関しては、私の中で一つの仮説が浮かび上がっています」


 全く推理できていない訳でもないようだ。人差し指を立てながら、一層落ち着いた声質でシャロは告げる。


「恐らく、()()()()()()()()()()()()()()()…若しくは、それを見たことにより、記憶に靄がかかった…と考えるのが自然でしょう」

「なるほどね…。だとしたら、何を見たんだろう。考えられるとしたら、例の書物…とか?」

「その可能性は大いにありますが、視点を変えて、博物館や館長に関する秘密を知ってしまったからという説も濃厚です」

「確かに。でも、わざわざアオ自身の記憶まで消す必要はあったのかなぁ…」

「そこなんですよねぇ。魔法の精度が良くなかったで済めばいいんですが、そんな単純なものでもない気がします」


 知られてはいけない何らかの秘密を知ってしまった。アオだけが記憶を消された理由はそれで間違いないだろうけど、今の所誰から、または何から記憶を消去させられたのかが断定できない。

 今のアオに関する話を踏まえ、私は気になったことを潰していく。


「そもそも、吸血鬼が襲撃してきたのって、真夜中だよね?なんでそんな時間帯に、関係者でもないアオがいたんだろう…」

「さあ、なんででしょうねぇ」

「……??」


 メモ帳をパラパラと捲りながら、シャロは己の見解を示すようなこともせず、あっさりと言い捨てた。

 他の事で頭が一杯なのだろうか。急に無関心な態度を取り始めた彼女に違和感を覚えつつ、次の質問に入る。


「えっと…じゃあ、ネオミリムにアオの事を知ってる人はいなかったの?家族とか、身内の人とかさ」

「そうですね…そこもかなり調査したんですが、アオさんに関する情報は何も得られませんでした。今も昏睡状態となっている被害者の中に、もしかしたらアオさんを知る人物がいる可能性はありますが…望みは薄そうですね」


 今度は自分の意見を交え、丁寧に答えてくれた。

 誰も知らないなんて、これまた厄介な事案。アオの境遇に関しても、色々引っ掛かるところはあるから、一先ず本人にも話を聞いてみることに。


「アオは、その…シャロを尋ねるように仕向けた人の事は覚えてないの??」

「ひっ!えっ、そ、その…」


 私からの急な質問を受け、アオは今まで以上に言葉を乱す。

 予想通りと言えば予想通り。初対面の相手だし、戸惑うのも無理はない。

 近過ぎず、遠過ぎず。絶妙な距離感を保ち、責め過ぎて心を閉ざされないよう、再度穏やかに聞き返した。


「あ、ごめんね。ゆっくりでいいから、話してもらえないかなぁ」


 こういう子と話す上で最もやってはいけないのが、急かすこと。どれだけじれったくても、先ずは相手の言葉を待つ。それでも話してくれないのなら、まだその時ではないのだろう。

 兎に角、相手に苦手意識を持たせないことが大事。心を許してくれないからといって不用意に責め立てるのは、たとえ無意識だろうと、その子を自分よりも下に見てると言っているようなものだ。

 話をしたくない子に無理やり口を開かせるなんて、私にはできない。

 勿論、逆にそういった根性論を叩き込まれ、殻を破る子も中にはいるだろう。とはいえ、ある程度の段階を踏む必要はあると思うけど。

 物柔らかな口調に言い換えたのが功を成し、アオは震えながらも、私たちに聞こえるよう、ゆっくりと話し始めた。


「えっと…こ、声が聞こえたんです……」

「声??」

「はい…。だ、誰かが、頭の中に語り掛けてきたんです。――ネオミリム一の探偵に、助けを求めろ…と。多分、男の人の声だった…き、気がします…」

「思念の類か…」


 一切の魔力を感じないし、記憶喪失という事実を抜かせば、普通の女の子にしか思えない。そんなアオに思念を送るなんて、以前の彼女を良く知る人物でなければ難しいと思う。

 ましてや、欠陥(エラー)の生じた記憶領域に干渉できる程の人物。いや、或いはそいつがアオの記憶を奪ったのだとしたら、あり得なくはない話だ。

 仮にそうであっても、記憶を消したのに記憶を取り戻すよう促すなんて、それこそ馬鹿げているけど。


「故に、博物館(リ・ミューズ)の調査にアオさんを連れて行くのには、大きな意味があります。隅々まで捜査すれば、何かを思い出すかもしれません。それによって、吸血鬼や博物館、そして〝鍵のかかった書物〟の謎についても紐解かれると私は思っているんです」

「依頼達成どころか、事件の真相を掴めるかもしれないってことね」

「そういうことです。それで、アリアさん!!これまでの話を聞いて、私たちと共に博物館(リ・ミューズ)を調査してくれる気になりましたか?」


 シャロは勢いよく立ち上がり、両手拳を握り締め、私の顔を覗き込んできた。

 期待もあるだろうけど、純粋にワクワクが止まらないのだろう。瞳を煌めかせ、まるで童心に返ったような天才探偵を愛らしく思いながらも、私は問いかける。


「シャロ、言ってたよね?今回の依頼は、〝世界の真相〟を掴めるチャンスになるかもしれないって」

「はい」

「それも、博物館(リ・ミューズ)に行けば分かるってこと?」

「あくまで推測の域ですけどね。ガイロン氏の証言が正しければ、〝鍵のかかった書物〟は館内に秘匿されている筈です。吸血鬼が狙っていたその書物に、何かが眠っているのではないかと私は考えています。しかし、肝心の内容が読めないのであれば、最悪記憶するか――」

「読めるよ」

「――え…??」

「多分、読めると思う。私なら」


 と、真面目な顔で言い切った。

 この世界に散りばめられた言語の数なんて高が知れている。前世で一千年近く生きてきた私の知識なら、解読できるかもしれない。それが〝鍵文字〟であるなら、猶更だ。

 私の突飛な一言に、シャロは鳩が豆鉄砲を食ったようにポカンとする。


「ま、マジっすか…?」

「何その口調…」

「いっっや~~~!本当に、ツイてますよ私!勇者様に頼るのは気が引けたので、とりあえず最近話題になっている人に説明だけでも…と思っていたら、お人柄も良く、知識も豊富だなんて…!この天才探偵の助手第一号に任命してもいいくらいです!!」

「妥協して私かい!しかも謎に上から…」

「いやいや、妥協だったらこんなところまで馬車を走らせませんって~」

「どうだか…」


 だけど、本当にツイているのはどっちだろうか。

 グラン街での一件が無ければ、シャロが私を認知することはなかったと思う。今の話が全て本当だとしたら、私が勇者の祭典に――いや、ネオミリムへ行くことに何か意味があるのかもしれない。

 祭典の招待を受けたのも然り、何か途轍もなく強大で数奇な運命に導かれている。そんな気がしてならず、私の気持ちは既に、シャロの言う〝世界の真相〟へと向かっていた。

 これは、あらゆる事象を目の当たりにしてきた元最恐魔王としての勘。全てがたった一つの線で繋がっているのだとしたら、あの日、カギ村に転生してきた時から、私は――。


「ですが、いきなり協力して欲しいというのも酷な話ですよね。祭典は二週間後ですし、それまでに決めていただければと」

「というか、なんで勇者の祭典中なの?潜入するだけなら、時期は関係ないんじゃない?」

「そんなことはありません。ガイロン氏に悟られず、極秘の捜査を行う。その為の絶好のチャンスが、祭典の3日目に訪れます」

「そんなチャンスがあるの??」

「ええ。それは、勇者が一堂に会し、議論を交わす時…ガイロン氏も、その場に出席するよう命じられているとの情報を掴んでいます。今回の吸血鬼襲撃事件が議題の一つに挙げられている以上、博物館(リ・ミューズ)の責任者であり、唯一五体満足の彼が事件の詳細を語ることになるのは必然ですからね」

「んー…でも話を聞く限り、館長の頑固さを考えると、そう簡単に博物館から離れてくれるとは思えないなぁ」

「どれだけ頑固でも、勇者様の希望に逆らうような浅はかな真似はしないと思いますよ。それに、吸血鬼が()()()()()()()()であろう書物です。恐らく博物館(リ・ミューズ)には、ある程度のセキュリティが備わっていると思われます」

「なるほどね」


 なぜ一度盗まれた書物が時を待たずに戻ってきたのか。そこに関しては謎に包まれているけど、関係者の誰も知らない点を考えれば、そう簡単に盗みを働けない環境にあるのは事実。 

 ただ潜入するだけではない。何が待ち受けているのか分からないから、シャロは話の分かる強者を求めていたのだろう。

 その結果、行きついた先が私だった。で、実際渡りに船だったと…。


「話は以上です。もしアリアさんが協力してくださるのであれば、作戦前日の夜にでも、私の事務所にお越しください。まあ、高確率で私の方から会いに行くかもしれませんけど」

「分かったよ。じゃあ、最後に一つだけ聞いてもいい?」

「どうぞ」

「シャロは、〝世界の真相〟を確かめて、何がしたいの?」


 原点に立ち返った私の問いかけに、一瞬キョトンとした顔で固まるシャロだったが、すぐに笑みを浮かべ、ハットのブリムを摘まみながら、


「特にしたいことはありません。そこに謎があるから、追い求める…ただ、それだけです。人の好奇心や原動力は、理屈で語れるものではないですから」

 

 と語ってくれた。十分過ぎる回答に、思わず口元が綻ぶ。


「ふふっ、確かにそうだね。天才の答えを聞けて良かったよ」

「いえいえ。前向きな返事をお待ちしております」

「うん。今日はわざわざありがとう。あ、良かったら、うち上がってく?」

「お気遣いなさらず。話が終わったら、すぐに帰る予定でしたので。ネオミリムやエリカ様のことも心配ですし」

「そっか」

「あと、この事は他言無用でお願いしますよ」

「うん、分かってる」


 話を終え、私は立ち上がる。去り際、縮こまって恐る恐るこちらを眺める青髪の少女へ微笑みかけた。


「あ、あの…」

「またね、アオ。記憶が戻るように、私も出来る限りサポートするから」

「えっと、その…あ、ああありがとうございます!」

「ほう、それはもう協力すると言ってるようなものですよ、アリアさん」


 まあ、そうだけど…。

 なんて心の中で渋々肯定しながら、荷馬車を降りる。シャロは待たせていた馬の手綱を握るや、こちらに一礼。


「では、アリアさん。またネオミリムでお会いしましょう。祭典中の三日間、何も起きないことを祈っています」

「なにそのフラグ的なセリフ…」

「ネオミリムは良い所ですよ。あまりの光景に、言葉を失うこと間違いなしです!」

「うん、楽しみにしてる」


 全ての謎――その答えは、現地に赴き、自分の目で確かめるしかないのだろう。結局のところ、私も己の好奇心には逆らえないということだ。

 期待に溢れた眼差しを向け、私は遠ざかる馬車を見送ったのだった――。




    ◇




 時を同じくして、百合の邸宅内。リビングのソファーで横たわる気怠げな少女が、外の会話を聞き入れ、微笑を零す。


「なるほどねー」


 外と言っても、数キロ離れた村の門口。そんな所で行われていた秘密裏の語らいを、さもその場に立ち会ったかのように聞き取ることができる者など、一人しかいない。

 

「サキちゃーん!今から師匠のとこに行くんだけど、一緒にどうかな?」

「うん、いーよ。じゃあ、アリアちゃんも誘おうか」

「え?でも、お客さんと話してるんじゃ…」

「ううん。今、ちょうど終わったみたいだよ」


 早速事件の概要が漏れてしまったことなど、天才探偵は知る由も無く。勇者の祭典の開催地、娯楽溢れるネオミリムへと帰還する。

 しかし、此度の吸血鬼襲撃事件は、まだほんの始まりに過ぎなかった。時期を待たずして、とある勇者に関する悲報が、ネオミリム中に告げられる――。

更新が遅くなりました…<(_ _)>

第四章の土台となる最も重要な会話だったので、時間を掛けさせてもらってます。

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