エリナーさんは前と変わらぬ溌剌とした笑顔で僕を迎えてくれた
遠くの学校へ行くためにエリナーさんが家を出たのは――僕の感覚では――半年ほど前のことだった。
当然応援して送り出しはしたものの、別れる悲しみで幾夜枕を濡らしたか分からない。
しかし、まさかこんな形で再開する機会が巡ってこようとは思いもしなかった。
「久しぶりね! オスカー!」
エリナーさんは前と変わらぬ溌剌とした笑顔で僕を迎えてくれた。
外見も昔とそれほど変わらない。違っている点と言えば、肩の高さで切り揃えていた色の明るい茶髪を、今は腰に垂れるほど長く伸ばしていることくらいかと思う。
……しかし、昔以上に大人びているというか、本物の大人の風格を備えてしまった印象を受ける。本物の大人も何も彼女は本当に大人なのだが、何というかこう、より綺麗になったというか、色っぽくなったというか……。
「ごっ、ご無沙汰しております……」
そんなわけで僕は緊張しまくりなのだった。
「驚くのも無理ないわよね……。わかってても不思議だわ。あなたはメリルさんだけど、オスカーなんだものね? しかも、子供の頃の」
エリナーさんは急に身を乗り出して間近から僕の顔をまじまじと眺め出した。
か、顔が近い……っ。
「あ、ごめんなさいね!」
こちらの緊張が伝わったのか、彼女はそう言って柔らかく微笑んだ。
こういうときの距離感の壊れ具合は流石ネヴィルの親類だが、気を遣ってくれるしむしろ好感があるのが奴との決定的な違いだ。
「エリナー。一時間くらいしたらオスカーを街へ連れて行くよ。今日中に案内しておきたいところがあるんだ」
横からネヴィルが言った。エリナーさんが少し驚いた表情でそちらを見る。
「街? 今日は一日ここでゆっくりしていくんじゃなかったの?」
「やっぱり、先に連れていくことにした」
何かしら予定変更があったようだ。
「……分かった。傘、持っていきなさいね」
どうやら、街へ行く話は今日一日エリナーさんとゆっくり過ごすことと二択だったらしい。
先に教えておいて欲しかったが、まあ、僕自身早く色々な所を見て回りたい気持ちがあるし、ネヴィルなりの考えもあると思うので、黙って従おう。
今日一日エリナーさんとゆったり過ごせるのなら、それはそれで素敵だったと一抹の後悔は残るが……。
「さ! 二人とも中へ入って! まずはお茶にしましょう!」
気を取り直すようにそう言って、エリナーさんは僕たち二人を中へ招き入れた。
通された先はリビングだった。表の庭に面した日当たりの良い広い部屋で、四人掛けのテーブルがあり、テーブルの傍には小さめの黒板が用意してあった。学校にあるものの半分くらいの大きさだ。黒板には年表のようなものが板書されてあった。『ここ十年余りの歴史のお勉強』とやらのためにエリナーさんが準備してくれたものらしい。……思ったよりも本格的だ。学校の先生とはいえ、自前の黒板まで持っているとは。
エリナーさんは僕たちを席に着かせ、ハーブの香りのするお茶をいれてくれた。
三人で卓を囲み、まずは茶を一口すすってほっと一息つく。エリナーさんから色々聞かれ、僕にとっては最近の、しかしエリナーさんやネヴィルにとっては遠い思い出のよもやま話にしばらく花を咲かせる。最初は緊張しきりだった僕も、話している内に段々気持ちが落ち着いてきた。僕の知っている頃より二人ともずっと年齢が上だが、やはり幼馴染相手だと心が安らぐ。
「さて!」
ある程度場が和んだところで、エリナーさんがそう言って席を立った。
黒板の横につき、コホンと一つ咳払いをする。
「ネヴィルから一時間でって言われちゃっているし、そろそろ始めましょうか!」
「うん。頼む」
「よろしくお願いします」
そして、いよいよエリナーさんの個人授業が始まった。




