表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Oscar!  作者: 篠江 一
16/19

side_Grave-maker (4)

 ――10投目。

 今度も墓掘りの選んでいた面が出た。

 彼は、だからこれで1024分の1を引き当てたことになる。

 幸運では説明が付かない。隠すつもりのない、明らかな仕込み。

「楽しいですね」

 それでも尚、常に次投で同面を出し続けることで彼に勝ちを取らせない強運の化け物を前に、墓掘りは思う。

 ――全て、くだんの占い師から聞いていた通りにことが運びつつある。

『公正なコイン』についての説明も、だから墓掘りは既に聞いていたのだ。

 ……あの占い師は一体何者なのか?

 フードを目深に被っていて貌はわからなかったが、若い女の声だった。ミリセントのことを知っていると言ったが、それは知り合いとしてという意味だったのか? ……

 ……駄目だ――

 それ以上思考を深めていくことができそうになかった。鉛でも詰まっているみたいに頭が鈍い。身体が熱く、焦点が揺れるせいで視界もいよいよぼやけてきていた。

「……」

 墓掘りは今、単純に具合が悪かった。

 それも酷く。

 椅子に座ってゲームに意識を集中しているだけでも億劫で、こんな体調最悪の日に、一体自分は何をしているんだと重ね重ね呆れてくる。

「まだまだ行けますよね?」

「……」

 それに、墓掘りのラッキーには明確な終わりが定められていた。

 どんな意味のある数字かは知らない。……だが、23。それが、くだんの占い師から教えられているコイントスの表裏の総数だ。

 ――ミリセントの強運と自分の予知は『衝突』するのだと占い師は言った。

 言うまでもなく墓掘りにとっては理解の埒外の話だったが――『衝突』の結果、予知によって一意に定まったはずの未来の可能性がミリセントに都合の良い方向に分岐するのだと。

 その分岐していった先の未来もまた予知することができると占い師は請け合ったが、その限界が23とのことだった。

 占い師曰く――コインがトスされる度に可能性は分岐する。2投目は、1投目でミリセントと引き分けた未来にのみ行われ、3投目はその2投目が引き分けた未来においてのみ行われる。条件は連鎖し、その度に確率は遷移する。

 最初の方ははっきり視ることができるが、徐々に靄でもかかったように視え辛くなって、やがて予知をもってしても表裏の結果に確証が持てなくなる――そう占い師は言った。

 23が、一応、占い師に視ることのできた回数。

 つまり23投内に決め切らなければ、墓掘りの勝ちの目は潰える。

 逆に、それまでにミリセントの強運がほんのちょっと、ほんの一度でもコケてさえくれれば、墓掘りが勝つ。

 ――いかにミリセントの強運といえども無尽蔵というわけではないはずだ。

 予知で確定した未来からエスケープするなんて馬鹿げた運命操作を23回も連続で行えはしないだろう――

 占い師のその見立てに、墓掘りは残りの生命いのちを振り絞る覚悟で己の全てを賭けたのだ。

 ――11投目が投げられ、今度も二回連続で同じ面が出た。

「……」

「『彼女』に会ったんですよね? 何でも見通す、あの思わせぶりな予知者に」

 渋面をつくる墓掘りに、ミリセントが楽しそうに訊いてくる。

 初めて部屋へやってきた墓掘りへ向けたときの、この世の全てに飽いたような厭世的な眼差しは最早どこにもない。異色症ヘテロクロミアの円らなまなこを好奇心にキラキラ輝かせて、墓掘りの話を聞きたくてたまらないといった調子で椅子から半ば腰を浮かしている。

 ……こうしてみると、彼女がまだ年相応に少女なのが判った。世間擦れした振る舞いについ年齢を上に見てしまったが、実際聞いたところによると彼女はまだ十代の、学校へ行くような年齢なのだ。

 そして、ミリセントの方もくだんの占い師を知っているということは……二人はやはり知り合いだ。

 自分は訳の分からない因縁に巻き込まれてしまったのかもしれない、と墓掘りは思う。

 しかし彼はその思考をすぐに傍へほっぽった。別にどうでも良いのだ。このゲームにどんなパワーが絡んでようと、勝敗が、どうなろうと……

「……多分、そうだ」

 墓掘りは、空気をもはや僅かにしか取り込んでくれなくなった肺を何とか膨らませて、息切れした声で返事を返した。

「やっぱり!」

 ミリセントの上げた歓声を聞き流しつつ、そっと次の面を上にしてコインを帽子の下に差し入れる。

「……君があの占い師について色々聴きたいってのなら、お喋りに付き合っても良い。……でも、それなら急いでくれ――」

 急に長く喋り過ぎたか――

 服の袖を口に当てがい、彼は横を向いて数度咳き込んだ。

 口を離した袖には、赤い血が付着している。多分内臓がいくつか駄目になっているのだと、墓掘りは医者から告げられた心無い言葉を思い出す。

「……オレ、医者からいつ死んでもおかしくないって言われてるから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ