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Oscar!  作者: 篠江 一
12/19

らしくないにも程がある

 いつの間にかうたた寝していたらしい。

 目を覚ましたとき、車は既に街の中を走っていた。広い道の両側には背の高い建物が並んでおり、傘を差した人々が煉瓦敷の歩道を往来している。小雨が降り始めていた。

「ちょうど良いタイミングで起きたね」

 横を向くと、隣のネヴィルと目が合った。

「もう役所の近くだ。車を駐めたら、エリナーの言っていたレストランへ行こう。彼女が予約してくれているはずだから、多分すぐに入れるよ。お腹は空いてる?」

「……おう」

「良かった」

 とネヴィル。

「……」

 ――何という、気の回しようっ……。

 ……思えば、最初から違和感はあったかもしれない。

 こちらに構わず強引にことを進めようとするところは相変わらずなので大して成長していないように思っていたものの、振り返ればネヴィルの言動の端々にはかつてのこいつには見られなかった他者への配慮が常にあった気がする。いつ取り乱してもおかしくないくらい状況に圧倒され続けてきた僕がこれまで一応は平静を保てているのも――まあそもそもの原因がこいつにあるらしいとはいえ――ネヴィルが色々考えて先導してくれているからというのは事実なわけだし。

 僕も先入観でネヴィルを捉え過ぎていた。……まあその先入観、つまりは彼の過去の振る舞いこそネヴィルの場合は致命的なのだと言わざるをえないが。

 ……十年という歳月は、ネヴィルをすら大人に変えてしまったということか。

 そのことには何だか妙な寂しさを覚えるものの、こいつがメアリの夫になることを思えばそれくらいちゃんとしてくれていないとむしろ困るのだし……まあ、こうした彼の人間性の変化を僕は素直に喜ぶべきなのだろう。

「今更だけど、お前、大人になったよな」

 しみじみ言うと、ネヴィルはハッ、と嗤った。

「何だい、急に。しかし君に褒めてもらえるなんて光栄だな。思えば、わたしは君に酷いことばかりしてきたし、そのせいでいつも君を怒らせてばかりいたから」

「おお……お前こそどうした急に」

 まるでそのことを反省しているみたいな口ぶりだ。

 らしくないにも程がある。

「……ところで、どうだい? 街の様子は。中々の変わりようだろう?」

「確かに」僕は窓の外に目を向けた。「だいぶ人が増えたんじゃないか?」

「戦火を免れたお陰でこの街は開発が進んだからね。人も大勢入ってきた。勿論、あちら側からも」

「……へぇ」

 改めて見回してみると、向こうの言葉で書かれた看板もちらほら見える。往来している人々の中にも外国人らしい人の姿が結構あった。

「こうして実際に目にしている光景なわけだが、何だか信じられないよ」

「何がだい?」

「ええと……」

 つい口をついた感想なので、拾われると少し戸惑うけど……。

「何というか……あちら側の文化、言葉……いわば『空気』が、当たり前に街に溶け込んでいるってことがさ」

「ああ、うん、確かにね」

 ――どんな理由にせよ、一度は憎み合い、殺し合ったはずの僕たちなのに――。

 十年前――まあ僕にとっては昨日だが、こんな平和な世界が将来訪れるなんて話を聞かされても、きっと信じられなかったと思う。

 しかし現実にそうなっているのだから、未来のことは本当に誰にもわからないものなのだ。

「ところでネヴィル。メアリとはよく街へ来るのか?」

「そんなにかな。彼女は人が多い場所が苦手なんだ」

「そうなのか……」

 メアリは成長しても人見知りのままなのか。

 兄として、そこはちょっと心配ではあるけれど……。

「ああでも、月に一度は来るか」

「? 何か毎月の用事でもあるのか?」

「街の近くに二人で行く場所があるんだ。……後で案内するよ。そこへ君を連れて行くことも、ここへ来た理由の一つだからね」

「そうなのか」

 そこがどこなのか気になるが、どうせこの後行くのだし、すぐに分かることか。

「まあ、たまには美味しいスイーツの店とか連れて行ってやってくれよ。メアリは甘いものに目がないからな」

「了解した」

 なんてことを話している内に車は路地の道へ折れ、どこかの店の裏手らしい空き地にて停車した。

 どうやら到着したらしい。

 僕たちは車を降りた。

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