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ショートショート7月~2回目

類友

作者: たかさば

気が付いたら、いつも居たはずのあいつが、いなくなっていた。


ほんの少し、気に入らなかったことを注意しただけなのに、あいつは大げさに受け取って。

勝手に盛大に傷ついて、俺のもとから逃げ出してしまったのだ。


…別れを口にする事なく、あいつは去ってしまった。


……せめて、別れの言葉くらい、かけさせてほしかった。


さようならが、あいつに届くことを願って、文字を並べる。

さようならが、あいつに届くはずもないのに、文字を並べる。


いつになく、センチメンタルな気分が俺を襲う。


あいつがいない、世界を眺める。

あいつがいないだけなのに、世界がまるで違う。


……あいつのいない世界は、実に平穏だ。


俺を否定する言葉がここには微塵も見当たらない。

俺を軽んじる言葉がここには微塵も見当たらない。


思えば、あいつが一緒にいた世界は、実に辟易するものだった。


あいつに貶されるたびに、俺は自分を呪った。

あいつに罵倒されるたびに、俺は自分を蔑んだ。


あいつが中心の、俺の日々。


あいつへの気持ちを優先させた、俺の純真。

あいつの涙に騙され続けた、俺のやさしさ。


俺の気遣いありきの、相思相愛。


いつだってあいつの顔色をうかがい、言葉を吐いた。

いつだってあいつの顔色をうかがい、自分らしくない言葉を吐いた。


……あまりにも、あいつと一緒に、いすぎて。


俺は、いつの間にか、自分の言葉を、放り出してしまった。


俺らしくない言葉が、あいつの喜ぶ言葉が、次々に浮かんでくる。


……俺は、思いのほか、繊細だったらしい。


俺の横に、憎らしいあいつがいないのが、寂しいなんて。

俺の横で、腹立たしいことをつぶやくあいつを求めてしまうなんて。


長く、長くあいつと共に過ごしてきた俺には、わかる。


今頃、あいつも、寂しくてたまらないはずだ。

今頃、あいつは、俺の胸を思い出して、枕に縋りついているはずだ。


俺は、心が広いから。


あいつを迎えに行こうと思っている。

あいつを迎えに行けるのは、俺だけだ。


年金が入ったら、探偵を雇って、あいつを必ず……見つけ出す。




ようやく、束縛のきつい彼氏から逃げ出すことができた。


小さなことをいつまでもぐちぐちと攻め立てる、典型的なA型の彼氏。

小言を聞かない日がないくらい、いつだって目ざとくこちらのミスを責め立てた。


…別れたいなんて言ったら、ものすごい攻撃を食らうとわかっているから。


……何も言わずに、着拒、ブロック、アカウント削除、した。


彼氏にかかわるすべての事から、逃げ出すと、決めたから。

彼氏の事を、きれいさっぱり忘れて、新しい生活を手に入れると、決めたから。


こんなにも、自分は優柔不断だったのかと、思う。


彼氏がいない、世界を眺める。

彼氏がいないだけなのに、世界がまるで違う。


……彼氏のいない世界は、実に平穏だ。


信じられないセンスの悪さに、カツを入れるパワーを使わずに済む。

つまらないオヤジギャグに、いちいちかわいらしく反応しなくて済む。


思えば、あいつが一緒にいた世界は、実に辟易するものだった。


ちょっと突っ込むと、すぐにヘタレた事ばかり抜かすからめんどくさかった。

ちょっときつめにダメ出しすると、俺はもう駄目だと絶望するのがうざかった。


あいつがさりげなく主導権を握っていたのが気に入らなかった。


自分の写真は載せないくせに、こっちの写真をどんどんリクエストするとか。

こっちがえーんって泣いたらお終いの、一連の流れができているのが気持ち悪かった。


はたから見たら、相思相愛の、バカあまカップルってね。


つまんないつぶやきに、砂糖まみれのくどい返しをされて、引いてたんだよ。

無下にするのもなんだと思って、絵文字で返したらさらに砂糖漬けになって返ってきてさ。


……ちょっと、付き合いすぎちゃったんだよね、たぶん。


ごく普通の言葉じゃ、満足できなくなってきちまった。


言葉のどこかに、甘い要素を求めるようになっちまった。


……完全に、毒されてしまった。


スッキリとした画面に、ねちっこい呟きがないのが、少し寂しい。

飾らない武骨な呟きの続く画面に、ゲロ甘な文字列を求めてしまうとは。


足掛け三年の、付き合いか。


今頃、あいつも、寂しくてたまらないのかも、しれないな。

今頃、あいつは、俺という彼女を追い求めて、ポエムでも呟いているかもしれないな。


……だまして悪かったとは、思ってるんだけどさ。


あいつに本当の事は、言えないな。

あいつに本当の事がバレなくて、マジよかったわ。


そうだ、次の部誌のネタ、「ツイ恋物語」で書いてみるかな。


あいつのおかげで、甘いやり取りを学んだからな。


……きっと、良いものが書けるはずだ。


いけすかない、文芸部のOBどもに、見せつけてやるぜ!






……見せつけた、結果。






どうなったと、思う……?

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― 新着の感想 ―
[一言] ん? 性別が……? ん? 文芸部のやつに見せつけたら、お月様に作品が投稿された……。というオチでしょうか。
[良い点] 全年齢でそっち系?。サラサラと読ませてドロドロ落とし。 [気になる点] うん、コメナシで。(駄目だ、突っ込んだら駄目だ、罠だ。)
[良い点] >>> 年金が入ったら、探偵を雇って、あいつを必ず……見つけ出す。  すっごく笑いました [気になる点] ぎゃー! ヘンテコ物語。 [一言] わけわからん執着ストーリー。はい。わかんない…
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