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SSAW -Spring Summer Autumn Winter-

作者: 津辻真咲

ここは、対流圏の一番下。人類たちが行き交う街が彼女の世界。来夏らいかは高校生。今、屋上から空を眺めていた。

――今年こそは、気象予報士の試験、合格できるかな?

 空は快晴。雲一つなかった。ザァッと風が吹いた。

「わっ!」

 突風は一瞬にして、彼女を屋上へ置いて、過ぎ去る。

「痛っ!」

彼女は足を見る。左足に大きな切り傷があった。

――まさか、これがかまいたち!?

 彼女は真空になった空間を思い浮かべた。

「あのー、大丈夫ですか?」

「えっ!?」

 彼女は、その声に振り返る。しかし、そこに人類はいなかった。

「あなたたち、誰ですか?」

「私は春風の精、風歌ふうかです」

「私は地方風の精、風真ふうまと申します」

「それで、そのー。すみませんでした!」

二人は頭を下げる。

「実はこいつと真剣を使って勝負をしてたもので。それであなたに気付かなくて。だから、すみません!」

――春風の精? どういうこと?

「どうしよう、止血しなきゃ!」

 風歌は焦る。

「それなら、上空の空層線路くうそうせんろにいる、あいつに頼んでみたらどうだ?」

「季節風の精の亜季あきね?」

「????」

「そうと決まったら、Let’s Go!!」

二人は来夏の腕を掴んだ。そして。ゴォォォと轟音を立てて、上空へと飛び上がった。

「きゃ!」

ヒュゥゥゥ……ストン。彼らは、飛行機雲の空層線路へ降り立った。

「空層線路って、飛行機雲だったんですね」

「まぁね。って、それより傷! 止血しないと」

「また、あの鎌異太刀かまいたちっていう技で争ってたの!?しかも人間のいる空域で」

 亜季だった。

「だってぇ」

「ごめんなさいね。この二人が」

「いいえ」

 来夏は笑顔で、二人を許していた。



「よし、これで大丈夫」

「手当て終わった?」

 風歌がひょこりと顔を出す。

「終わったわよ」

「ホント!?」

風歌は目をキラキラさせていた。

「えーっと」

「来夏と申します」

「来夏さん、何か困った事はありませんか?」

 亜季が尋ねる。

「え?」

「今回の一件で、来夏さんに多大なご迷惑をおかけしました。なので、お詫びをと思いまして」

「うーん」

 ……。

「あ! こういうのはどうですか?」

「?」

「私が気象予報士の資格を取れるまで、勉強させて下さい!」

「!」

「来夏さん、本当にそれでよろしいのですか?」

 亜季は少し戸惑いながら、確認していた。

「もう、亜季ちゃん、本人がいいって言ってるんだからいいじゃん! ね?」

「はい!」

来夏は笑顔で頷いた。

「風歌、あれを手伝ってもらったらどうだ?」

 風真は風歌に提案をする。

「あぁ! あの桜前線計画ね」

 風歌は思い出し、納得していた様子だった。

「桜前線計画?」

「去年の秋の台風の多数襲来の事覚えてる?」

 風歌は来夏に聞く。

「うん、覚えてるよ。桜の葉に塩分が付いたせいで、ほとんどの桜の木の葉が落ちてしまったんだよね?」

「そうそう、そのせいで、秋に桜の花が開花してしまった事件」

 風歌は続けた。

「それと桜前線計画とどう関係してるの?」

 来夏は尋ねる。

「その秋に咲いてしまった桜の木にも春に桜の花を咲かせようとする計画だよ」

「でも、秋に咲いてしまった桜の花は、春には咲くことが出来ないんじゃ」

 来夏は少し、戸惑いながら答える。

「そう! そうなんだよね。が、しかし、それは大丈夫!」

 風歌は元気いっぱいに言う。

「え!? 何で!?」

 来夏は少し驚きながら、聞く。

「来夏っち、奇跡起こしてみない?」

「え?」

「しかし、この奇跡を起こすには、ちょっとひとひねり必要なんだよねぇ」

「ひとひねり?」

 来夏は首を傾げる。

「こいつの担当している季節、春には、もう一人担当者がいる。要するに、こいつの相棒だ。だが、こいつの相棒は、ちょっと変わってて、な」

 風真は少し苦笑しながら、説明する。

「偏屈です!」

「はっきり言うなよ……」

風真は呆れて言う。

「私の相棒は、桜の精、さくら、なんだ」

「桜の精? だからなの? あの桜前線計画って」

 来夏は少し驚いて、聞く。

「まぁね。でも、この計画は、本当は私たちだけで考えたわけではないんだ」

「そうなの?」

「そうよ。実は、地上に画廊を持つ、担当季節、冬の雪の精、クリスが人類から依頼を受けたものなの」

「依頼?」

「今回の依頼は今度、小学一年生になる女の子からのものよ。ニュースで桜の花が咲かないと聞いて、以前からの知り合いだったクリスの所へやって来たみたい」

「そうだったんですか」

 来夏は納得した様子だった。

「どう?手伝ってみる? 桜前線計画」

 風歌はウィンクをしながら、格好をつけて言う。

「お前が一人で相棒のさくらを説得に行くのが、嫌なだけだろ」

「違うもーん!」

風歌は風真の嫌味に、即座に頬を膨らます。

「あのー」

「?」

「私、やってみたいです。その桜前線計画」

 来夏は微笑んで言う。

「ホント! ありがとう!」

風歌は来夏に抱きつく。



「嫌です」

さくらはきっぱりと断った。

「えー、何でー」

 風歌はテンション低めに答える。

「桜の花が咲かないのは、人類のせいではないのです。自然環境の異常が起こした天災です。よって、人類には申し訳ないが、春の桜は諦めてもらいましょう」

 さくらは淡々と言い放つ。

「だから、人類は、科学力を持ってるでしょ。だから、自然環境に振り回される筋合いはない!」

 風歌も言い返すが。

「では、言いますが、今の自然環境の異常を引き起こしたのは、人類のその科学力でしょう。ならば、その代償を受けるべきです」

「むぅ」

さくらに言い負かされて、風歌は頬を膨らます。

「頬を膨らませて、解決できる事件はどこにもありませんよ」

「このぉ!」

「風歌さん、落ち着いて! 相棒なんでしょ」

来夏は風歌を押さえる。

「ったくぅ! どうしてもダメなの?」

 風歌は最終確認のように聞き返す。

「えぇ。でも、もし出来るとすれば、そこの気象予報士の卵の来夏さん、あなたが人類代表として、何かしてくれればの話だけれども」

「!」

「それ、本当ですか!?」

「えぇ、本当よ。出来るの?」

 さくらは初めて、来夏の方を見た。

「はい!」

来夏は笑顔で答えた。

「なぜ、笑顔なんだ?」

 さくらは尋ねる。

「1%でも可能性をくれたからです。ありがとうございます。頑張ります!」

「そう。幸運を祈るわ。」

来夏は一礼をすると、風歌と共にさくらのもとをあとにした。



「どーするの! あんな事言って!」

 風歌は焦る。しかし、来夏は楽しそうに言う。

「大丈夫! 偏屈の相手は得意よ?」

「え?」



りく! お待たせ。待った?」

 来夏は彼へ駆け寄る。

「待った。30秒もな!」

「はいはい。ごめんなさいね?」

来夏は笑顔であしらう。

「別にそこまで怒ってねぇよ」

彼、陸は照れた。

「ありがと」

来夏は笑顔で礼を言う。

「で? 用事って何だ?」

「あ、まずは、この子の紹介から始めさせて?」

「この子?」

 陸はきょとんとする。

「こちらが、春担当の春風の精、風歌さんです」

 風歌は姿を現した。陸はまじまじと彼女を見る。そして。

「って! 浮いてる!」

 陸は足が地面についておらず、空中に浮いている彼女を見て、驚いた。

「だから、春風の精って言ったでしょ?」

「それもそうだったな。驚いてすまん。俺は、こいつの幼馴染の陸だ。よろしく。」

「こちらこそ、よろしく」

 二人は握手をした。

「それで?」

 陸は要件を聞く。

「それでね、この日本全土にある春に桜の花が咲かない全ての桜の木に人工の花をつけてほしいの。もちろん、本物そっくりに!」

「はぁ!?」

「来夏っち、それは、いくらなんでも無理なんじゃ」

「大丈夫! だよね? 陸?」

「あぁ、まぁな」

「へ? 何で!?」

「俺の祖父が経営する世界規模の海原財閥なら簡単さ。来夏、それだけでいいのか?」

「もちろん! ありがとう。陸」

来夏は笑顔で、陸の手をとった。

「いやぁ、礼なんていらねぇよ」

陸は照れた。

「良かったね。風歌」

「ありがと、来夏っち。」



次の日。日本全土に満開の桜の木が広がる。

「すごい! 満開じゃん。桜」

「ホント! きれい」

 街行く人々は、桜に驚いていた。

「誰の仕業なのか、分かりませんが、日本全土、一気に桜が満開です。秋に咲いてしまい、春には咲かないと言われていた桜の木には、人工の桜の花びらが添えてあります。これは、奇跡と言わざるおえません」

「ふっ」

さくらは微笑む。そして。

「やるではないか、気象予報士の卵とやら。約束通り、桜を咲かせましょう」

ふわっと扇を仰ぐ。そして、ザァァァと突風が吹いた。すると、造花が本物の桜の花びらに変わっていった。

「風歌、造花の花びらが本物の桜の花びらになったよ!」

来夏は彼女の方へ振り返る。

「ホントだ! 来夏っち、ありがとう!」

「どういたしまして」

 二人は微笑み合った。


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