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9、カミサマと親友


朝、席につき暇潰しに本を読んでいると丸原が顔をニヤニヤしながら近づいてきて、俺の前の席に座った。


「昨日はどうだった?最終兵器効いただろ?」


「なんだよ、最終兵器って。100%いけるとか、下手な忠告してるんじゃねぇ」


「えっ?男の夢だろ?それに那奈のあの声で言われたら最高だろ。羨ましいよ、お前が」


「別に、ムカついただけだったよ」

ムカついたのは本当だし、嘘はついてない。


「で、本心は?」

と聞かれ、親友はうまく誤魔化されてはくれないと正直になることにした。


「・・・これが、萌ってやつかと初めて実感した」


ギャハハと笑いだす丸原。

まるで、丸原の思い通りになっているようでムカついたけど、俺の食事が不規則なことを心配しているのを知っていたし、それで羽田野に最終兵器を渡したのをわかっているから、怒れなかった。


「那奈のこと、少しは見直した?」


「は?見直すも何もなんとも思ってないし」


「お前さ、女子には優しくないけど、特に那奈には厳しかったじゃん。何かあった?」


「別に、何もないし。まあ、噂どおりの小悪魔だなとは思うけど」


「嘉見って、人の噂とか信じないと思ってたけど、噂で那奈のこと嫌ってたの?サイテー」


「丸原と羽田野は仲いいからわからないだろうけど、あいつの思わせ振りな態度で、そんな気はないとか平気な顔していうところは、嫌いだ。優しいって噂もあるけど、それなりに一生懸命ですごいなと思うこともあったけど、俺は別に優しいとは思えなかった」


「ちょっ、バカ。後ろ、後ろ」

丸原の慌てる声に、後ろを向くと、青い顔をした羽田野がいた。


「ごめんね嘉見くん。そんなつもりなかったんだけど、不快にさせてたみたいで。私、嘉見くんのことは人として好きだし尊敬してたから、ちょっと距離の取り方わからないところあったかもだけど、悪気はなかったんだ。ごめんなさい」


羽田野は一気に言って頭を下げ教室を出た。

声が震えてた。

目が赤くなってた。


泣きそうなのこらえていたのがわかったけど、足が動かない。


「バカ、追いかけろ」


「いや、何て言ったらいいかわからないし」


「ウジウジ考えるな。ごちゃごちゃ考えてないで、一言謝ればいいんだよ。那奈なら許してくれるから」


丸原に背中を押されて、俺はとにかく走った。


羽田野のクラス、屋上、中庭、保健室。


思いついたところを行ってみたが、何処にもいなかった。


キンコーン。

授業開始のチャイムが聞こえた。

今から教室に戻っても、目立つだけだ。サボるか。

サボるにしても、何処に行けばいいんだ?


目立たない場所って、どこだ?

そこまで考えて、もしかしてと俺は走った。


体育館裏にいくと、グスグス鼻をすする音がした。

もしかしてと見ると、隙間に体育座りで、膝に頭を埋めているけど、羽田野だとわかった。


「羽田野」

俺が名前を呼ぶとビクッと肩を震わせた。


「私のことは構わないでください。今までありがとうございました。今日からいなくなるんで、本当にすいませんでした」


顔はあげず、敬語で話しだす。

それだけなのに、急に距離を感じた。


「ごめん。俺、酷いこと言った」


「いいんです。今までも似たようなこと言われたことあるんで、大丈夫です。優しくしたつもりでも、嘉見くんにはただのおせっかいでしたよね。すいませんでした」


「おせっかいなんて思わなかったよ。羽田野は俺を心配して料理作ってくれたんだろ。それは嬉しかったし、羽田野の料理は美味しいし、ここ数日は幸せだなって、思ってたよ。でもさ、羽田野はもうすぐいなくなるだろ?慣れちゃ駄目だって、当たり前じゃないからって、自分に言い聞かせてたよ。この生活もあと3日だけど、羽田野が急にいなくなったら、寂しくなるだろ」


「へっ?」


「だから、あと3日よろしくってことだよ」


「私、まだ嘉見くんと一緒にいてもいいの?」


「ああ」


「嬉しい、ありがとう」

顔を上げた羽田野は、涙でびちゃびちゃだったけど、笑顔がかわいいなと思ったのだった。


結局、羽田野の目の下の腫れは酷く、泣き止んだけど次の授業もサボってまだここにいるというので、俺も一緒にサボることにした。


弱っている羽田野をほっとけなかった。


俺は話が得意じゃないから、大した話しは出来なかったし、沈黙もあったけど、穏やかに時間が過ぎた。


羽田野は、しばらくするともう平気だからと笑った。


「あの、嘉見くん。お願いがあるんだけど」


「何?」

改まってお願いとか言う羽田野に身構えたけど、


「今度からも、私のこと羽田野って呼んでほしい。今まで、あんたとか、お前だったし、私の名前知らないのかと思って何も言わなかったけど、知ってるみたいだから」


「・・・」

羽田野に言われて、記憶を探る。

確かに、あえて呼ばないようにしていたかもしれない。


羽田野なんて呼んだら、友達とか言われそうだと思ったし。

俺と羽田野は友達じゃないし、それはなんか負けな気がして。


「知ってるよ、羽田野那奈だろ?羽田野は小悪魔ちゃんの噂で有名なんだぜ?」


笑って羽田野を見ると、顔を赤くして俯いた。


何か変なこと言ったか?

女はよくわからないなと思った。



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