31、小悪魔喧嘩する
日曜日。
嘉見くんは今日は出かけるから昼ご飯も晩ご飯もいらないよと朝から出かけた。
誰と出かけるとか言っていなかったし、私も聞かなかった。
朝食を2人で食べた後、いってらっしゃいと見送った。
見送った後、リビングのソファに座りなんとなくテレビをつけてみた。
何年前に流行ったドラマの再放送をしていた。
運命的な出会いから、恋愛に発展する普通の恋愛ものだ。
ドラマのようにうまくいかないなと、ソファーに座りながらドラマを見ていた。
私も嘉見くんと運命的な出会いをして、最初は仲良くしたかったけど、なかなか仲良くなれなくて。
あれから辛いこともあったけど、嘉見くんと一緒に住むことになって。
はじめはうまくいかないこともあったけど、最近は仲良くなって、いっしょにいるのがあたり前になって。
毎日が幸せで。楽しくて。
本当に運命みたいだなってどこかで思っていた。
でも運命とか思っていたのは私だけで。
私が勝手に思っていただけ。
ドラマは泣くところではないのに、涙が出そうになる。
だめだ。
ダメだ。
こんなの私らしくない。
嘉見くんがいなくて淋しくて、情緒不安定になっているのかな。
マンションに独りでいるのが、なぜか急に淋しくなって、気分転換に出かけることにしたのだった。
両親が小さい頃離婚して、母も仕事で小さい頃から留守番していた。
淋しいと思うこともあったけど、それに慣れて。
淋しいなんて思うことは、小学生以来なかったのに。
淋しさに慣れたと思ったのに、そんなことなかったみたいだ。
目的もなく出かけたためか、何をしていいかわからなくて、映画でも見ようかなと駅前の映画館へ行った。
上映までまだ時間があったため、トイレに行く。
上映前だからか、かなり混んでいた。
順番まで待っているとき、洗い場の方から
「え?佳樹ってそんなにガード堅かったっけ?高校入ってから変わったのかな?」
「そうそう、今日だってデートしようって誘ったのに、断られたし。どうしてもっていったら、丸原と3人ならとか言うんだよ。そんなのデートじゃないじゃん。彼氏にする計画が全然上手くいかないよ。せっかく嘘までついて彼女(仮)にしてもらったのに」
声をする方を見ると、私服のせいか一瞬わからなかったけど咲乃さんだった。
丸原って修ちゃんのこと?
佳樹って嘉見くんのこと?
嘘をついて彼女になった?
嘘?
嘘って何?
「あの、すいません。あなたが今言ったことは本当ですか?嘉見くんの優しさを利用して嘘をついて付き合ってるんですか?」
私は黙っていられず、咲乃さんに近づき声をかけた。
「なっ、何よ突然!?・・・って、あんた佳樹の何?関係ない第3者が、勝手に口出ししないでくれる?」
「いえ、言わせて下さい。許せないです!!ずるいです!ひどいです!私嘉見くんに言います」
「言いたければ言えば?それにどういう関係か知らないけど、貴方の言うことなんて信じるかしら?
それに私嘘はついたけど、半分は事実だし全部が嘘ってわけじゃないのよ。それに優しさを利用するって悪いことかしら?利用できるものは、なんでも利用すればいいと思うけど。それぐらい私が佳樹のこと本気ってことだし、必死ってことよ。なにも努力もしない口だけの貴方とは好きの重さが違うわ。口だけではなんとでも言えるしね。でも、佳樹好きな人がいるみたいよ。仮に佳樹に言ってもあなたと恋人になるようなことはないわよ。無駄なことはしないことね」
「嘉見くんを利用することに罪悪感はないんですか?嘉見くんの幸せは願えないんですか?」
「きっかけや過程はどうでも、例えば佳樹が私のことを好きになったらそんなの関係なくない?結果的には佳樹は幸せよ」
「でも、嘘はよくないです。私だったらそんな形でつきあっても罪悪感で長く続かないです」
「なんなのあんた?さっきから生意気なのよ!」
咲乃さんに肩をこづかれた。
軽くこづかれたから、倒れるようなことはなかったけど、周りがざわついた。
トイレでケンカとか、場所も悪いうえに目立ちすぎていた。
「・・・」
「・・・」
「・・・もうこの話よくない?どっちもどっち。人は人。色々考え方違うってことで」
咲乃さんの友達が咲乃さんの手を引きトイレから出て行った。
私もすぐに出たかったけど、すぐに出るとまた会うかもしれない。
しばらく時間を潰して、出たのだった。
悔しかった。
何も言えなかったことが。
咲乃さんの強い口調に気持ち感じて、言い返せなかった。
嘘をついてまで付き合うなんて、嘉見くんの優しさを利用するなんてと思った。
仮でつきあうということは、嘉見くんは嫌々つきあっているんじゃないかと勝手に思ったけど、違うかもしれない。
あれ?
でも嘉見くんに好きな人いるって言ってたっけ???
帰ったら、嘉見くんに聞いてみようかな。
話せないって言われたら、それはそれで。
私に出来ることがあれば、なんでもいいからしたい。
結局映画を見る心境ではなくなって、帰ることにした。
トイレから出ると、少し離れたところで言い争っている男女の姿が見えた。
女の方は咲乃さんだった。
広い映画館の端っこ。
言い争っているのに周りの音にかき消されて全然目立っていないようだった。
周りの人は全然見向きもしていない。
「なんで、メールも電話も無視するんだ!まだ俺は咲乃のことこんなに好きなのに!!」
「無視してる地点で気がついてよ。この前別れようって言ったでしょう?」
「でも、俺は納得してない!!」
「納得できなくても、私もう無理だから。今日も何?ついてきたの?気持ち悪いんだけど」
「咲乃が無視しなきゃ、俺だってこんなことしないよ。話がしたいんだ」
「新しい彼氏も出来たし、私たちもう終わったんだよ。いい加減現実受け止めなよ」
やりとりを見ながら、ふと冷静になる。
もしかして、この男の人に困っていて、咲乃さんが頼んだのかなと。
「俺たちの関係ってそんな簡単に終わるものだったのか?俺のこと好きって言ってくれたのになんで簡単に変わっちまったんだよ。俺と別れてすぐ彼氏作るとかそれがまたムカつくよ」
男が咲乃さんを掴み殴ろうとしていていた。
私はとっさに男の人の手を掴んだ。
「やめなよ。女の子を殴ろうとするなんて最低だよ。人の気持ちは暴力で変わるものじゃないよ」
「なんだよ、お前。邪魔するんじゃねえよ!!いうこときかないときは、こうするのが一番なんだよ」
「そんなことしなくても、話し合えばわかるよ。咲乃さんのこと好きなんだよね?なのになんで咲乃さんを苦しめるようなことするの?」
「うるさいよ!お前どっかいけよ!!」
男が手を強く振りきった。
腕を掴んでいた私はバランスを崩し勢いよく吹っ飛んだ。
そして私は運悪く壁に頭からぶつかった。
痛い。
かなり痛い。
すぐに起き上がらなきゃと思うのに、体が動かなかった。
額の方から温かいものが流れてくるのを感じる。
血が出たようだ。
男はひいっと叫び顔色を変えて、とっさに逃げようとした。
が、警備員らしき人に取り押さえられたのが見えた。
私の記憶はここまでだ。
なぜなら気を失ってしまったから。




