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3、小悪魔の家庭事情

「ただいま」

家のドアを開けて、玄関で靴を脱いだ。

誰もいないのがわかるけど、つい言ってしまう。


母は看護師だ。夜勤もあるし、顔を会わさない日もある。


実父は私が幼い頃両親が離婚してから、1度も会っていないが、今は新しい義父がいる。母が再婚したのは、名字が変わるのは高校に入ってからの方がいいだろうと籍を入れたのは最近だが、義父とは私が受験生の時から同居している。


受験の忙しい時に、何故と思ったけど、私は口に出せず、再婚していいかと聞いてきた母に、笑っていいよと答えた。


義父とは、いまだに馴染めず、仲は良くないが、悪くもないといった感じだ。

いきなり家族が増えたとか言われても、実感もなければ、すぐに受け入れるのも難しい。

悪い人ではないとは思うけど、ただそれだけ。


義父も働いているから、今の時間は家に誰もいない。

誰もいないこの時間だけ、落ち着けた。


義父がいると気を使うし、家にいてもどっと疲れる。

母がいるときはまだマシだけど、やはり気疲れするのは変わらなかった。

母が夜勤で、義父と2人の時は地獄だった。

会話のキャッチボールもなく、会話が弾まずすぐ終わる。

沈黙が続くと空気が重く、夕食を食べたら、急いで部屋にこもり、勉強して寝ることが多かった。


リビングのカレンダーを見ると、母は今日夜勤らしい。

今日の夜は義父と2人だと思うと、憂鬱になった。


冷蔵庫を開け晩御飯のメニューを考える。

今日はカレーライスとサラダにしようかな。


朝食は母が作るが、夕飯を作るのは忙しい母にかわり私だった。

中学になってからだから、料理歴は3年ぐらいだけど、かなり上達したと思う。


カレーが完成したところで、義父がリビングのドアを開けて

「ただいま」と声をかけてきた。


「おかえりなさい」

私はカレーを盛り付け、テーブルに置いた。

料理は出来立てが美味しいと思うし。温かいものを食べてほしいから、いつも義父の帰宅時間を計算して晩御飯を作っている。


「今日は学校で何かあった?」


「別にいつも通りでした」


「そっか、平和が1番だよな」

当たり障りがないことを言う義父。

会話はこれで終了。


私から話すことはない。何を話したらいいかわからないし。


テレビの音が響くリビングで、無言でご飯を食べる私達。

よく見るドラマや漫画の様な光景とは全く真逆。


実父がいた頃は、小さかったけど、こんなんじゃなかった記憶がうっすらとある。

毎日笑い声がして、毎回ご飯の時間が楽しみだった。


楽しいご飯の時間なんて、私がこの家にいる限り、もうないかもしれないと思ってた。


高校卒業したら遠い学校を受験して、家を出るのは自分の心に決めているけど、義父と母にはまだ言っておらず、果たして許してくれるか不安だった。


食洗機に食べ終わった食器をセットして、部屋に戻る。

義父を見ると、お酒を飲みながら、TVを見ていた。

はあとため息が出た。


今日も疲れた。

今日は早く寝よう。


*******


体に重みを感じて目覚めると、義父がいた。


掛け布団は剥がされてない。


抱きつく義父。

顔を近づけて耳元で何か言っているけど、呂律が回っておらず、何を言っているかわからない。


義父からひどいお酒の匂いがした。


パジャマの下から手が侵入してきて、驚いて悲鳴をあげたが、すぐに口が塞がれた。


抵抗しようとジタバタするが、すぐに押さえ付けられた。


何故こんなことになっているのかわからない。

だけど、このままじゃ私は犯されるんじゃないか?


義父の手が胸にまできた時、恐怖と、気持ち悪さでいっぱいになった。


何とか、何かしなくちゃ。


私は枕元にあった目覚まし時計を義父の頭におもいっきり投げつけた。


義父は「うっ」と言って、倒れた。


涙が溢れる。

何で泣いてるんだろう私。


何故__。


悲しい___。


怖い_______。


気持ち悪い_______。


色々な感情が溢れて、自分でもわからない。

でも義父のせいで涙が出ているのは間違いない。


ここにはもういられない。


私は動かない義父の手足を縛り、部屋の外で着替えて、制服とわずかな服、着替えとお金を持って家を飛び出したのだった。


いざ外に出たけど、目的地なんてない。

私は少し遠くの誰もいない公園のベンチに座り途方にくれていた。


誰かに泊めてもらえないかな。

でも急だし、こんな時間じゃ迷惑かな。

というか、みんな寝てるんじゃないかな。


まず浮かんだのは、親友の美八だった。

だけど、美八に電話して事情を話すときっとこんな夜中だけど、今からでもこの公園に駆けつけて来るだろう。

でも、美八は女の子だし、危ない。何かあったら大変だ。

こんな時間だし、止めよう。


次に浮かんだのは、修ちゃんだ。

修ちゃんなら・・・。でも寝てるかもしれない。


私は修ちゃんにメールしてみた。


『今、起きてる?』


1分後、すぐに返事がきた。


『起きてるよ』


『突然なんだけど、今日泊めてもらえないかな?無理なら別に断ってくれていいんだけど』


『今どこにいる?』


『みどり公園』


『10分で行くから待ってて』


修ちゃんって、本当にいい人だな。

こんな急に変なメールしても、私のために駆けつけてくれるなんて。


待っている間にまた涙が溢れた。

なんか今日は涙脆くなってるな私。


自転車で爆走する修ちゃんが見えた。

さすが、男の子だな。凄いや。


「どうした?話聞かせて」


私は簡単に親が再婚したが義父とはうまくいってないこと、義父に犯されそうになって逃げたことを話した。


修ちゃんは、何も言わず話を聞いてくれた。

私は今この時間、ひとりじゃないことに安心してそれだけでもよかった。


修ちゃんは少し考えた後、

「・・・泊めてくれそうな所に心当たりがある。ついてきて」


私は修ちゃんの後をついていった。


20分後、高級そうなマンションの前に着いた。

入り口はオートロックな玄関。

修ちゃんは部屋の番号に呼び出しボタンを押した。


しばらく待ったが、返事はない。

まあ、こんな時間だし、普通は寝てるよね。


修ちゃんは、呼び出しボタンを連打した。

そんなに呼び出しボタンって、連打していいものだっけ?不安になっていると、


「何?」

不機嫌な声がインターホンから聞こえる。


「あっ、俺、俺。丸原だけど、開けてくれ」

名乗っていなければ、まるで詐欺のようだと横でヒヤヒヤしていたけど、目の前の自動ドアが開いた。


修ちゃんはエレベーターの9階のボタンを押すと、あるドアの前に止まり、部屋の前のインターホンのボタンを押した。


「で、こんな時間に何?」

不機嫌な顔をした嘉見くんが出てきたのだった。











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