21、小悪魔とカミサマと義妹
久しぶりの更新です。
かなり間が空いてしまいましたが、少しずつまたペースをあげていければと思っております。
夏ぐらいまでには完結したいと思っております。
「優しいあなたならわかるでしょう?」
茜さんに言われ、私は何も言えなかった。
私が嘉見くんの将来の障害になっているなんて、気づかなかった。
深く考えてなかった。
ただの同居だし。
やましいことは何もない。
ただ一緒に暮らしてるだけ。
茜さんの言うことはわかる。
嘉見くんのことを思うなら、私が嘉見くんの家を出なければならないことも。
だけど、嘉見くんと一緒にいたいと思った。
嘉見くんとの生活は楽しかった。
嘉見くんのこともっと知りたいし、作りたい料理もあるし、今よりも仲良くなりたい。
離れたくない。
離れたくない。
離れたくない。
ただ強くそう思った。
だけど私が嘉見くんのために出来ることは、あの家から出ていくことなんだろう。
「少し待ってください。急には無理です。色々準備もあるので」
悪あがきだとわかっているけど、少しでも長く嘉見くんと一緒に居たかった。
「少しっていつまで?いま決めて。期限決めないと、貴方いつまでもいそうだし」
「2週間ください」
本当は1ヶ月は欲しかった。
荷物はほとんどないけど、お世話になったあの部屋を掃除して、新しい場所を探す。やることは色々ありそうだ。
「駄目。長すぎ1週間よ。それまでにあの家出ないとSNSに拡散するからね」
「・・・はい」
1週間なんてあっという間だ。
このままだとすぐに嘉見くんと離れることを考えると、頭がくらくらした。
「はいじゃないよ。何言ってんの?年下の茜の言うことホイホイ聞いて勝手に決めるなよ」
後ろから嘉見くんの声がした。
信じられず後ろを向いたら、明らかに怒った表情の嘉見くんが立っていた。
「お兄ちゃん!会いたかった。嬉しい!!」
途端に笑顔になる茜さん。
会えて嬉しいんだろう。ずっとあの件以来会っていなかったらしいし。
「俺は別に嬉しくないよ。会うつもりもなかったし」
表情を変えず淡々と話す嘉見くん。
いつもとあまりにも違って驚いたけど、
「どうしたの、お兄ちゃん?・・・体調悪い?」
茜さんも同じく驚いていたようだ。
「めでたい頭してるね茜。普通自分を殺そうとした人に会えて嬉しいわけないだろう。それとも、俺は優しいから茜を許してると思った?」
「もちろん、あの時のことは反省してるし二度としない。だけどわかって。あれはお兄ちゃんのことが好きでだからの行動で」
「好きだからって言えば何でも許される訳ないじゃん。じゃあ、この際だからはっきり言うよ。俺は茜のこと好きじゃない。付き合うことは100%ない」
茜さんの目が驚きで大きく開いた。
「俺の母が病死だったのは知ってる?」
嘉見くんの問いに、無言で頷く茜さん。
「母は最後の日まで一生懸命生きたよ。病院行くたびに弱々しくなっていたけど、1日でも早く退院するんだって、いつも笑ってた。そんな母を見ていたせいか、命を大切に考えてた。だから一緒に死のうなんて言われた時から、絶対価値感合わないし、もう無理だって思った。ごめん。今までハッキリ言わなくて」
「じゃあ、なおすから。お兄ちゃんに好きになってもらうようにもっと頑張るから、そんなこと言わないでよ」
「ふーん。それなら仮に俺が羽田野の声やテンポが好きって言ったら今度は羽田野のモノマネでもするつもり?無理だろう?いい加減分かれよ。好きだからって努力してるのは凄いなと思うけど、俺の気持ちが変わることはないから」
茜さんは、無言で俯き泣き出した。
涙が下に次々に落ちていくのを見て心が痛んだ。
「羽田野、ほら帰るよ」
嘉見くんに手を引かれ立ち上がる。
嘉見くんが支払って、ふたりで店を出たけど、なんだかモヤモヤして、嘉見くんの手をほどいて、店に戻り茜さんにハンカチを渡した。
「何?同情?それとも笑いに来たの?あんたからハンカチなんて借りたくない。それに自分のあるし」
「だけど、そのハンカチは、もう涙でビシャビシャです。ハンカチはあげますから。ハンカチは使った後、ビリビリに破いてストレス発散に使ってもいいです。あとこれは元気がでる飴です。それじゃあ」
時間が解決するとか、素敵な人見つかるようにとか下手なことを言うのは違うかなと思って無理に飴だけ渡して去った。
喫茶店を出ると嘉見くんが待っていた。
「ごめんね。勝手なことして。それに、なんとか私だけで解決出来たらって思ったの。嘉見くん、茜さんに会いたくないって言っていたのにゴメンね。結局助けてもらっちゃって」
「別にいいよ。はっきり言わないとなと思っていたところだったし。茜のためにハンカチありがとう。俺が優しくするとまた同じことになるから、俺はもう優しくしないって決めていたし。それに、きっと羽田野がいたからはっきり言えたかもしれない。俺怒るのとかはっきり言うの苦手で今も心臓バクバクしてるし。笑えるだろう?」
「ううん。かっこよかったよ。嘉見くんはいつもかっこいいよ」
私は正直な感想を言ったつもりだったんだけど、
「羽田野は俺のこと美化しすぎだ」
とコツンと頭を小突かれた。
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その頃喫茶店で茜は、
「はぁ、私には出来ないなあんなこと。なんか人として羽田野那奈に勝てる気がしないわ」
と元気が出るという飴を舐めていた。




