20、カミサマにとって家族とは
「なぁ、例えば断っても相手が諦めない場合丸原ならどうする?」
お昼休み、ふと丸原に聞いてみた。
丸原なら友達多いし、俺より対人スキルは上だ。
丸原なら俺みたいなことにはならなかったんじゃないかと。
やっぱり時々考える。俺はどうすればよかったのか。
「何?今困った状況なの?」
「ああ。何回駄目だ無理だと言っても全然諦めないんだ。他にも男は沢山いるし、もっとまわりを見ればいいのにって思うけど」
「嘉見にしては珍しいな。相手の女やっかいな感じなんだ?」
「ああ。もし会ってもどうしていいかわからないし、話したくもない」
「1つ聞きたいんだけど、その女に駄目だ、無理だ以外に言った?」
「言ってないけど、普通わかるだろ?そう言えば」
俺の台詞を聞いた丸原はため息をついた。
「・・・その相手が普通じゃないから困ってるんだろ?嘉見は優しいんだよな。それはいいところだと思うけど、今回はそれが欠点になってるんじゃないか?なんで駄目か、どこが無理か具体的に言ってないだろう?」
「・・・いい言葉が浮かばないんだ。どうしたら傷つけないように言えるのか」
「甘いな。どう言おうが断るなら結果傷つけてるんだよ。確かに言葉は大切だと俺も思ってるけど、はっきり言わなきゃわからないことだってあるだろう?」
・・・俺は甘いだろうか?
確かに、無意識に人と衝突しないように穏やかに過ごしたいと思っている。
俺は人とケンカとかしたことがない。
実際茜と会う前までは、俺の生活は平和そのものだったのだ。
「嘉見の気持ちはっきり言って相手がわからなかったら、それは無理だと諦めて無視するしかないと思うけど、とにかく1度ぶつかってみれば?」
茜には絶対に会わないと心に決めていた。
もう茜を義妹とも思えないからだ。
どんな顔して話せばいいかなんてわからないから。
前みたいに笑顔で会話するのは多分無理だ。
このまま会わずにいたら、諦めてくれないかなとも思っていた。
時間が解決してくれるかもしれないと。
だけど、姉貴の話だと諦める様子はなさそうだ。
何で俺なんだろう?
俺は無理だと言ったのに。
もう一度会って茜にはっきり言う。
嫌だけどやっぱりそうするしかないのだろうか?
やっぱり嫌だ。会いたくない。
逃げ続けるのはかっこ悪いとは思うけど、嫌なものは嫌だった。
********
放課後美化委員の会議が終わりふと携帯の画面が光っていることに気付いた。
丸原からのメールを見て俺は驚いて声をあげそうになるのを堪えた。
『駅前商店街のカフェで嘉見妹と那奈がいるの見かけたけど、ふたり面識あったっけ?なんか嘉見妹怒ってるみたいだけど、何かあった?』
慌てて丸原に電話をする。
幸いにもすぐに出た。
「もしもし、丸原。嘉見だけど。今どこにいる?」
「えっ?家の近くだけど」
それもそうか。
たまたま見かけてメールくれたんだもんな。
メールくれた時間も20分も前だし。
駅前商店街に行くなら俺の方が早い。
俺は、カフェの正確な場所と名前を聞いて電話を切った。
まだバスの時間まで時間がある。
バスを待つより自転車の方が早いが、バス通学の俺は次のバスが来るまで待つしかない。
だけど次のバスは30分後だった。
長すぎるし、バスに乗ってもそこからまた20分はかかる。
バスを待つなんて出来ない。
羽田野に何かあったら___。
一刻も早く行かなければ。
俺は珍しく慌てていた。
教室にいるクラスメートに頼み込み、自転車を借りた。
自分でも驚くほどスピードが出ていた。
羽田野を巻き込みたくなかった。
だから、登校時間もずらして、学校でも家でも話さないようにして距離をとろうとしたのに。
事情は話したから警戒はすると思うけど、結局巻き込んでしまった。
そっけない態度しかとらないのに、いつも羽田野は笑顔だった。
俺は何故いつも笑顔だったのか不思議だったけど、きっと羽田野の笑顔に救われていた。
羽田野の笑顔が曇るようなことがあったら嫌だ。
あいつにはいつも笑顔でいてほしい。
茜の件があって、家族は半崩壊。
義母は茜のどこが悪いのか?
茜はいい子だ。
茜の気持ちに応えてくれと俺に言った。
義母は俺の気持ちはどうでもよかったみたいだ。
これまでなんとか上手くやってきたけど、やっぱり義母も茜も他人なんだなと悟った。
俺は、父に話した。
もう義母と茜とは暮らせないと。
結果茜は入院。俺は1人暮らしを始め、色々なことがどうでもよくなった。
だから、ご飯を食べるのも作るのも興味を持てなくて、毎日を適当にすごしていた。
丸原にだけは、一人暮らしすることになったと話したけど、理由は言わなかった。
話が重すぎだ。
言ったら丸原は親身に聞いて俺の味方でいてくれるのはわかっていたけど、困らせたくなかった。
気になっていたみたいだけど、そっかと言って丸原は特に理由は聞いてこなかった。
便利な生活用品は揃っているし、お手伝いさんにも来てもらって生活に不自由は感じなかったけど、慣れない一人暮らしは寂しかった。
丸原はそれを感じとったのか、たまに泊まりに来てくれた。
本当にいいやつだ。
そんな俺の生活が一変したのは、羽田野が来てからだ。
最初は俺と仲良くなりたい、ご飯食べてほしいと必死な羽田野が不思議で仕方なかった。
ご飯は美味しくて、おはよう、ただいま、おかえり、毎日の挨拶が嬉しかった。
義理の家族と上手くいかなかった。
義理とはいえ家族だったのに。
物語で義理の家族が本当の家族のようになる話もあるけど、しょせんは物語だ。
現実はそんなにうまくいくものじゃない。
もう他人と一緒に住むなんて絶対無理だと思っていた。
だけど羽田野との共同生活は楽しくて、家がなんだかあたたかくて。
将来家族をもったらこんな家がいいなと思った。
他人と絶対暮らせないと思っていた俺が、こんなふうに思えるようになったことに自分の変化を感じていた。
カフェの近くに自転車を停め見ると、まだ茜と羽田野がいた。
なんとか間に合ったみたいだ。
俺は静かにカフェに入り、ふたりに近づいたのだった。




