2、小悪魔の男友達とカミサマ
「那奈~」
朝一番に、私を呼ぶ声がして、振り向くと隣のクラスの男子の丸原修司がいた。
「修ちゃん、おはよう」
「今日コンビニで新しいお菓子発見したから、買ってきた。これ、お裾分けな」
修ちゃんは、私の手にチョコをのせた。
「私も買ってきた。これ、新発売のポッキーだって」
私は学校に行く前にコンビニに寄って、買ったポッキーを開けて、修ちゃんに渡した。
「サンキュ、那奈」
美味しそうに食べる修ちゃんを見て、私は嬉しくなった。
修ちゃんはいわゆるスイーツ男子だ。
新発売のお菓子を食べていた修ちゃんにどこで買ったのか私から話しかけたのがきっかけで、お菓子について語り合い、すぐに意気投合した。
それ以来、こうしてお菓子をあげたり、交換したり、情報交換したりしている。
修ちゃんだけは、変に誤解されずに仲良く出来ている数少ない異性の友達だ。
「嘉見くんもどうかな?」
修ちゃんの隣にいる嘉見くんにもポッキーをすすめたけど
「要らん」
秒で断られた。
自分のクラスに向かう嘉見くんを見て
「今日も駄目だったか」
断られているのは、いつものことだけど、ため息がでた。
「毎回、毎回断られてるのによくやるよな。那奈は」
「修ちゃんにあげて、嘉見くんにあげないのって、仲間はずれにしてるみたいだし。それに嘉見くんと仲良くなれたらと思っているけど、なかなか手強いよね」
「嘉見って、イケメンだろ。昔からモテまくってたしな。中学も一緒だったけど、付き合った人数数えきれないほどだし、とっかえひっかえだったし、1番短いのは1日しかもたなかったとか、長くても1ヶ月ぐらいしか続かなくて。だけど、次から次に告白されるから、途切れないんだよな。まあ、高校入ってからは、彼女作ってないみたいだけど・・・。もしかして、色々あって女子が嫌いとか苦手になったのかも。那奈だけじゃなく、クラスの女子にも冷たいんだぜ。那奈はいいやつだって俺が何回も嘉見に言ってるんだけど、全く興味ないって感じでいつもあんな態度だし。ごめんな」
申し訳なく謝る修ちゃん。
本当にいい人だな。
「謝らないで。私気にしてないよ。前に嘉見くんにお世話になったことがあって、お礼をいつか言えたらなとは思っているんだけどね」
「俺から言っとこうか?」
修ちゃんが全く相手にされてない私を気遣ってくれているのはわかるけど、直接言いたい。
私は首を振った。
まだまだ高校生活は2年半ぐらいあるのだ。
卒業するまでにお礼が言えたらなと思っていた。
とはいえ、前にお礼を言いに言った時は、冷たくあしらわれたけど____。
********
私が嘉見くんを初めて見たのは、高校の受験日だった。
体調は最悪で、熱はなかったけど、声はガラガラ、鼻水や咳も酷くて、メガネにマスクをしていた。
凍っていた道に足を滑らせて転んでしまい、さらに転び方が悪かったのか、立てずにいた。
なんで立てないんだろう。
縁起悪いよ。これから受験なのに。
泣きそうになる私を見なかったふりをして、素通りする人々。
そりゃ、そうだ。下手に関わって受験や会社に遅れたら大変だし。
私も、もし同じようなことがあったら、素通りするかもしれない。
よし、タクシーを呼ぼう。高校まで1キロぐらいしかないし、タクシーの運転手には嫌な顔をされそうだけどと思いながら、携帯電話を手にした時だった。
「大丈夫?」
嘉見くんが、声をかけてくれたのだった。
初めて嘉見くんを見た感想は、イケメンってこんな身近にもいるんだだった。
綺麗で整った顔、下手な芸能人よりもカッコいい。
「お気遣いありがとうございます。見てのとおり立てないですが、大丈夫です。これからタクシー呼ぶんで」
「今日は雪のせいかタクシーも混んでるみたいだし、今から呼んでも、遅れるよ。その制服広陵中だし、これから受験でしょ?」
「まあ・・・それはそれで残りの4教科で点取ります」
「・・・すごいハンデじゃないそれって。足、ちょっとごめんね。触るね」
と言って、私の足に触れ、
「骨は折れてないか」と呟き、リュックを前にかけ、背中を空けると、私の前にかがんだ。
「乗って、手と上半身は動かせるよね?」
「私重いんで、気持ちはありがたいけど、遠慮します」
「何?重いって100キロとかあるの?それなら確かに俺でも無理だけど」
「そこまではないですけど・・・」
「俺も今日北高受けるの。行き先同じの受験生。ついでだから」
それを聞いて私は思いきって、嘉見くんの背中に乗った。
「なんだ。全然軽いじゃん」
道中に嘉見くんは名乗ることはなかったけど、今日の朝は何食べたかとか、今日のテレビの占いで運勢が良かったことなどを話した。
受験番号はと聞かれ
「414」と答えると、私の席まで移動した。
「じゃあ、ここで。お互い頑張ろうね」
笑顔で、去ろうとする嘉見くんに
「あの、お礼がしたいです。名前と連絡先教えてください」
袖を引っ張って、お願いしたけど
「別にお礼期待して助けたとかじゃないし、いらないよ」
「それなら、手持ちはあまりないんですが、これを・・・」
財布から3000円ほど抜き取った。連絡先も教えてくれないし、お礼も要らないと言うけど、私の気がすまない。
これが1番手っ取り早いと思ったのだ。
「いや、マジで要らないから。それならさ、お互いに受験受かって北高に入学したら、君が俺にお礼いいに来て。それならいいでしょ?」
「はい。私絶対受かります。頑張ります」
「うん、それじゃあ」
笑顔で去る嘉見くんを見て、絶対に受かってお礼を言うぞと心に決め、気合いをいれたのだった。
無事に北高に受かって、入学式の日嘉見くんを探した。
同じクラスになれなかったことだけは、初日にわかったけど、名前を知らないためすぐ探せず、お礼は言えなかった。
その後も新しい環境に戸惑い、慣れるのに必死で探せずにいたのだった。
だけど、入学して1ヶ月が経過した頃、カッコよくて、入学したばかりなのに告白されまくっている嘉見くんという男子がいると噂を聞いた。
私はその嘉見くんが受験日に助けてくれた彼だと確信していた。
綺麗な顔をしてたし、モテるだろうなと思った。
私は嘉見くんのクラスに向かった。
女子が輪になっている集団を見ると、中心に嘉見くんがいた。
やっと見つけて嬉しくなって
「あの、嘉見くん。久しぶり。あの時はありがとう」
と声をかけたけど
「誰?久しぶりって、俺あんたのこと知らないんだけど」
冷たくあしらわれたのだった。
それから暫くして、たまたま修ちゃんと仲良くなった。
後日、修ちゃんに声をかけた時、隣に嘉見くんがいた時は本当に驚いた。
修ちゃんと嘉見くんが同じ中学で、仲がいいらしく大体一緒にいたのだった。
修ちゃんに会いに行くついでに、さりげなく隣にいる嘉見くんに話しかけて約3ヶ月。
私は全く相手にされず、結局お礼は言えていなかった。
そして、ふと思う。
私が特に人に優しくするようになったのは、高校に入ってからかもしれない。
あの時、嘉見くんに優しくされて嬉しかったから。
1番に優しさを返したい嘉見くんには返せていないけど、私も人に優しくしたいと思ったのだ。