15、小悪魔と母②
母は私を選ぶと思っていた。
義父じゃなくて、私を。
だって、私は被害者。
義父は加害者。
悪いのは義父。
私は何も悪くない。
だから、話し合いも離婚までいかなくても、義父を追い出すって話になるって勝手に思っていた。
それなら、家に帰ろうって。
だけど、そうじゃなかった。
結局、義父を許して帰ってこいか。
これが、何かの物語なら許して終わりかな。
大人なら許すのかな?
でも、私は嫌だ。
やっぱり出来ないや。
嘉見くんの顔を見て、安心して涙が出た。
嘉見くんは、私の手を掴むとマンションへ向かった。
私より大きな温かい手に安心する。
やっぱり、嘉見くんと離れたくない。
外国にいるらしい実父、施設に行くのも嫌だ。
嘉見くんとずっと一緒に居たい。
でも、我慢して家に帰っても、私の心が死ぬ様な気がする。
やっぱり義父が悪いから、私が我慢するのは違うと思うけど、施設に行くのが誰にも迷惑かけないし、1番いい方法なのかもしれない。
施設はこの辺にないとはいえ、片道2時間や3時間かかっても可能なら北高に通うんだと心に決めた。
交通費はバイトするんだ。
それなら、誰も文句言わないはず。
私は嘉見くんに「施設に行こうと思う」と話した。
しばらくの沈黙の後、嘉見くんが口を開いた。
「・・・転校するの?」
「いや、なるべくそうしないように話そうと思ってるけど」
「今の話を聞くと、頼れそうな親戚や祖父母はいないんだよね?」
「うん。だから、我慢して義父と今まで通り暮らすか、実父のいる海外か、施設に行くか3つしか選択肢はないみたいで」
少し沈黙が続いた。
嘉見くんは、色々考えてくれてるようだ。
「大体選択肢3つしかないって、おかしくない?第4の選択肢はないの?例えばここに住むとか」
「・・・」
「・・・」
嘉見くんの思わぬ提案に、驚いてすぐに言葉が出てこなかった。
「・・・ここにって、また嘉見くんと一緒に暮らせるの?私嘉見くんと一緒に居ていいの?」
「ああ。ただし、羽田野が親を説得出来たらな」
「私頑張る。絶対説得させるよ。ありがとう嘉見くん。嬉しい」
私は嬉しくて、思わず嘉見くんに抱きついた。
「・・・バッ、バカ。距離が近いって・・・でも、まあ、今回はいいか」
私は抱きついていたから、顔は見えなかったけど、聞こえる嘉見くんの心臓の音が早い気がした。
********
後日、私は母にまた話がしたいとメールして、母と会って、友達と一緒に暮らしたいと話した。
誰と?と母は聞いてきたけど、義父が来たら嫌だから言えないと答えた。
まあ、友達が男なんて言ったら反対されそうだし、いや面食いの母なら逆に賛成してくれそうな気もするけど、やっぱり秘密にしたい。
嘉見くんに極力迷惑かけたくないし。
まあ、一緒に暮らすだけでも迷惑かけてるけど。
「私、高校卒業したら遠くの学校に進学するつもりだったんだ。それが2年早く来たと思って、私のことは諦めてください」
私は真剣に頭を下げた。
「諦めるって日本語おかしいでしょ。私は母親よ
。学費出してるの誰だと思ってるの?学費は出せ?そのお友達と一緒に暮らすにもお金はかかるわよね?我儘言わないで帰ってきなさい」
我儘。確かに我儘だけど、それはお母さんだって同じじゃない。
「じゃあ、今すぐ選んで。私か義父か」
「・・・何言って?」
「お母さんが私を選ぶなら義父を追い出して。義父を選ぶなら私を自由にさせて。施設に入れるのだってお金はかかるでしょう。施設に入れたと思って学費と生活費出して」
私の真剣な目に、母の笑顔が消えた。
「なんでそんなこと言うの?私はどっちも大切なの。3人で暮らしたいのに」
「お母さん、人生でどうしても選択しなきゃいけないときってあるよね。どっちもなんて許されない時もあるでしょ。私は義父を許すつもりはない。それに、友達はお金は要らないって言ってくれてるんだ。義父と再婚して家買ってローンあるし、お金かかるでしょ。私が居なくなったら少しは楽になるんじゃない?」
「・・・子どもにお金の心配されるなんて複雑ね。お金のこと言ったのは、ああ言えば帰ってくるかと思ったからなのよ。母さんは3人で暮らせば、なんとかなるって信じていたけど、無理そうね。学費は出すわ。それぐらいの蓄えはちゃんとしてるのよ」
「・・・ありがとう」
まさか、母が折れるとは思ってなかった。
「その友達は信用できる人?向こうの家族の許可はとれてるの?」
「うん、友達は優しいし、信用できるよ。向こうの家族の許可もとれてるよ」
・・・嘘だし、許可はとれてないけど。
住人の嘉見くんの許可はもらっているしいいよね?
____ってか、私嘉見くんの親とかよくわからないや。
なんで一人暮らししてるのかも聞いたことないし。
「たまには2人でこうして外で食事しましょう。たまには話聞かせて。何かあったら、すぐ連絡して。生活費も少しだけど渡すわ。お友達にちゃんと渡してね」
急遽な話だったからだろう。
財布から入っているだろうお札を全部出して、私に渡してくれた。
「ありがとう」
母はやっぱり親なんだなと、しみじみ思った。
私のこと考えてくれてる。
心配してくれている。
普段は母は我が儘で私は母に振り回されているなと思うことも沢山あったのに、やっぱり母は偉大なんだなと思った。




