10、小悪魔の涙
朝、最終兵器のお礼を言いに修ちゃんのクラスに向かった。
朝早いせいか、教室にはほとんど生徒がいなくて入りやすかったため、修ちゃんに近づいたら、
「___噂どおりの小悪魔だと思うけど、俺、ああいうの好きじゃない___」
という嘉見くんの声がした。
頭がぐらぐらする。
私嘉見くんには好かれているとは思っていなかったけど、想像以上に嫌われていたことを知った。
とにかく、謝らなきゃ。
私は必死に謝ったつもりだけど、うまく言えていたかわからない。
とにかく、ここから離れたかった。
これ以上ここにいたら、泣く。
涙が堪えきれそうにない。
私は走った。
一人で泣いても誰にも気づかれそうにない場所。
思いついたのは、体育館裏だった。
ここは死角で、誰も通らない。
ここなら誰も気づかない。
私は、体育座りで踞って泣いた。
涙は溢れて止まらなかった。
しばらくして、
「羽田野」
私を呼ぶ嘉見くんの声がした。
嘉見くんが追いかけてきてくれたのは嬉しいけど、こんなひどい顔とてもじゃないけど見せられない。
そして、気づいた。
今、羽田野って言った?
私の名字知ってたんだ。
いつもあんたとかお前とかだったから、私のこと顔は知っているけど、名字は知らないと思っていた。
嘉見くんは謝ってきたけど、私は別に怒ってはいない。
私は悲しくて勝手に泣いてるだけだ。
嘉見くんは何も悪くないのに。
今までだって、ちょっとした誤解や、なんか合わないとかで、言い合いになって、嫌いって面と向かって言われたことはある。
その時も、ショックを受けたり、悲しいと思ったけど、素直に受け止めた。
どうにもならないことは、世の中にあると。
でも、今は衝撃が大きく、涙が止まらない。
原因はわかる。
嘉見くんだからだ。
嘉見くんは私の中で特別だから_____。
受験の時、みんなただ通り過ぎていくだけだったのに、ただ1人優しくしてくれた。
私の事情聞いて、泊めてくれた。
私の事考えて、朝早く1人で家を出る優しさ。
私は馬鹿だから、言われなかったらわからなかった。
御飯だって、美味しいって食べてくれた。
一緒に食べて、一緒に美味しいねって言い合えるのが嬉しかった。
ほんの数日だけど、嬉しくて、楽しかった。
嘉見くんが、必死に謝るのが聞こえる。
私なんかに必死になるのが嬉しかった。
授業が終わったチャイムが鳴り響いた。
嘉見くんに始まるから戻ってと言ったのに、嘉見くんは戻らなかった。
黙って泣き止むまで隣に居てくれた。
そして、話をしてくれた。
修ちゃんとの昔話や、最近読んだ本の話や面白い動物の動画を見た話。
今まで積極的に話そうとしなかった嘉見くんが頑張って私に話しているのが新鮮だった。
そして、気づいたらいつの間にか笑っていたのだった。
私は嘉見くんにお願いすることにした。
名字で呼んでほしいと。
あんたやお前でもわかるけど、あんたやお前よりは羽田野がいい。
私のこと知らないのかと思ってたと言ったからだろう。
「羽田野那奈だろ。羽田野は小悪魔ちゃんの噂で有名なんだぜ」
と鮮やかに笑った。
嘉見くんの笑顔にドキンと胸が高鳴る。
私に笑顔向けてくれたのは、初めてかもしれない。
那奈って言ってくれた名前が特別に思えて、小悪魔の噂なんか最悪だと思っていたのに、初めて感謝した。
そして、改めて思った。
イケメンの笑顔の破壊力は凄いと。
だって、さっきからドキドキが止まらないもん。




