《はじまり》
僕の出発点となった今日この日を絶対に忘れない。
20××年、春。
長期休みを経て、今日から高校2年生。
最寄り駅から校舎まで、約10分の道を、
同じ制服に身を包んでいる生徒の大軍と進む。
真新しい制服に身を包み、
まだ少しあどけなさの残る生徒は今年入学した1年生であろう。
そこでふと、自分、美来勇也が、
1年だった頃のことを思い出した。
「バンド組もうよ!」
あれは、窓際の1番裏の自分の席に座っていた時、
確かお昼の時間になってすぐだった。
多方一緒にいることが多くなった、
源 春輝の唐突な一言だった。
「ふあ?」
理解に時間がかかり、出てきた一言がとても間抜けたものだった。
「いやぁ、新入生親睦会したじゃん?
その時の、勇也歌すごくうまかったから、
ボーカルやらないかなって!」
言いながら、春輝は前の椅子に後ろ向きで腰掛けた。
「ちょぢょちょまって。僕そんなに上手じゃないし、
ボーカルなんて! そんな……。」
「大丈夫。大丈夫。俺経験者だから! ね!」
「ね!」と言われても。
春輝は、皆に平等に優しく、清潔感漂う風貌に、
高身長イケメンというスペックの持ち主だった。
多くの女子を虜にしたであろう爽やかな笑顔を向けられ、
僕はたじろいだ。
「ね。なんて言われても、僕には無理だよ。」
「何話してるの~?」
教室の後ろ側のドアから、赤石 歩夢が、
大きめのお弁当箱を持ってやってきた。
手に、ペットボトルのお茶が握られていたので、
自販機に行ってきたのであろう。
そのまま空いている隣の席に腰掛けた。
「バンド組まないって話してたところだよ。」
「ああ、その話か。」
「僕には無理だって、歩夢からも言ってよ。」
「え~?俺は賛成。だし、俺ベースやるから。キラン。」
歩夢は、ウインクして顔の付近でピースした。
こいつも、引き入れられたあとだったか~。
「そもそも2人は楽器なんて、できるの?」
「うん。中学の時同じバンドで演奏してたからね。」
ぽっちゃり体型の歩夢は、
ふくよかなほっぺにお弁当を詰め込みながら、話した。
歩夢の、ゆるキャラのようなほのぼの感に、
ベース姿は少し想像つかない。
「中学でバンドって、すごいね。」
「そんなことない、そんなことない。
で、どうする?やる?やらない?」
「俺、結構勇也の歌声好きなんだけどなぁ。」
「なになに?なんの話し!?」
同じクラスの福井 華が、近づいてきた。
「バンドやらない?って、勇也に誘ってるんだよ。」
「へぇ!いいじゃん!もちろんボーカルだよね?
私、勇也くんの歌すごく上手って思ったよ!」
福井さんにそこまで言われて、少し耳が暑くなった。
「そっそこまで言われたら…。」
照れた拍子に、許可してしまった。
自分のちょろさを疑った。
「おっ、いいねぇ。じゃあ決まり!」
春輝と歩夢が、手をグーにして喜んだ。
そして俺達は、まだなも無きバンドを結成した。
でもやっぱり、
僕なんかがバンドなんて。
ましてや、ボーカルだなんて。
不安しかないこの状況。
ここから僕は変わっていく