第一節
照り付ける太陽に煌々とした日差し、じりじりと暑い夏を平凡と迎えた。
こんな風に何もせずとも汗が流れ出るような季節は嫌いなので、さっさと家に帰り残りの一日は冷房の効いた部屋で寝ていたいと考えながらバス停に向かい足を呆然と進めていた。
すると突然、後ろから元気の良い女の声が僕の名前を呼んだ、振り返ると背の高いショートカットの女性がゆっくりと歩く姿があった、立ち止まっている僕に肩をぶつけると一緒に帰ろうと誘われたので首を縦に振って答える。
僕はバス通行なのに対して彼女は自転車、一緒に帰るときは途中まで二人とも歩いて帰るのだが、校門を出ようとした時に、携帯を弄っていた彼女に再び呼び止められた。
「どうしたの?ほのか」
「ちょっとまってて、もうひとり来るから」
すると茶色いスクールバックを背負った背の低い女の子が髪を乱しながら走ってきた。
背が低く、少し微笑みが漏れた表情でそのままでんぐり返しをしそうな勢いで二、三回お辞儀をした。
「はあい、えっと、カエデです、どうも」
なにか嬉しそうに笑いながら、それでもまだ恥ずかしくよそよそしそうに名前を教えて貰った、表情が喜びで固まったまま歩き始める。
ほのかが駐輪時に自転車を取りに行き、僕達は校門を出て先に歩き、バス停の看板が見え始めた頃に青い自転車を引くほのかが走って追いついてきた。
「バス、何分くらいに来る?」
言われてからバスの時刻表と携帯の画面を照らし合わせて時間を確かめる。
「えっと、今からだとあと十分くらいだね」
そう言うとすぐさまサドルに乗って「んじゃ、先にいくね」と言い残して颯爽と自転車をこぎ、僕達をおいて消えていった。
まだ日が出ていて暑さをふつふつと感じながらバスを待っているが、夏の暑さやバスの待ち時間以上に頭の中は彼女のことでいっぱいだった。
「……なんか、行っちゃったね」
沈黙を破って先に声を出したのは彼女の方だった。最初にぎこちなく、空白の時間があって、それを吹き飛ばすように二声は大きくなった。僕は驚き情けない声が出る
「あ、ううん」
彼女の表情や背丈の差、向いてる方向彼女のことでいっぱいいっぱいだったが、一瞬で頭が真っ白になる。でも今はとにかく、話を続けたいそう思ったが、まるで単語の一つ一つが宙に浮いてるみたいで繋ぎ合わせられない。自分だけが感じてるかも知れない気まずさを埋めるように、待ちに待ったバスが到着した。結局、まともな返事ができなかった。
運賃を払って奥の方に進むと、ふいに機械音が耳をさした。振り返ると彼女は入り口の方で何か慌てていた。手に持っているPASMOをポケットにしまいバックのチャックを開けて何かを必死に探している。そっか、残高が無かったので急いで財布を探しているんだ。
足を戻して彼女の分の運賃を払った。
「あ、すみません、どうも」
「うん」
再び奥へ進む途中で彼女が「お金返すね」と言って手を伸ばしてお金を渡してきた。僕はお金を受け取ってポケットにしまい足を進めるが、椅子の前で少し退いてしまう。
「えっと、隣り、座っていい?」
「うん、いいよ!どうぞ!」
もどかしい、表情がころころ変わる様で、いくら考えてもわからない気持ちを感じた。
バスの席で隣に座り、誰よりも近くにいるからこそ誰よりも距離を気にしていた。終点に着くまでの二十分間、会話もなしに進展がなかったが、そのなかで、彼女の香りと一瞬だけ見えた横顔がなぜだか脳裏に焼き付いて離れない。
バスから降りて少し歩いた所で一度立ち止まった。コレは流石に何か喋らないと不味い。
「おれ、バス乗り継ぎだから。君は電車?」
「うん、電車…なんか、お腹すいちゃった。良かったら何か食べていかない?」
その言葉を聞いた瞬間、緊張が最大まで達したのが分かった。質問に対しての返答のその後があまりに予想外だったので気が動転しそうになった。確かに感じた爆発しそうな喜楽を押さえ込んで、気持ちを整理した。その言葉を言ってくれたこと、誘ってくれたことは嬉しいが、バス賃は出したが外食をする様な持ち合わせはなかった。
「ごめんね、今あんまりお金無くて」
「ぅ…あ、じゃあさ。連絡先交換しない?」
「えあ、いいよ」
緊張しつつも連絡先を交換すると、少し名残惜しげに手を振り駅の方に向かって行った、食事の誘いを断った瞬間、彼女が一瞬切ない表情をしていた。
少し憂鬱な気分のままバスに乗る、すると直ぐに彼女からメッセージが来た。
「今日はありがとう」「また今度ご飯行こうね!」
その文章を見るとなんだか嬉しくなり、降り出した雨に気づいたのはバスを降りてからだった。
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修正入り