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貝殻別荘

短いクトルゥーショートショート。


「騙された」

 それが不動産屋を営む僕が現地を見た感想だ。

 先日父が他界した。遺産としてかなり広い海辺の土地をもらったのだが、何もないのだ。原野商法にしか使えない。

 観光名所に美食どころかそもそも街すらない。近所に小さな漁港はあるが、採れる量もしれている。せいぜい牡蠣とサンマにアジ程度だ。

 まず都会者が喜ぶ見所とレストラン造りから始めないと駄目なのだ。幸い海は綺麗だし、スキューバダイビングとサーフィンには向いている。宿泊施設さえ作れば何とかなりそうだ。

 事務所に帰り、デザイナーに宿のデザインを出してもらったのだが、駄目だ。安く作れる宿はもどこかで見たような絵ばかりで、斬新なデザインは施工費が高すぎる。

「うーん」

 事務所の椅子に座りながら悩んでいると、ふと先週パーティーで訪れた同業者の友人の別荘を思い出した。真珠色をした貝殻をモチーフにした見たことのない別荘だった。あれをデザインした人を紹介してもらおうと思い、メールを送った。5分後に返信が帰ってきた。

「あの別荘は自分で作ったんだ。コンクリートの基礎だけは業者に頼んだけどね」

 驚きだ。彼にそんな才能があるとは知らなかった。早速デザインを依頼するメールを送った。

「うーん、作ったのは僕だけどデザインは僕じゃないんだよね。直接会わないと分からないだろうな。詳しい作り方を教えてあげるから家においでよ。用意して待っているから」

 営業用のワゴン車を飛ばして友人の自宅に向かう。庭に車を止めて玄関のベルを鳴らすとすぐに出てきた。

「あの別荘のデザインと施工は機械がやったんだ。裏のガレージにしまってあるから見に行こう」

 ガレージのシャッターを開けると、ガソリン式の発電機と黒色をした縦横1メートルほどの箱形の機械が置いてあった。何かを入れるじょうご型の穴と型の古いスキャナーと長いホースにつないだ大型の水鉄砲のような物が飛び出している。

「間取りだけは僕が考えたんだけどね。実際に作ったのはこの機械さ」

「いったい何をする機械なんだ?」

「簡単に言えば貝の機械化商品といったところかな。貝は食物からカルシウムを摂取して殻を作るだろ。あれを応用して人間が住める家を作るのさ」

「どうやって使うんだ?」

「まず、間取りを書いた紙を機械に読み込ませる。つぎに材料になるカルシウムをじょうごに注いでやる。後は電源を入れれば機械の中で分解されたカルシウムが管から出てきて、家の出来上がりさ。立体を出力する3Dプリンターを連想してもらえればいい」

「カルシウムは何でもいいのか?」

「安く上げたいならコンクリートだろうけど、君も不動産屋だから知っているでしょ?コンクリート製の家は夏は熱がこもるし、冬は暖まりにくく、冷めやすい。お勧めは海で採れる貝の貝殻だね」

「デザインも機械がやるのか?」

「もちろん。人間にはデザインできない家ができあがるよ。強度も建築基準法に違反しない強度がある」

「この機械しばらく貸してもらえないか?」

「いいよ。買ったはいいけど、別荘一軒作るのに使っただけでもてあましていたんだ」

 早速車に積み込んで持ち帰り、知り合いのコンクリート業者に基礎工事の発注をする。

 何もないあの土地に旅館と別荘を大量に作って売ればいいのだ。しかも材料は漁港でタダで手に入るし、大工に支払う金も節約できる。

 旅館を5軒と別荘を20軒にレストランを1軒作るのに6ヶ月かかった。確かに言われたとおりに真珠色の建物ができあがる。屋根はサザエの貝殻らしい岩のようなデザインだ。

 地元の漁港にいた主婦を旅館の経営者と従業員にするのと、別荘の管理人だけは雇ったが、建築費がタダなので安いものだ。テレビと新聞に広告をうち、買い手が来るのを待つ。

 1ヶ月後。

「あのー、テレビで見て海の近い素敵な別荘をお売りいただける事務所はここと聞いたのですが?」

「いらっしゃいませ。お売りいたしますよ」

 一人目の買い手が来た。アルマーニのスーツを着てトランクを持った金持ちそうな男だ。

「私は海が大好きなんですよ。テレビで見てデザインに一目惚れしましてね。ちょうどスキューバダイビングに使える泊まり場所を探していたのですよ」

 そう言いながら男はトランクを開けた。中には札束がぎっしり詰まっている。

「ぼやぼやしていて先に買われてはたまったものではあえませんからね。現金一括払いで支払いますよ」

「ありがとうございます。では契約書にサインをしていただく手続きだけ済ませていただければあの別荘はお客様のものです」

 ずいぶん金払いのいいお客だ。契約書とボールペンと朱肉を用意する。

「では契約書にサインとハンコだけをお願いいたします」

「はい。これでいいですか?」

「結構でございます。毎度ありがとうございました」

 お客が帰るのを待っていそいそと札束を金庫にしまう。そういえば契約書にサインする時に袖口から深緑色をしたタコの触手のようなものが見えたし、ずいぶん磯臭い客だったが、海が好きなだけにタコをペットにしているのだろう。

邪神も別荘は欲しい。

どうせ珊瑚やら真珠やら海の中では使い道のない財宝はたんまり持っているし。

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