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スライム飼育日記。

2018.08.15 「スライム観察日記。」から「スライム飼育日記。」に変更。




 7月20日――。


 夏休みの宿題に自由研究があるので、今日からスライムの飼育日記を付ける事にする。


 スライムは昨日学校の前で、一匹380円で売っていたけど、ボクはお金を持っていなかったので買えなかった。それでもジッとスライムを売っていたオジサンが「他の子にはナイショな」と言ってビー玉くらいの大きさで青く透き通ったスライムを一匹タダでくれた。そのスライムは指で突付くとまるでグミみたいにグニグニした感触だった。


 「ありがとう」とお礼を言って、暑いのに全身黒尽くめの服を着たオジサンに、スライムは何を食べるのか聞いてみたら何でも食べると言われたので、試しに冷蔵庫に入ってたニンジンとピーマンを上げてみる。



 モリモリモリ……。



 スライムはニンジンとピーマンをよく食べた。




 7月21日――。


 昨日はお母さんに冷蔵庫の物を勝手に食べるなと投げ飛ばされた。なので、今日はスライムを外に連れ出す事にする。一体何を食べさせよう。


 公園まで来ると草がいっぱい生えているのに気が付いた。そうだ! この草を食べさせよう!


 ボクは虫かごに入れたピンポン玉より少し大きい、黄緑色に透き通ったスライムにむしった草を近付ける。



 モリモリモリ……。



 スライムは草をよく食べた。




 7月22日――。


 昨日は知らないオジサンに「芝生にイタズラするんじゃない!」と拳骨を食らった。イタズラなんてしてないのに……。なので、今日は近くの河原へやって来た。ここにだっていっぱい草は生えている。


 ボクは虫かごに入れた野球球くらいの大きさの、緑色に透き通ったスライムを取り出して草むらの側に置いてやる。


 バウワウッ バウッッ


 突然の事にビックリしてその鳴き声の方を振り向くと、そこには一匹のドーベルマンがボクとスライムに向かって吠え立てて来ていた。


 ボクはその犬を知っている。近所の家で飼われているバカ犬だ。飼い主が首輪をしないので、たまに抜け出しては誰彼かまわず吠えて噛み付いてくる。ボクは前にも押し倒されて噛まれたからよく知っている。飼い主に文句言おうにも、その家のどら息子がボーソー族? とつながっているだとか、父親がこの街で強い権力をショーアク? しているとかで、泣き寝入り? をするしか無かった。


 そのバカ犬が、けたたましく吠え立て襲い掛かってきた。そしてボク……の側にいたスライムに噛み付いた。



 モリモリモリ……。



 その日、ボクは泣きながらスライムと一緒に家に帰った。




 7月27日――。


 河原に向かう途中の電信柱に迷い犬の張り紙が貼られていた。


 ランドセルから出した、ドッジボールくらいの赤黒く透き通ったスライムは今日も食欲が無いのか河原に生えた草を食べてくれない。




 8月1日――。


 今日も河原でスライムに餌をやろうとしていると、嫌な奴に会った。


 長瀬 大助。


 クラスではガキ大将の磯野 一の太鼓持ちをして強い者に媚びへつらい、何故かボクには強気で陰湿にイジメてくる卑怯者だ。


 今日は大助一人のようで、ボクに向かってその辺に転がっている石を投げて来た。はじめは無視しようかと思ったけど幾つも投げて来た内の一つが頭に当たり「やった! 百万てぇ〜ん」と小躍りする姿を目にしたら思わず当てられた石を投げ返していた。


 ビュッと耳元を掠めると大助が「ばい菌のクセに生意気だぁ!」と石を握り込んで殴りかかってきた。


 ボクも負けじと迎え討つ。揉みくちゃになってゴロゴロと転がり回る。


 気付いたら真っ赤になってた。手も顔も服も大助も――。



 モリモリモリ……。



 一度川に入ってからボクはスライムと一緒に家に帰った。




 8月4日――。


 今日家に大助のお母さんがやって来た。大助が3日前から家に帰って来ない。何か知ってる事はないか? との事だったのでボクは「知らない」と答えると、大助のお母さんは肩を落として帰っていった。


 中型犬くらいの大きさになった赤黒く濁ったボクのスライムは今日も元気だ。




 8月11日――。


 お母さんにボクがスライムを飼っている事がバレた。


 お母さんがボクに「捨ててこい」と言った。ボクは「イヤだ」と言った。蹴り飛ばされた。

 お母さんがボクの襟首を掴んで吊し上げ、もう一度ゆっくりと「捨・て・て・こ・い」と言った。


 イヤだ。このスライムはボクのスライムだ!


 お風呂に沈められたって、お湯を掛けられたって、絶対に捨てたりなんてするもんかっ!



 モリモリモリ……。



 気が付いたらお母さんはどこにも居なかった。




 8月12日――。


 今日は久し振りにお父さんが帰ってきた。お父さんは社畜と言う立派な仕事をしているらしいので、家に帰ってこれるのは1か月に1度か2度しか無いのだと前に聞かされた事があった。


 お父さんがボクに「美佐江は?」と聞いてくる。ボクは「知らない」と答える。お父さんは首を傾げながら家の中を探し始める。


 お父さんの探索がボクの部屋のドアの前まできた時、ボクは「そこにはお母さんはいない」と言った。お父さんは一度ボクへ振り返ったが、それでもドアノブを回してドアを開ける。


 そこにはボクと同じ大きさの赤黒いスライムがいた。


 お父さんが何かを叫んだ。ボクに掴み掛かってくる。


 怖い。何を言ってるのか解らない。恐いよ……。



 モリモリモリ……。






 8月18日――。


 今日はお父さんの会社の人が訪ねてきた。会社の人が「お父さんが会社に出社して来ないけど何か知らないか?」と聞いてきたので、ボクは「知らない」と答えた。


 会社の人は首をひねりながら帰っていった。


 ボクより大きくなった、どす黒いスライムは今日も元気だ。




 8月23日――。


 スライムが常に僕の後ろをノソノソと付いてくるようになった。




 8月25日――。


 ボクは何か間違ったんだろうか……。




 8月27日――。


 タスケ――。



 モリモリモリ……。





 モリモリ…………。





 モリ………………。









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― 新着の感想 ―
[良い点] お疲れさまでした なるべくしてなってしまった 周りの人の無関心が生んだ悲劇というべきでしょうか
[一言] ホラーかっ!! ホラーだった!?
[一言] スライムに生肉の味を覚えさせたらあかんのやなって
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